海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
急いでいる側と、急いでいない側が、同じ場所で向き合ってしまう。そんな噛み合わなさが、ドラマには時々あります。
そこで使われるのが「time is of the essence」で、一刻を争う、時間が何より重要だ、という意味です。『メンタリスト』シーズン1第23話の中盤、私書箱を扱う店で、チョウが店主に協力を求める場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「time is of the essence」の意味とニュアンス
time is of the essence
意味:一刻を争う、時間が何より重要だ
essence は「本質」、of the essence で「欠かせない中心的な要素である」という意味になります。直訳すれば、時間が本質である。遅れがそのまま結果を損なう、という状況を一言で示す言い方です。
特徴は、急ぎを「お願い」ではなく「条件」として提示する点にあります。Hurry up. は相手を急かす指示、ASAP は依頼ですが、この表現は状況そのものの性質を述べる形を取ります。だから、相手を追い立てている印象になりにくく、緊迫だけを共有できます。
使われるのは、遅れが実害に直結する場面です。救助や医療、捜査、そして納期や契約。個人的な焦りを訴える場面には大げさすぎるため、待ち合わせに遅れそうなときなどには向きません。
of the essence という古風な形が残っているとおり、もともとは書き言葉寄りの表現です。会話でも使われますが、かしこまった響きが常についてまわります。
【ここがポイント!】
- 時間を「あれば助かるもの」ではなく「なければ成立しないもの」として扱う一言
- 急かす指示ではなく、状況の性質を述べる形なので角が立ちにくい表現
- 遅れが実害に直結する場面に限って使うのが、大げさに響かせないコツ
『メンタリスト』S01E23のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
手がかりとして浮上した私書箱を開けるため、チョウが私設私書箱を兼ねた雑貨店を訪ねます。行方の分からない妹がまだ生きている前提で捜査は動いており、借り主の情報に一分でも早くたどり着きたいところです。ところが店主は、事件の重さにまったく動じず、令状の有無だけを淡々と確認します。
Cho: Okay, we need to open box 121, and we need all the information you have on who rented it.
(では、121番のボックスを開けてください。それと、借り主に関する情報をすべて出していただきたい)Store owner: No problem. You have a warrant?
(問題ないよ。令状はあるのかい)Cho: Ma’am, this is a murder investigation. We can get a warrant, but that takes time, and time is of the essence here.
(奥さん、これは殺人事件の捜査です。令状は取れますが、時間がかかる。今は一刻を争うんです)Store owner: No problem. Go get a warrant. I’ll be here. Following the law.
(問題ないよ。取ってきなさいな。ここで待ってるから。法律を守ってね)The Mentalist Season1 Episode23(Red John’s Footsteps)
シーン解説と心理考察
チョウが声を荒らげないところに、この人物らしさが表れています。差し出したのは、事件の性質と、時間が足りないという条件だけ。感情に訴える言葉はひとつも使われていません。
この表現が選ばれた理由も、そこにあります。急いでくれと頼めば、応じるかどうかは相手の善意しだいになります。時間が決定的な要素だと述べれば、判断の土俵を客観的な条件のほうへ動かせる。捜査官が相手を説得するときの、静かな戦術と言えます。
ところが店主は、まったく同じ落ち着きで応じます。No problem. を二度繰り返し、二度目には令状を取りに行けと突き返す。最後に添えられた Following the law. の一言が、こちらにも譲れない原則があることを示しています。
急ぐ側と、急がない側。どちらも正しさを持っているために、話は最後まで噛み合いません。緊迫が空回りする気配が、短いやり取りに漂う場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
料理のレシピを思い浮かべてみましょう。材料表には小麦粉、卵、砂糖と並んでいます。その列に「時間」が同じ顔をして載っている状態が、この表現です。
あってもなくてもいい調味料ではありません。これがなければ、料理そのものが成立しない。essence が「本質」であるとは、そういう位置づけを指しています。時間を材料の一つとして数える発想だと考えると、of the essence という硬い形も覚えやすくなります。
チョウが店主に差し出したのは、この材料表でした。ところが店主の手元にあるレシピには「令状」という別の必須材料が書かれていて、二人は最後まで噛み合いません。急ぎを主張しても通らない場合がある。その結末まで込みで覚えておくと、この表現の重みと限界が同時に頭に入ります。
例文で覚える「time is of the essence」
業務連絡にも、状況説明にも使えます。三つの例文で、置かれる位置による働きの違いを見ていきましょう。
Time is of the essence, so please send the files as soon as they’re ready.
(一刻を争いますので、準備でき次第ファイルをお送りください)
締切の迫った資料を社外に依頼するメールです。文頭に置いて理由として使うのが、いちばん自然な形になります。
In a rescue operation, time is of the essence.
(救助活動では、時間が何より重要になる)
初動の重要性を一般論として説明する場面です。主語を状況にすると、特定の相手を急かさない客観的な述べ方になります。
A: Can I get back to you next week?
B: I’m afraid time is of the essence here. We need an answer by Friday.
(A:来週までにお返事するかたちでもいいですか。)
(B:あいにく今回は一刻を争うんです。金曜までにご回答をいただきたく。)
返答の先送りを断る会話です。here を添えると「この件については」と範囲を限定でき、相手の都合を全否定せずに済みます。
あわせて覚えたい関連表現
There’s no time to lose.
(ぐずぐずしている暇はない)
話し手の焦りをそのまま出す口語で、行動を促す掛け声に近い言い方です。条件として提示する今回の表現に比べ、感情の温度が高くなります。
as soon as possible
(できるだけ早く)
速さを求める依頼ですが、遅れがもたらす結果までは含みません。なぜ急ぐのかを示したい場面では、今回の表現のほうが伝わります。
against the clock
(時間との戦いで)
こちらの状況を描写する言い方で、依頼や指示には使いにくい表現です。We’re working against the clock. のように、進行中の状態を伝える文で使います。
Note|契約書の一行が、日常語になるまで
救助の現場でも捜査でも使われるこの表現は、もともと契約の世界の言葉だったとされます。
契約書には、time is of the essence という一行が置かれることがあります。これは「期日の厳守が、この契約の本質的な要素である」と当事者どうしで確認しておくための条項です。この一行があるかどうかで、納期の遅れが単なる遅延にとどまるのか、契約そのものに関わる違反として扱われるのかが変わってくる、と説明されます。時間を、付随的な条件ではなく契約の中身そのものに組み込む書き方だと言えます。
of the essence という古めかしい形が今も残っているのは、法律文書が言い回しを長く保存する性質を持つためだと考えられます。日常語なら the most important part とでも言い換わっていくところが、条項の中では原形をとどめたまま受け継がれてきました。そこから商取引の会話へ、さらに一般の会話へと流れ出し、期限が命取りになるあらゆる場面で使われるようになった、という道すじです。ただし成立の時期や法的効果の細部については資料によって記述が分かれるため、断定は避けておきます。
この背景を知っておくと、チョウの一言の質感が変わります。彼が持ち出したのは感情ではなく、条件でした。契約書の一行がそのまま口をついて出たような、事務的な圧のかけ方だったわけです。
急ぎを、私情ではなく条項として語る。そんな一言です。
まとめ|時間を、材料表に載せる言い方
time is of the essence は、遅れがそのまま結果を損なう状況を示す表現でした。急いでほしいという願いではなく、時間が欠かせない要素であるという条件の提示になっている点が、この言い方の芯にあります。
締切の重みを共有したいとき、初動の重要性を説明したいとき。相手を急かさずに緊迫だけを伝えられるため、社外のやり取りでも角が立ちません。
令状を盾に動かない店主を前に、チョウが差し出した最後の材料がこの一言でした。急ぐ理由を、感情ではなく条件として語る。表現の引き出しに加えてみてください。


コメント