海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
遅刻の言い訳を聞きながら、うなずきつつも内心では納得していない。そんな瞬間は日常にいくつもあります。相手の話に穴があると感じたとき、それをどう言葉にするかで、その場の空気は大きく変わります。
そんなときに使える「not buying it」を、『BONES』シーズン12第3話の終盤、取調室でブースが容疑者の説明を退けるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「not buying it」の意味とニュアンス
not buying it
意味:その話は信じない、真に受けない
buy には「買う」のほかに、相手の説明や主張を受け入れるという意味があります。話を商品に見立て、それを買うかどうかで信じるかどうかを表す言い方です。not buying it は、差し出されたその商品に代金を払う気はない、という宣言になります。
I don’t buy it と I’m not buying it は、どちらも「その話を信じない」と拒む言い方です。進行形は、いま目の前で差し出された説明への反応を感じさせやすい傾向がありますが、現在形を継続的立場、進行形を即時反応と機械的に分けることはできません。どちらを選ぶかは場面と話し手の調子にも左右されます。
事実関係の矛盾を指摘するのではなく、話し手の判断を前に出す言い方でもあります。そのぶん疑いの姿勢がはっきり伝わるため、相手との距離を測って使う必要があります。I’m sorry を前に置いて角を落とすのが、よく見られる工夫です。
【ここがポイント!】
- 相手の話を商品に見立て、代金を払わないことで不信を表す言い方
- 進行形は目の前の説明への反応を感じさせやすいが、現在形との境界は固定しないのがポイント
- 疑いがはっきり伝わるぶん、前置きで角を落とすと使いやすくなります
『BONES』S12E03のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
被害者の骨粗鬆症の薬をネット上で転売していたのが、同じ施設で暮らす高齢の男だと判明します。取調室に呼ばれた彼は、被害者本人から金が必要だと頼まれて売っただけだと説明します。なぜ自分に頼んだのかとブースが踏み込むと、ルーファスは自分が裏の世界に通じているからだと主張します。ブースが聞き返したところで、その自己像を念押しする返答が飛び出します。
Rufus: Yeah. I’m very, very street.
(ああ。俺はかなり、かなり通じている。)Booth: Yeah, no, I’m sorry. I’m not buying it. Felbeck needed that medication. His bones were turning to dust without it.
(いや、悪いが信じられないね。フェルベックにはあの薬が必要だった。飲まなければ骨が砂みたいに崩れていくんだ。)BONES Season12 Episode3 (老兵は死なず)
シーン解説と心理考察
八十代の男が I’m very, very street と胸を張る。この一言だけで場の可笑しみが立ち上がります。しかも本人はいたって真剣で、裏社会に通じているという自己像に誇りすら見せています。
ところがブースは笑いません。彼はすでに検死の結果を知っています。薬を断てば骨は急速にもろくなる。相手の説明が事実なら、被害者は自分の体が崩れていくのを承知で薬を手放したことになります。
I’m not buying it という返しには、その重みが乗っています。単に相手を疑っているのではなく、話の軽さと事実の重さが釣り合っていないことを指摘している。直後に薬の必要性を突きつける流れが、その落差をはっきりさせています。笑い話として流せる場面ではないと、彼は知っていました。
『BONES』流・覚え方のコツ
店先で商品を差し出されている情景を思い浮かべてみると、この表現の仕組みが掴めます。売り手は品質を熱心に説明する。けれどこちらは手に取らず、財布も開かない。買わないという選択が、そのまま「その話を受け取らない」という意味になります。
劇中のルーファスは、自分の物語を売り込んでいました。裏の世界に通じた男という自己像を、取調室のテーブルに商品として並べてみせる。ブースは値札を一瞥して、代金を払いませんでした。
相手の言葉を売り物として眺め、財布を閉じたままでいる自分の姿。それを思い出せば、buy がなぜ「信じる」になるのかが感覚として残ります。
例文で覚える「not buying it」
進行形が会話で生む反応の感じと、目的語の置き方に注目しながら見ていきましょう。
He said the traffic was bad, but I’m not buying it.
(渋滞がひどかったと言っていたけれど、信じていない。)
遅刻の言い訳を疑う場面です。but でつなぐと、聞いたうえで納得していないという流れが自然に出ます。
The committee wasn’t buying the explanation we gave them.
(委員会は、こちらの説明を受け入れませんでした。)
提出した説明が通らなかったと報告する場面です。it の代わりに具体的な名詞を置けます。
A: I swear I was going to tell you tomorrow.
B: Nice try, but I’m not buying it.
(A:明日には話すつもりだったんだ、本当に。)
(B:いい言い訳だけど、信じないよ。)
後出しの弁解を軽くいなす会話です。Nice try と組むと、厳しく問い詰めるというより軽口の調子になります。
あわせて覚えたい関連表現
I don’t buy it
(その話は信じない)
同じく「その話は信じない」と表せます。進行形は目の前の説明への反応を感じさせやすいものの、現在形もその場の拒否に使えるため、時間の幅だけで二分しません。
That doesn’t add up
(辻褄が合わない)
話の内部に矛盾があることを指摘する言い方で、相手を疑うというより数字や事実の不整合を示します。not buying it が話し手の判断を前に出すのに対して、こちらは分析的で角が立ちにくくなります。
fall for it
(まんまと信じる、引っかかる)
こちらは信じてしまった側を表します。I’m not falling for that の形にすれば、その手には乗らないという拒絶になり、not buying it に近い働きをします。
Note|buy と sell ―― 商取引の言葉が説得の場に移るとき
buy が「信じる」を意味するのは、英語を学ぶ側から見ると少し飛躍があるように感じられます。ところが、この語だけが特別なわけではありません。反対側の sell を見ると、対応関係がはっきりします。
sell someone on an idea といえば、ある考えを相手に納得させることです。hard sell は押しの強い説得を指し、そこまでは売り込みたくないという場面で He didn’t try to hard-sell me のように使われます。企業や組織の文脈では buy-in が「関係者の賛同」を意味し、We need buy-in from the team といえば、チームの納得を取りつける必要があるという話になります。
並べてみると、説得という行為が丸ごと商取引の形で語られていることが見えてきます。話す側は売り、聞く側は買う。納得は取引の成立で、拒絶は買わないこと。not buying it は、この見取り図の中にきちんと収まっている一言です。
日本語では「話を信じる」という意味で「話を買う」と言うのは一般的ではなく、「乗る」「真に受ける」といった別の比喩がよく使われます。同じ場面を、英語は市場のやりとりとして、日本語は身体の動きとして描きやすい。この差に気づくと、buy の意外な語義が孤立した暗記事項ではなくなります。
説得の場は、英語では小さな市場になっています。
まとめ|財布を開かないという返事
not buying it は、相手の話を商品に見立てて、その代金を払わないと告げる言い方です。事実の矛盾を突くのではなく、受け取らないという自分の判断を示します。
この一言を持っていると、疑いを短く伝えられるようになります。長々と反論を組み立てなくても、財布を開かないという一手で姿勢が伝わる。I’m sorry を添えれば角も取れます。
裏の世界に通じているという自己申告に、ブースは代金を払いませんでした。話の軽さと事実の重さが釣り合っていないと知っていたからです。受け取るかどうかを自分で決める言い方として、表現の引き出しに加えてみてください。


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