海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
気持ち悪い話や生々しい話を聞かされて、途中で「もう無理、これ以上は聞きたくない」と席を立ちたくなったことはありませんか。
そんな場面にぴったりの「have the stomach to」を、『メンタリスト』シーズン5第15話の冒頭、焼け焦げた遺体が見つかった豪邸で、鑑識担当のグロテスクな説明にうんざりした一言から、一緒に見ていきましょう。
「have the stomach to」の意味とニュアンス
have the stomach to
意味:〜する気力・胆力がある、〜に耐えられる
stomach は「胃」を意味する名詞ですが、この表現では「不快なことに耐える度量」という比喩として使われます。not have the stomach for(〜する気になれない)、turn one’s stomach(むかつかせる)など、stomach を使った表現には「精神的な耐性」を表すものが多く見られます。
have the stomach to は主に否定文や仮定法で使われる傾向があり、「もし〜がなければ、耐える気力があったのに」という、実際には耐えられなかった状況を表すのに向いています。to のあとには動詞の原形が続き、対象は残酷な描写・グロテスクな場面・気まずい対決など、精神的に踏みとどまる必要がある状況です。
日本語の「胃が痛い」がストレスの表現であるのに対し、この表現の stomach は「弱さ」ではなく「持ちこたえる力」を指す点が対照的です。
【ここがポイント!】
- 胃が「耐える力の器」であるというイメージが核になる表現
- 否定文・仮定法で「実は耐えられなかった」を表すのが定番
- 対象は残酷な描写やグロテスクな場面が多い、精神的な耐性の表現
『メンタリスト』S05E15のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
資産家の老婦人が全身を焼かれた状態で見つかった豪邸の書斎。鑑識担当が「人体の脂肪が電球にこびりついている」という生々しい説明を続けたことで、現場の空気が一気に重くなります。犯人の見当をめぐる会話の途中、リズボンがふと本音をこぼす場面です。
Lisbon: Oh, you think? Who’s the other person, huh? Why’d they kill her?
(へえ、そう思うの?もう一人は誰なのよ。なんで彼女を殺したわけ?)Lisbon: Well, you know, if you hadn’t mentioned the congealed human fat in the light bulbs I may have had the stomach to stick around and find out but I-I..
(そうね、電球にこびりついた人体脂肪の話さえ聞かなければ、もう少し粘って調べる気力もあったんだけど……)Jane: You’re a ghoul.
(君、悪趣味だよ)The Mentalist Season5 Episode15 (Red Lacquer Nail Polish)
シーン解説と心理考察
リズボンの一言には、仮定法特有の「本当はそうしたかったが、できなかった」というニュアンスがはっきり表れています。犯人像を絞り込む知的好奇心はあるものの、グロテスクな描写のせいでその気力が削られてしまった、という葛藤が短い言葉に凝縮されています。
興味深いのは、直前まで冷静に犯人の動機を推理していたリズボンが、ここで急に弱音めいた一言を挟む点です。捜査官としての合理性と、人間らしい生理的な嫌悪感がせめぎ合う瞬間が見どころと言えます。
ジェーンの「You’re a ghoul」という返しも軽妙です。本来なら耐えかねて当然の描写に対し、なおも「調べたかった」と漏らすリズボンの好奇心を、皮肉交じりにからかっているのが伝わってきます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
胃のあたりに重しを乗せられているところを思い浮かべてみてください。重しが軽ければ平気で前へ進めますが、重すぎると足が止まってしまいます。have the stomach to は、その重しに耐えられるかどうかを尋ねる表現です。
このシーンでリズボンが手放したのも、まさにその重しへの耐性でした。人体脂肪という重い話を聞いた瞬間、それまで持ちこたえていた気力がふっと抜けてしまう。その「抜ける」感覚とセットで覚えておくと、否定文で使われることが多い理由まで納得できます。
例文で覚える「have the stomach to」
多くの場合、否定文や仮定法とセットで使われる表現です。三つの場面で使い方の幅を見てみましょう。
I don’t have the stomach to watch horror movies anymore.
(もうホラー映画を観る気力がない)
友人との会話で、苦手なジャンルを伝える場面です。not have the stomach for/to は、日常会話でも気軽に使える定番の形です。
Not everyone has the stomach to work in the ER.
(誰もが救急救命室で働ける胆力を持っているわけではない)
厳しい職場環境について語る、少しフォーマルな文脈です。仕事の適性を語る際によく使われます。
A: Are you going to tell him the news yourself?
B: Honestly, I don’t think I have the stomach to do it.
(A:あの知らせ、自分で彼に伝えるの?)
(B:正直、そこまでの気力はないと思う)
気まずい報告を前にした、率直な弱音のやり取りです。to のあとに do it を置くだけで、直前の話題を受けて簡潔に返せます。
あわせて覚えたい関連表現
turn one’s stomach
(むかつかせる)
have the stomach to が「耐えられるか」を問うのに対し、こちらは対象そのものが不快感を引き起こすことを表します。原因と反応の向きが逆になる関係です。
can’t stand something
(〜に我慢ならない)
対象への強い嫌悪を表す点は共通しますが、stand は身体的な耐性より感情的な限界に重きが置かれます。より幅広い場面で使える汎用表現です。
stomach the idea of something
(〜という考えに耐える)
stomach を動詞として使う形で、to不定詞ではなく of で対象を受けます。同じ語幹から生まれた、行為よりも受け入れがたい「考え」に焦点を当てた言い方です。
Note|「勇気は胃にある」と考えていた時代の名残
英語には、感情や気力の宿る場所として内臓を持ち出す表現が数多く残っています。have the stomach to もその一つで、勇気や胆力が胃のあたりに宿るという古い身体観を背景に持っています。
この発想は現代の科学とも無関係ではありません。腸には約1億個ともいわれる神経細胞が集まっており、脳と腸が双方向に情報をやり取りしていることが研究で示されています。緊張すると「胃が痛くなる」、決断の前に「腹をくくる」といった感覚は、単なる比喩ではなく、実際に腸と脳が連動している結果だと考えられています。gut feeling(直感)という表現が今も生き残っているのは、この身体感覚が言語化しやすいものだったからでしょう。
have the stomach to が「意志の強さ」ではなく「胃の耐性」として語られるのも、この文脈で見るとうなずけます。頭で耐えようと決めても、体がついてこなければ意味がない。その体の限界を素直に認める言い方が、この表現の骨組みになっています。
意志より先に胃が音を上げる。そんな瞬間を経験したことがある人ほど、この表現の実感が湧くはずです。
まとめ|胃が語る「耐える力」
have the stomach to は、頭の強さではなく体の耐性を語る表現です。stomach という一語に「不快なことへの持ちこたえる力」という意味を持たせているからこそ、否定文で使うと「本当は耐えられなかった」という素直な弱音が自然に響きます。
グロテスクな描写、気まずい対決、覚悟の要る決断。人生には「頭では分かっていても体が拒否する」場面がいくつもあります。そんなとき、この一言があれば自分の限界を率直に、それでいて少しユーモラスに伝えられます。
無理をせず、自分の胃の声に耳を傾ける言い方として、表現の引き出しに加えてみてください。


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