海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
長く続いたものが終わるとき、残念だという気持ちと、よくここまで続いたという気持ちが同時にやってきます。そのどちらも切り捨てずに言い表せたら、と思う場面があります。
英語でそれを一言にしたのが「have a good run」で、いい時期がしばらく続いた、という意味です。『メンタリスト』シーズン2第9話の終盤、昏睡から目覚めた男の病室で、ジェーンがあえて無礼な切り出し方をする場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「have a good run」の意味とニュアンス
have a good run
意味:いい時期がしばらく続いた、うまくやってきた
ここでの run は「走る」ではなく、途切れずに続いた一続きの期間を指します。舞台の公演期間を a long run と呼ぶのと同じ用法です。その期間を振り返って「良いものだった」と評価するのが、この表現の中身になります。
最大の特徴は、必ず終わったあとに使うという点です。まだ続いている最中には使えません。終わりを受け入れたうえで、過ぎた時間のほうを肯定する。この順序が、この表現の骨組みになっています。
対象は人に限りません。店、番組、連勝記録、長く使った道具にも使えます。話し手の気持ちしだいで、惜しむ言い方にも、慰めにも、皮肉にも転びます。it was a good run という形も、締めの一言としてよく使われます。
【ここがポイント!】
- run は「走る」ではなく、途切れずに続いた一続きの期間のこと
- 終わったあとにだけ使える、過ぎた時間を肯定して締める言い回し
- 惜しみにも慰めにも皮肉にもなるので、口調と場面で読み分けるのがコツ
『メンタリスト』S02E09のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
強盗事件で撃たれ、意識を失っていたカールがようやく目を覚まします。そこへ現れたジェーンは、名乗りもしないまま、資産家の妻との結婚は金目当ての詐欺だったのだろうと決めつけて畳みかけます。過去に別の名前で服役していたことも、すでに把握したうえでの切り出し方です。相手が何に対して怒るのかを見るための挑発が続きます。
Jane: Tell me. Esther Doverton. It was all a scam, right? You just wanted to cash in with a rich, old broad.
(教えてくれ。エスター・ドヴァートンのことだ。全部詐欺だったんだろ? 金持ちの婦人で一儲けしたかっただけだ)Carl: Are you talking about my wife? Who the hell do you think you are?
(俺の妻の話をしているのか? 一体何様のつもりだ)Jane: Wouldn’t that be a better question for me to ask you, Mr. Wysocki? So that’s it. Had to end sometime. You had a pretty good run.
(それはむしろこっちが聞きたい質問じゃないか、ワイソッキーさん。まあ、そこまでだ。いつかは終わる。ずいぶんうまくやった方だろ)Carl: Don’t you talk about her like that. That woman is the only good thing that’s ever happened to me. I love her.
(彼女をそんなふうに言うな。あの人は俺の人生で唯一いいことだったんだ。愛してる)The Mentalist Season2 Episode9 (A Price Above Rubies)
シーン解説と心理考察
ジェーンがここで狙っているのは自白ではありません。相手が何に対して声を荒げるかという、一点だけを見ています。金の話で反論するのか、妻の話で反論するのか。その違いだけで判断がつくと踏んだうえでの挑発です。
had a pretty good run は、その挑発の締めに置かれています。相手の企てはもう終わった、という宣告として機能する一方で、うまくやった方だという肯定も同時に含む。この二重性が、言われた側にとってはいっそう腹立たしい言い方になります。褒めながら見下しているとも取れる形です。
返ってきたのは、金額でも計画でもなく、妻を侮辱するなという抗議でした。詐欺師として扱われたことより、彼女を「金持ちの婦人」と呼ばれたことに反応している。ジェーンが仕掛けた挑発は、たった一往復で目的を果たしたことになります。無礼な言葉のほうが本音を早く引き出すことがある、という彼のやり方がよく出た場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
舞台の公演が何ヶ月も続くことを a long run と呼びます。幕が下り、照明が落ち、客席の拍手が消えていく。そのあとで関係者が「いい興行だった」と振り返る、あの数秒が have a good run の居場所です。
だからこの表現は、走っている最中には使えません。必ず、もう終わったあとに置かれます。劇中のジェーンがこの一言を投げたのも、相手の企てにはすでに幕が下りたのだと告げるためでした。舞台袖から空になった客席を見ている絵を思い浮かべておくと、惜しみと区切りが同居するこの言葉の温度が、そのまま手に入ります。
例文で覚える「have a good run」
対象を何にするかで、この表現の使い道が広がります。店、経歴、道具という3つの場面で確かめてみましょう。
The café is closing next month, but it had a good run.
(あのカフェは来月閉店だけど、長くいい店だったよ)
馴染みの店の閉店を惜しむ場面です。残念さと肯定を同じ一文に収められます。
Twelve years at the same company. I’ve had a good run.
(同じ会社で12年。いい時間を過ごせたと思う)
退職の挨拶をする場面です。一人称にすると、感謝を含んだ締めの言葉になります。
A: Your old laptop finally died?
B: Yeah. Eight years, though. That’s a good run.
(A:古いノートパソコン、ついに壊れたの?)
(B:うん。でも8年だからね。よく持った方だよ)
物の寿命を語る場面です。人以外にも使えることと、数字を添えると説得力が増すことが分かります。
あわせて覚えたい関連表現
have a good innings
(十分にやり切った、長生きした)
イギリス英語の言い方で、クリケットの打席が由来です。今回のフレーズと発想は同じですが、長寿や長い経歴を振り返る場面に偏り、アメリカ英語ではまず耳にしません。
it was good while it lasted
(続いていた間は良かった)
終わってしまったことへの諦めが前に出ます。今回のフレーズのほうが、続いた期間そのものへの評価がはっきりしています。
one’s time is up
(潮時だ、年貢の納め時だ)
終わりの宣告だけで、過去への肯定は含みません。劇中でこちらを選んでいたら、皮肉一色の場面になっていたはずです。
Note|終わりを肯定で締める言い方
閉店の貼り紙、引退の会見、長く使った道具の最後。終わりを告げる場面で英語話者がこの表現を選ぶとき、そこには日本語の感覚と少しずれた発想が働いています。
日本語で終わりを告げる言葉を並べてみると、その違いが見えてきます。「潮時だ」「もう終わりだ」「これまでだ」。いずれも終了の事実を述べるだけで、過ぎた期間への評価は自動的にはついてきません。良かったと伝えたければ、「長い間ありがとうございました」のように別の一文を足すことになります。ところが have a good run は、終わりを告げる同じ一文の中に、その期間は良いものだったという肯定を必ず抱えています。分けて言う必要がない構造になっているわけです。この違いは、run という語が「続いた一続きの期間」を名詞として切り出せることから来ています。期間をひとつの物として扱えるので、それに good という形容詞を直接つけられる。日本語では「いい時期だった」と言えても、それを終了宣言と同じ文に自然に収めるのは難しいところです。
劇中のジェーンが選んだのも、まさにこの構造でした。終わりだと告げながら、うまくやった方だと認める。宣告と評価が一文に同居するからこそ、相手にとっては受け止めどころのない言葉になります。褒められたのか見下されたのか、判断がつかないまま反論するしかない。
終わりの告げ方には、その言語が時間をどう区切ってきたかが残っています。
まとめ|幕が下りたあとに置く一言
have a good run は、終わったという事実と、その期間は良いものだったという評価を、同じ一文に収める表現です。走っている最中ではなく、必ず幕が下りたあとに置かれます。
会話に入れておくと、残念さだけでも強がりだけでもない、その中間の言い方ができるようになります。閉店を惜しむとき、退職を報告するとき、長く使った物を手放すとき。数字を添えれば、説得力のある締めにもなります。
劇中のジェーンは、この一言で相手の本音を引き出しました。宣告と肯定が同居する言葉だからこそ、受け取った側は黙っていられなかったのだと言えます。何かが終わる場面の締めくくりとして、表現の引き出しに加えてみてください。


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