海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
しつこい相手や邪魔者に、ぴしゃりと「もう失せろ」と言ってやりたくなる——そんな場面が、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。
その気分にぴったりの「hit the bricks」を、『ビッグバン★セオリー』シーズン8第19話、バークレーへ向かう車中でレナードが探偵映画の口調を真似て軽口を叩くシーンから、一緒に見ていきましょう。
「hit the bricks」の意味とニュアンス
hit the bricks
意味:出ていけ、立ち去れ、(自分が)出かける
bricks は「レンガ」、ここではレンガ舗装の歩道、つまり「街路」を指します。hit the bricks は、その舗道を踏みつけて歩き出すイメージから、「外へ出る・立ち去る」を表す口語表現です。
命令形で相手に向けると「出ていけ・失せろ」と、追い払いの強い調子になります。一方、自分や仲間が主語のときは「そろそろ出かける・行く」という中立的な意味で使われます。古いハードボイルド映画や刑事ドラマを思わせる、ややレトロな響きを持つ言い回しで、教科書にはなかなか載らない表現です。労働運動の文脈では「ストライキに入る(街頭へ出る)」の意で使われることもあるとされます。
【ここがポイント!】
- レンガ舗装の道(bricks)を踏んで歩き去る、という絵が意味の核
- 相手に言えば「失せろ」、自分が主語なら「出かける」と向きで変わる一言
- 古い探偵映画を思わせるレトロな響きを楽しめるのがコツ
『ビッグバン★セオリー』S08E19のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
バークレーでの講演へ向かう車中、ホテルの部屋がまだ準備できていないかもしれないと案じるシェルドンに、レナードが軽口で応じます。ロビーで長居すると「ホテルの探偵」に怪しまれるのでは、というシェルドンの心配に、レナードがわざと古い探偵映画の口調で返すところに見どころがあります。
Sheldon: Aren’t you worried that sitting in the lobby for a long period of time might attract the attention of the hotel detective?
(ロビーに長いこと座ってたら、ホテルの探偵に目をつけられるんじゃないか?)Leonard: If we do, we’ll just tell him to hit the bricks, see?
(もしそうなったら、あいつには「失せろ」って言ってやればいいのさ、な?)Sheldon: Seems a little confrontational, but all right.
(ちょっと喧嘩腰な気もするけど、まあいいよ。)The Big Bang Theory Season8 Episode19(The Skywalker Incursion)
シーン解説と心理考察
ふだん気弱なレナードが、ここでは映画オタクらしく一瞬だけタフガイを気取り、hit the bricks や see? といった古い探偵映画調の言い回しで軽口を叩いているのが見どころです。「ホテルの探偵」という大げさな心配に、あえて芝居がかった返しを重ねる遊び心が表れています。
そのノリを真に受けたシェルドンが「ちょっと喧嘩腰だ」と生真面目に評するズレが、会話の温度をやわらかく見せています。レトロな決め台詞をさらりと挟むレナードと、それを字義通りに受け取るシェルドンの噛み合わなさが、二人らしいテンポとして響きます。
『ビッグバン★セオリー』流・覚え方のコツ
白黒の古い探偵映画を思い浮かべてみてください。煙草をくわえた刑事が、邪魔者に向かって親指で扉を指し、「Hit the bricks!(失せろ)」と低い声で言い放つ——その足元には、レンガ敷きの歩道が伸びています。
hit は「踏む・打つ」、bricks は「レンガの舗道」。つまり「レンガの道を踏んで歩き去れ=出ていけ」というわけです。劇中でレナードがタフガイを気取り、語尾に see? まで添えてみせた場面とセットにすると、この言葉のハードボイルドな手触りごと記憶に残ります。
例文で覚える「hit the bricks」
hit the bricks は、相手を追い払うときにも、自分が席を立つときにも使えます。場面ごとに表情が変わる3つの例で見てみましょう。
The bar’s closing, folks. Time to hit the bricks.
(お店、閉店ですよ、皆さん。そろそろお引き取りを。)
閉店間際に客をやんわり促す場面です。Time to ~ と組み合わせると、「もう出る時間だ」という合図として軽やかに響きます。
I’ve got an early meeting tomorrow, so I’d better hit the bricks.
(明日は朝イチで会議があるから、もう帰らないと。)
自分が主語だと、追い払いの意味は消えて「そろそろ出かける・帰る」という中立的な使い方になります。飲み会を先に抜けるときなどにぴったりです。
A: That salesman keeps coming back every single day.
B: Next time, just tell him to hit the bricks.
(A:あのセールスマン、毎日のように戻ってくるんだよ。)
(B:今度来たら、追い返してやればいい。)
しつこい相手への対処を助言する会話です。tell someone to hit the bricks の形で、「失せろと言ってやれ」という強めの追い払いを表せます。
あわせて覚えたい関連表現
hit the road
(出発する、出かける)
同じ hit を使いますが、こちらは「自分が出発する」中立的な意味専用です。hit the bricks のような「失せろ」という相手への追い払いの意味はありません。
beat it
(消えろ、立ち去れ)
相手を追い払う口語で、hit the bricks と近い意味です。より短くくだけた響きで、レトロな探偵映画調のニュアンスはありません。
get lost
(失せろ、どっか行け)
追い払いの中でも直接的で強い言い方です。hit the bricks が古い映画風の味わいを持つのに対し、get lost はより端的で攻撃的な響きになります。
Note|なぜ「レンガを踏む」が「出ていけ」になるのか
hit the bricks を面白くしているのは、「レンガ」という具体物が「立ち去る」という動作に化けている点です。
この bricks は、かつて多くの街路がレンガで舗装されていた時代の名残だとされています。20世紀初頭のアメリカ口語で、レンガ敷きの歩道(=屋外の街路)を踏んで歩き出すイメージから、「外へ出る・立ち去る」を表すようになったと言われています。同じ発想で、労働運動の場面では「職場を出て街頭に立つ=ストライキに入る」の意でも使われてきたとされます。屋内から「レンガの上(=外)」へ足を踏み出す、という上下ではなく内外の移動のイメージが、この表現の土台にあります。命令形にすると「(お前が)レンガの道へ出ていけ=失せろ」となり、追い払いの強い調子が生まれるわけです。
レナードがこの言葉を探偵映画の口調で口にしたのも、hit the bricks が古い時代の街路と結びついたレトロな表現だからこそでした。
言葉の足跡をたどると、何気ない一言の奥行きが見えてきます。
まとめ|レナードの探偵気取りから学ぶ「失せろ」
hit the bricks は、レンガ舗装の道を踏んで歩き去るイメージから生まれた、「出ていけ・立ち去れ」を表す口語表現です。
相手に向ければ「失せろ」という強い追い払いに、自分が主語なら「そろそろ出かける」という中立的な合図にと、向きによって表情を変えます。古い探偵映画を思わせるレトロな響きも、この表現ならではの味わいです。
邪魔者をぴしゃりと退けたいとき、あるいは席を立つときの一言として、表現の引き出しに加えてみてください。
レナードがほんの一瞬タフガイを気取った後ろに、誰もが心のどこかに持っている「映画の主人公になってみたい気分」が、ちらりと顔をのぞかせた場面と言えます。


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