海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
子どもに野菜を食べさせたいとき、相手が嫌がらないようにそれとなく仕向けた経験はありませんか。あるいは逆に、誰かの魂胆を見抜いて「その手には乗らないよ」と身構えた経験も。
そんな「うまく仕向けて〜させる」を表すのが「trick someone into doing something」です。『ビッグバン★セオリー』シーズン9第16話の冒頭、バーナデットが朝食の席でハワードに何かを伝えようとする場面から、一緒に見ていきましょう。
「trick someone into doing something」の意味とニュアンス
trick someone into doing something
意味:(人を)だまして〜させる、うまく仕向けて〜させる
trick は「いたずら」「策略」を表す言葉で、ハロウィンの “trick or treat”(お菓子をくれないといたずらするぞ)でおなじみ。この trick に「someone into doing」を続けると、「相手が気づかないうちに、うまく誘導して何かをさせる」という意味になります。
ポイントは、必ずしも深刻な悪事とは限らないことです。詐欺のような場面でも使えますが、「子どもをうまく乗せて宿題をやらせる」「渋る相手を巧みに動かす」といった、ちょっとした誘導にも幅広く使えます。前置詞 into が「ある行動の中へ押し込む」働きをしていて、そのあとには動名詞(doing)が続くのが決まった形です。trick A into doing B のかたちで覚えておくと、語順に迷わず使えます。
【ここがポイント!】
- 核は「trick(策略)で相手を into(中へ)誘い込む」イメージ
- 悪意の重い「だます」から、軽い「うまく乗せる」まで幅広くカバー
- into のあとは必ず動名詞(doing)が来るのが形のコツ
『ビッグバン★セオリー』S09E16のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
舞台はハワードとバーナデットの家のキッチン。バーナデットはシリアルの箱にこっそりメッセージを仕込んで、ある大事なことをハワードに伝えようとします。ところがハワードは、その意図をまったく別の方向に勘違いしてしまいます。
Howard: If you’re tricking me into making my own breakfast, it didn’t work for my mom, and it won’t work for you.
(もし僕に自分で朝食を作らせようと仕向けてるなら、母さんにも効かなかったし、君にも無駄だよ)Bernadette: What could it be? “We are Groot”? “We are the champions”? “We are family”?
(なんて書いてあるのかしら。「私たちはグルート」?「私たちはチャンピオン」?「私たちは家族」?)Howard: Are you serious?
(まさか、本気で?)The Big Bang Theory Season9 Episode16(The Positive Negative Reaction)
シーン解説と心理考察
長年子どもを望んでいたはずのハワードが、妻のサプライズをまるで読み取れていないところに、このシーンのおかしみがにじむ場面です。バーナデットはシリアルの箱という凝った仕掛けで妊娠を伝えようとしますが、ハワードはそれを「自分に朝食を作らせるための策略」だと早合点します。
ここで trick into が出てくる背景には、家事をあれこれ仕向けられてきた母親との関係が透けて見えています。「またうまく乗せられようとしているな」という警戒が、彼の口からこの表現を引き出しています。妻の人生の一大ニュースと、夫の的外れな身構えとのギャップが、エピソード全体の「positive(陽性/前向き)」というオチへの助走として効いています。
『ビッグバン★セオリー』流・覚え方のコツ
trick into は、相手の背中にそっと手を当てて、あるドアの中(into)へ押し込むイメージと結びつきます。ドアの向こうには「やってほしい行動」が待っていて、相手はそれと気づかないまま中へ進んでいく——その絵が、この表現の核を映し出しています。
ハワードが「シリアルの箱という仕掛けで、自分があるドア(=朝食づくり)へ押し込まれようとしている」と勘違いした場面を重ねると、trick A into B(AをBへ誘い込む)の形がそのまま記憶に残ります。ハロウィンの trick と同じ語だと結びつけておくのも、意味を引き出す助けになります。
例文で覚える「trick someone into doing something」
悪意の重い場面から軽い誘導まで、フォーマル度を変えて3つの例文で見ていきましょう。
Don’t try to trick me into doing your work for you.
(自分の仕事を私にやらせようと仕向けないでよ)
相手の魂胆を見抜いて釘を刺す場面です。trick のすぐ後ろに動かす相手(me)、その後ろに into doing が続く語順が、この表現の基本の形になります。
The app is designed to trick you into spending more time on it.
(そのアプリは、あなたがより長く使い続けるよう仕向けるように設計されている)
テクノロジーや行動デザインを語るときの一例です。主語が人ではなく仕組み(app)でも自然に使えるのが、この表現の便利なところです。
A: How did you get him to clean the garage?
B: I tricked him into it by saying I found something valuable in there.
(A:どうやって彼にガレージを掃除させたの?)
(B:中に価値あるものを見つけたって言って、うまくその気にさせたのよ)
友人同士の会話で「うまく乗せた」と打ち明ける場面です。into のあとを it で受けて trick someone into it と短く言える形も、覚えておくと便利です。
あわせて覚えたい関連表現
talk someone into doing something
(説得して〜させる)
同じ「into doing」の形ですが、talk into は「言葉で説得して」動かす表現です。trick into の「だまして」と違い、正面から納得させるニュアンスになります。
con someone into doing something
(詐欺的に丸め込んで〜させる)
con は trick よりも悪意・詐欺性がはっきり強い語です。金銭をだまし取るような場面で使われ、trick into の軽い用法とは温度が大きく異なります。
lure someone into doing something
(誘惑して〜に引き込む)
lure は「餌で誘い込む」イメージで、危険な方向や罠へ引き込む含みがあります。trick が「策略」なのに対し、lure は「魅力で釣る」点に違いがあります。
Note|trick into / talk into / force into ―― 「させ方」のグラデーション
trick someone into doing は、よく似た形を持つ表現の一群の中に置いてみると、輪郭がはっきりします。共通しているのは「動詞 + someone + into + doing」という構造です。
この形では、into の前に来る動詞が「相手をどう動かすか」を決めています。force into は力ずくで、pressure into は圧力をかけて、talk into は言葉で説得して、trick into は欺いて、lure into は魅力で誘って——と、強制から誘導までがゆるやかなグラデーションを描きます。同じ「最終的に相手に何かをさせる」結果でも、その手段の正当さや強引さがまったく違うわけです。興味深いのは、これらすべてで前置詞 into が共通して「ある行動の状態の中へ移動させる」働きを担っている点です。相手をある行動の「外」から「中」へ押し込む、という空間的なイメージが、どの動詞の場合も土台にあります。
このグラデーションを意識すると、trick into が持つ「欺いて」という位置づけが見えてきます。force のような強引さはなく、talk のような正面からの説得でもない、その中間の「気づかせずに動かす」あたりに trick into は立っています。だからこそ、相手をだます場面にも、子どもをうまく乗せる場面にも、同じ一語で対応できるわけです。
into ひとつで、人を動かす手段の幅が表せるのですね。
まとめ|ハワードの勘違いから見える trick into
「trick someone into doing something」は、相手が気づかないうちに、うまく仕向けて何かをさせる表現です。force into の強引さでも talk into の正面突破でもなく、その中間にある「欺いて動かす」感覚が核になります。
この一語が使えるようになると、「だまして〜させる」という少し込み入った状況を、英語でひとまとまりに言い表せるようになります。子どもをうまく乗せた話から、巧妙なアプリの設計の話まで、適用範囲は意外と広い表現です。
ハワードのように相手の意図を疑う場面でも、誰かをそっと動かす場面でも、人を動かす機微を描く一語として、表現の引き出しに加えてみてください。


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