海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
この話題を出せばあの人は必ず反応する、と分かっていながら、つい口にしてしまう。そんな一言が、家族や気心の知れた相手とのあいだにはあります。
その押し方を指すのが「push someone’s buttons」で、相手の癇に障ることをする、という意味です。『メンタリスト』シーズン1第20話の終盤、CBI本部でジェーンが連邦保安官をわざと怒らせたあと、リズボンが投げかける一言に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「push someone’s buttons」の意味とニュアンス
push someone’s buttons
意味:人の癇に障ることをする、怒りのスイッチを押す
人を装置に見立てて、決まったボタンを押せば決まった反応が返ってくる、という発想から生まれた表現です。単に怒らせたというだけでなく、どこを押せば反応するかを知っていて押した、という含みが強く出ます。
そのため、相手をよく知っている関係の中で使われることが多くなります。家族、旧友、長く一緒に働いてきた同僚。どのボタンがどの反応につながるかを把握している相手だからこそ、押すという言い方が成り立ちます。逆に、出会ったばかりの相手について使うと少し不自然に響きます。どこを押せばよいか、知りようがないからです。
所有格の部分は誰の反応かを示すので、my buttons、his buttons のように主語に合わせて変わります。また all the right buttons と言えば、交渉や説得で押さえるべき点を的確に突いた、という肯定的な意味に転じます。動詞は push が基本ですが、口語では press が使われることもあります。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは、押せば決まった反応が返ってくるボタンという見立て
- 偶然ではなく、どこを押せば効くか知っていて押したという含みが強い一言
- all the right buttons なら褒め言葉に転じる、と押さえておくのがコツ
『メンタリスト』S01E20のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
保安官ナックスが自宅で倒れているところを発見され、病院へ運ばれます。相棒のエクスリーがCBIに現れ、ナックスを容疑者扱いしたことに抗議する場面です。そこでジェーンは、ナックスと被害者が会っていた理由についてある筋書きを口にし、さらにそれをエクスリーが知っていた場合の話まで続けます。相手が去ったあと、リズボンが漏らす一言に注目してください。
Jane: I’m not saying that you knew about the affair. I’m just saying that if you did, you’d be our prime suspect.
(あなたが不倫を知っていたと言っているわけじゃありません。もし知っていたなら、最有力の容疑者になると言っているだけです)Lisbon: Easy.
(落ち着いて)Jane: Hey, I’m sorry. I’m just thinking out loud. No offense.
(いや、失礼。考えを声に出しただけですよ。悪気はありません)Exley: None taken.
(気にしていない)Lisbon: Well, you certainly pushed his buttons, didn’t you?
(見事に彼のツボを押したわね)The Mentalist Season1 Episode20(Red Sauce)
シーン解説と心理考察
ジェーンがやっているのは、単なる挑発ではありません。仮説を声に出して、返ってくる反応の大きさで真偽を測るという作業です。反応が大きければ、そこに触れられたくない何かがある。not saying、just saying と前置きを重ねながら核心を置く言い方も、逃げ道を残したまま相手の反応だけを取りに行くための組み立てになっています。
エクスリーの None taken. は、気にしていないと言いながら、明らかに気にしている返しです。短く切り上げるほど、動揺のほうが表に出る。この一言そのものが、ジェーンの狙いどおりの反応として響きます。
リズボンの you certainly pushed his buttons は、非難とも感心ともつかない言い方です。偶然ではなく狙って押したことを、彼女は分かっている。それでも咎めきらないところに、二人の付き合いの長さがにじみます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
相手の胸元に、小さなコントロールパネルがついていると思ってください。どのボタンがどの反応につながっているか、押す側はすでに把握しています。押し間違いではなく狙い撃ちで、押せば同じ反応が返る。
この「知っていて押す」という前提が、ただ怒らせることとの一番の違いです。劇中のジェーンは、保安官のどのボタンを押せば声が荒くなるかを見抜き、迷いなく指を伸ばしました。しかも目的は怒らせること自体ではなく、返ってくる反応の大きさを測ることでした。パネルとその上に置かれた指を思い浮かべておけば、この表現の計算高さまで一緒に覚えられます。
例文で覚える「push someone’s buttons」
押す側からも、押される側からも使えるのがこの表現です。誰の buttons を押すのかによって、話し手の立ち位置が変わります。三つの場面で見ていきましょう。
My little brother knows exactly how to push my buttons.
(弟は私の怒るツボを完璧に把握している)
家族の話をしている場面です。knows how to と組むと、熟知しているというニュアンスがはっきり出ます。身内の話題では、あきらめ混じりの笑いを含んで使われます。
She pushed all the right buttons in that negotiation.
(彼女はあの交渉で、押さえるべきところをすべて押さえた)
同僚の交渉術を評価する場面です。all the right をつけると、否定的な意味から肯定的な評価へ転じます。評価として使う場合は、この all the right を落とさないよう注意が必要です。
A: He’s doing it on purpose, isn’t he?
B: Don’t let him push your buttons. That’s exactly what he wants.
(A:あいつ、わざとやってるよね)
(B:挑発に乗らないで。それが相手の狙いなんだから)
苛立っている相手を落ち着かせる場面です。let を使うと、乗るか乗らないかの選択が自分の側にあると示せます。止める側の言葉として、日常会話で頻繁に登場する形です。
あわせて覚えたい関連表現
get under someone’s skin
(じわじわと苛立たせる)
皮膚の下に入り込むという比喩で、効き方が持続するのが特徴です。今回のフレーズが一撃で反応を引き出すのに対し、こちらは後を引きます。気になって仕方がない、という肯定寄りの意味で使われることもあります。
rub someone the wrong way
(なんとなく癪に障る)
撫でる向きが逆、という比喩から来ています。押した側に意図がないことが多く、相性の悪さの話になりやすい点が違います。初対面の印象について語るときによく登場します。
set someone off
(一気に爆発させる)
結果の激しさに焦点があり、狙ったかどうかは問いません。押した瞬間よりも、そのあとの噴出のほうが主役になります。引き金が何だったのかは、後から振り返って特定されることが多くなります。
Note|押せば返ってくる、という人間観
この表現の前提には、少し不思議な人間観があります。人の感情には決まった引き金があり、同じ刺激には同じ反応が返る、という見方です。
心理学は長いあいだ、この刺激と反応の対応を扱ってきました。特定の合図が特定の反応を呼び起こす、という条件づけの考え方はその代表です。日常の英語にも、その発想を映した語がいくつも入り込んでいます。trigger(引き金)がまさにそれで、感情を呼び起こす刺激を指す語としてすっかり定着しました。ボタンも引き金も、押せば決まった結果が出る装置である点で共通しています。人の内面を、入力に対して出力が定まる仕組みとして捉える言い方が、比喩として選ばれ続けてきたことになります。もっとも、実際の感情がそこまで単純でないことは誰もが知っています。それでも押すという言い方が生き残っているのは、親しい相手ほど反応が読めてしまう、という経験が確かにあるからでしょう。どこに触れれば何が起きるか分かってしまう関係は、親密さの証でもあり、危うさでもあります。
劇中のジェーンは、この前提をそのまま捜査に使いました。仮説をぶつけ、返ってくる反応の大きさから相手の内側を推し量る。ボタンを押して出力を確かめるという、実験のような手つきです。
反応が読めるということは、それだけ相手を見てきたということなのかもしれません。
まとめ|押した指の温度
push someone’s buttons は、相手を怒らせたという結果だけを言う表現ではありません。どこを押せば効くかを知っていた、という事実まで含んで伝わります。だから同じ挑発でも、この言い方をされた側には計算の跡が見えてしまいます。
会話に入れておくと、感情のやり取りを一段細かく言い分けられるようになります。家族の口喧嘩にも、職場の駆け引きにも、交渉の場で的を射た働きかけにも使えて、all the right buttons と言えば評価の言葉にもなります。
劇中のリズボンは、狙いどおりに反応を引き出したジェーンへ、咎めきらないままこの一言を投げました。押す指の温度まで一緒に伝わる表現として、言葉の選択肢に加えてみてください。


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