海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
楽しみにしていた予定や、あてにしていたお金が、ふいに「これはもう無理だな」と手からこぼれ落ちていく――そんな瞬間が、暮らしの中には時々あります。惜しいけれど、しかたない。そう腹をくくる場面です。
そんなあきらめの気持ちを映す「kiss ~ goodbye」を、『フレンズ』シーズン4第24話の中盤、両家の費用交渉を仲裁するロスが、義父となるウォルサム氏に妥協を迫るシーンから、一緒に見ていきましょう。
「kiss ~ goodbye」の意味とニュアンス
kiss ~ goodbye
意味:〜を諦める。〜はもう手に入らないものとして受け入れる
kiss ~ goodbye(kiss something goodbye)は、直訳すれば「〜にキスして別れを告げる」。そこから転じて、もう戻ってこない・手に入らないものに対して、あきらめの気持ちを込めて見切りをつけることを表します。You can kiss X goodbye. の形で「Xはもう諦めな」と相手に告げる使い方が定番です。
この表現には、しばしば皮肉やユーモアがにじみます。深刻な損失であっても、大げさに嘆くのではなく、「はい、これでお別れね」と一言で軽く片づけるような、乾いた可笑しみを帯びるのが特徴です。対象はお金・チャンス・休暇・睡眠など幅広く、抽象的なもの(評判・自由など)にも使えます。失われそうなものを、半ば冗談めかして手放すときの一言です。
【ここがポイント!】
- 大切なものへ「別れのキス」を送る=あきらめる、という比喩が核になる一言
- You can kiss X goodbye. で「Xはもう諦めな」と告げる形が定番
- 深刻な損失も軽く片づける、皮肉やユーモアがにじむ表現
『フレンズ』S04E24のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
結婚費用をめぐって泥沼化した両家の交渉を、ロスが板挟みになりながら仲裁します。まるで外交か不動産取引のように、バーベキュー設備・ガゼボ(庭のあずまや)・芝生・庭の装飾品を一つずつ削っては譲り、落としどころを探る。そのやり取りの中で、ロスがウォルサム氏に現実的な妥協を突きつけます。
Ross: Look, face it: my father is not going to pay for the built-in barbecue and believe me, you can kiss your gazebo good-bye. Now, I might be able to get you the new lawn.
(いいですか、現実を見てください。父はビルトインのバーベキュー設備には金を出しません。それに、正直言って、あのガゼボは諦めたほうがいい。ただ、新しい芝生ならなんとかできるかもしれません。)Mr. Waltham: Ah, then you have to give us the lawn ornaments.
(ふむ、では、庭の装飾品はこちらに譲ってもらわねば。)Ross: I go back there with lawn ornaments, he’s going to laugh in my face.
(庭の装飾品なんか持って戻ったら、父に鼻で笑われますよ。)Mrs. Waltham: Will you say something, Steven?! Please.
(あなたも何か言ったらどうなの、スティーブン?! お願いだから。)Mr. Waltham: Don’t take that tone with me. All-all right, you can.
(そんな口のきき方はしないでくれ。……い、いや、やっぱりいいよ。)Friends Season4 Episode24(The One with Ross’s Wedding: Part 2)
シーン解説と心理考察
もはや息子でも婿でもなく、一人の「調停人」として振る舞うロスの姿が、この場面ににじみます。built-in barbecue、gazebo、lawn、lawn ornaments と、具体的な品目を一つずつ天秤にかける物言いが、交渉のリアルな手触りを会話の温度に変えています。
you can kiss your gazebo good-bye という一言には、相手の期待をやんわり、しかしはっきりと断つ現実感が表れています。愛する二人の結婚のために、両家のプライドと財布のあいだで必死に均衡点を探る――そのけなげさが、コメディでありながらどこか痛々しくも映ります。譲れるものと譲れないものを冷静に仕分けるロスの態度が、めでたいはずの式の直前に繰り広げられる、大人げない駆け引きをやわらかく見せています。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
大切なものに向かって手を振り、投げキッスを送る――ただし、また会える相手にではなく、もう二度と手に入らないものへの別れのキス。この絵を思い浮かべると、kiss ~ goodbye が持つ「あきらめ」のニュアンスがすっと入ってきます。
このシーンで、ロスがウォルサム氏に「あのガゼボはもう諦めたほうがいい」と告げる場面を重ねてみてください。惜しくても、手放すと決めたものに軽く別れを告げる。その割り切りの身ぶりごと覚えておくと、失うものへの現実的な見切りとして、この表現が記憶に定着します。
例文で覚える「kiss ~ goodbye」
失われそうなものを半ば冗談めかして手放す場面で活躍します。仕事から日常まで、あきらめの気配がにじむ3つの例文で感覚をつかみましょう。
If you miss this deadline, you can kiss your bonus goodbye.
(この締め切りを逃したら、ボーナスは諦めるんだね。)
結果の重大さを念押しする場面です。you can kiss X goodbye の形で、相手に「もう手に入らないよ」と軽く突きつけています。
Once you have kids, you can kiss your weekends goodbye.
(子どもができたら、週末は諦めることになるよ。)
先輩が冗談交じりに忠告する場面です。深刻な変化も、この表現だと軽やかに、少し笑いを含んで伝えられます。
A: I was really counting on that promotion.
B: After the merger fell through? You can kiss that goodbye.
(A:あの昇進、本気であてにしてたんだ。)
(B:合併が流れたあとで? それはもう諦めたほうがいいよ。)
期待していたことが叶わなくなったと知らせる会話です。that で受けて、直前の話題をまるごと「お別れ」にできます。
あわせて覚えたい関連表現
say goodbye to
(〜に別れを告げる・〜を諦める)
意味はほぼ重なりますが、kiss goodbye のほうが「キス」の分だけ感情や皮肉のニュアンスが濃くなります。say goodbye to はより中立的で、淡々とした別れにも使えます。
give up on
(〜を諦める・見切りをつける)
努力や期待を「途中でやめる」という意味合いです。kiss ~ goodbye が「もう戻らないと受け入れる」結果の側に焦点を当てるのに対し、give up on は自分が手を引く行為に焦点があります。
write off
(〜を見込みなしと見切る・帳消しにする)
損失をクールに処理するニュアンスです。kiss ~ goodbye はもう少し口語的で、皮肉やユーモアが乗りやすいのに対し、write off はビジネスの冷静な判断として響きます。
Note|別れの投げキッスから生まれた「あきらめ」
kiss ~ goodbye がなぜ「あきらめる」という意味になるのか。その背景には、欧米の別れの習慣があります。
欧米では、去っていく相手に向かって手のひらにキスをして送る blow a kiss(投げキッス)という仕草が、古くから親しまれてきました。駅のホームや港で、遠ざかる人へ投げキッスを送る――映画のワンシーンでもおなじみの光景です。この「別れ際のキス」というイメージが言葉に取り込まれ、kiss goodbye は「別れを告げる」という意味を持つようになりました。やがてその対象が、人から物事や機会へと広がっていきます。もう戻ってこないもの、手が届かなくなったものに対して「別れのキスを送る」=あきらめる、という比喩へと発展したわけです。興味深いのは、この表現がしばしば皮肉のトーンをまとう点です。本来は情のこもった別れの仕草だったものが、「はい、これでおしまいね」という乾いた見切りの言葉に転じている。愛情表現が、あきらめの決まり文句へと姿を変えたところに、言葉の面白さが表れています。
惜しいものに別れのキスを送る――その仕草を思い描くと、この表現の手ざわりが記憶に残ります。
まとめ|ロスの交渉から学ぶ「軽やかな見切り方」
kiss ~ goodbye は、もう戻ってこない・手に入らないものに対して、あきらめの気持ちを込めて見切りをつける表現です。You can kiss X goodbye. の形で「Xはもう諦めな」と告げる使い方が定番で、皮肉やユーモアがにじむのが持ち味です。
この表現を知っておくと、失われた物事を深刻に嘆くだけでなく、少し肩の力を抜いて受け止められるようになります。乾いた可笑しみとともに現実を手放す、そんな大人の言い回しです。
惜しいものにそっと別れを告げる一言として、あなたの表現の幅を広げてみてくださいね。


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