海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
得をするわけでもないのに、あの人にだけは負けたくない。そんな気持ちだけで動いてしまう場面が、仕事にも身近な人間関係にもあります。
その衝動を言い表すのが「get one over on someone」で、相手を出し抜く、という意味です。『メンタリスト』シーズン1第21話の終盤、連行される直前の女性に、ジェーンが最後の一言をかける場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「get one over on someone」の意味とニュアンス
get one over on someone
意味:(人を)出し抜く、一杯食わせる
相手より一歩先んじて、優位に立つことを指します。
重心があるのは実利ではなく、勝ったという手応えのほうです。one は具体的な点数でも物でもなく、「一つぶんの差」を表しています。倒すのでも奪うのでもなく、ほんの一段だけ上に立つ。だからこの表現には、深刻な裏切りのような重さがありません。
よく使われるのは、駆け引きや小さな競り合いの文脈です。交渉、兄弟げんか、同僚どうしの張り合い。try to get one over on 〜 の形にすると、成功したかどうかではなく、そうしようとする姿勢そのものを指せます。
話し手の評価がにじみやすい表現でもあります。勝ちたがっている、という視線を含むため、褒め言葉として使われることは多くありません。
【ここがポイント!】
- 核は「一つぶんだけ相手の上に立つ」という、わずかな高さの差
- 実利より、してやったりという手応えに重心が置かれる一言
- 勝ちたがる姿勢への視線を含むので、称賛にはなりにくいのが注意点
『メンタリスト』S01E21のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
事件がすべて片づき、手錠をかけられた女性が連行を待っています。ジェーンは詫びの言葉をかけ、彼女はそれを自分のせいだと引き取ります。互いの手際を認め合ってきた二人の、静かな別れ際です。そこでジェーンは、彼女を動かしてきたものの正体を一言で言い当てます。
Jane: Sorry about the cuffs.
(手錠のことは、申し訳ないね。)Harper: My own fault.
(自業自得よ。)Jane: Wish I could let you go again, but you know…
(また逃がしてあげられたらいいんだが、まあ、そうもいかなくてね。)Harper: I understand.
(分かってる。)Jane: That urge you have to get one over on people, the need to be smarter than the next guy… it’ll keep biting you on the ass.
(人を出し抜きたいというその衝動、誰よりも賢くありたいという欲求は、これからも君に痛い思いをさせ続けるよ。)Harper: So my butt’ll hurt occasionally. I’ll still be smarter than the next guy.
(たまに痛い思いをするだけでしょ。それでも私は、誰より賢いままよ。)The Mentalist Season1 Episode21 (Miss Red)
シーン解説と心理考察
ジェーンの言葉は、責めているのではなく診断に近い調子を持っています。金でも暮らしでもなく、人を出し抜きたいという欲求そのものが彼女を動かしてきた。動機を一言で名指しする手つきが、この人物の観察の鋭さとして響きます。
注目したいのは、彼女がその指摘を否定しなかったことです。反論も弁解もせず、痛い思いをするだろうという予告のほうだけを受け止め、それでも賢くありたいと言い切ります。忠告は正確に届いているのに、生き方を変える気はまったくない。指摘が的中したことと、それが何も変えないことが、同じ短いやり取りに表れています。
手錠を詫びる側と、自業自得だと引き取る側。立場は正反対でも、互いの技量を認め合っている者どうしの会話という空気が最後まで残ります。別れ際にしては穏やかで、どこか名残惜しさすら漂う場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
競り合っている二人が並んで立っている絵を思い浮かべてみましょう。片方が、ひょいと一段だけ高い台に乗ります。倒したわけでも奪ったわけでもなく、高さの差はほんの一段。get one over on someone の one が指しているのは、その一段です。
だからこの表現には、破滅させるような重さがありません。あるのは、してやったりという軽い達成感だけです。劇中の彼女が最後まで手放せなかったのも、まさにその一段でした。痛い思いをするとしても、誰よりも高い位置にいたい。たった一段のために生き方まで決めてしまう人がいる。そう考えると、この一段の高さがずっと記憶に残ります。
例文で覚える「get one over on someone」
責める場面にも、忠告にも、分析にも使える表現です。三つの場面で、その振れ幅を見てみましょう。
He’s always trying to get one over on his brother.
(あいつはいつも兄貴を出し抜こうとしている。)
家族の関係を人に説明する場面です。try to と組ませると、成否ではなく「そういう性分だ」という見立てを伝えられます。
Don’t try to get one over on the customer. It always backfires.
(お客さんを出し抜こうとしないこと。必ず自分に返ってきます。)
新人に商売の心構えを伝える場面です。否定の命令形にすると、責めるのではなく忠告として機能します。
A: Why does he keep bringing up that old mistake of mine?
B: It’s not about the mistake. He just likes getting one over on people.
(A:なんで彼はあの昔のミスを蒸し返してくるんだろう。)
(B:ミスの話じゃないよ。ただ人を出し抜くのが好きなだけさ。)
同僚の言動の理由を話し合う場面です。動名詞にして likes 〜ing の形にすると、一度きりではなく習性として指せます。
あわせて覚えたい関連表現
put one over on someone
((人を)だます、一杯食わせる)
ほぼ同じ意味で使えますが、put のほうは相手をだましたという色が濃く出ます。競争で先んじたという含みが強い get one over on someone とは、勝ち方の描き方が違います。
one-up someone
((人より)一枚上手に出る)
動詞として使える分だけ短く、会話の張り合いや自慢合戦になじみます。実害を伴わない軽い場面向きで、get one over on someone より当たりがやわらかい言い方です。
outsmart someone
((人を)出し抜く、知恵で上回る)
知恵で勝ったことを中立的に述べる語で、非難の色がありません。勝ちたがる姿勢への視線を含む get one over on someone とは、話し手の評価が入るかどうかで分かれます。
Note|get と put で分かれる言い方
この表現には、よく似た兄弟がいます。get one over on someone と、put one over on someone です。骨組みはまったく同じで、動詞だけが違います。
get 型は、イギリス英語でよく耳にする言い方として知られています。サッカーの報道で、ライバルクラブに一泡吹かせたという文脈に登場したり、日常会話で友人どうしの張り合いを語ったりする場面になじみます。競り合いの中で一歩先んじた、という競争の色が前に出ます。一方の put 型は、アメリカ英語で古くから使われてきた形で、こちらは「まんまとだました」という欺きの色が濃くなります。You can’t put one over on me. と言えば、そう簡単には騙されないぞ、という警告になります。どちらの形も両方の地域で通じますが、選んだ動詞によって、話し手が相手の行いを競争と見ているのか、詐術と見ているのかが伝わります。
劇中でジェーンが選んだのは get のほうでした。彼女を詐欺師として断罪するのではなく、勝ち続けたいという衝動を持つ人として言い当てている。動詞ひとつに、相手をどう見ているかが表れています。
同じ骨組みでも、置く動詞で色が変わる。言葉はそういうふうにできているようです。
まとめ|一段の高さを手放せない人
get one over on someone は、相手を打ち負かすことではなく、ほんの一つぶんだけ上に立つことを指す表現です。得られるものの大きさよりも、勝ったという手応えのほうに重心があります。
これを覚えておくと、駆け引きや張り合いの場面を、実利ではなく動機の側から言い表せるようになります。交渉の一手にも、同僚の妙な対抗心にも、家族どうしの小競り合いにも当てはめられます。
ジェーンの指摘に、彼女は反論しませんでした。痛い思いをすることは認めたうえで、それでも賢くありたいと言い切る。勝ちたいという欲求がその人の生き方そのものになっている、そのありようを言い当てた一言と言えます。


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