海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
落ち込んでいる友人を励まそうとして、用意していた慰めの言葉を口にしたら、まったく的外れだった。相手の話をちゃんと聞いていなかった、と気づいて気まずくなった経験はありませんか。
そんな慰めの定番句が「there are other fish in the sea」、ほかにも相手はいくらでもいる、という一言です。『フレンズ』シーズン3第24話の中盤、フィービーがロスにデートの首尾を尋ねるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「other fish in the sea」の意味とニュアンス
there are other fish in the sea
意味:ほかにも相手はいくらでもいる、その人だけが世界じゃない
失恋した相手を慰めるときの定番句です。海には魚がいくらでもいる、だからこの一匹を逃しても大丈夫。そういう発想で、落ち込んでいる人に前を向かせようとする言い方です。
plenty of fish in the sea、plenty more fish in the sea といった形でもよく使われます。plenty が入ると「たくさんいる」という部分が前に出て、慰めの押しがやや強くなります。
恋愛以外にも応用が利きます。落ちた会社、逃した物件、まとまらなかった商談。「選択肢はまだある」と言いたい場面なら、だいたい成立します。
ただし、この表現は非常に手垢のついた慰めでもあります。言っていることは間違っていない。それでも、失恋直後の相手に向けると「そういう問題じゃない」と受け取られやすい。相手を「海の中の一匹」に還元してしまう言い方だからです。定番句として広く知られている一方で、実際に効くかどうかは別、という点までがこの表現の実像です。
【ここがポイント!】
- 核は「逃した一匹より、海の広さを見よう」という視野の切り替え
- plenty of / plenty more をつけると、慰めの押しが強くなる
- 正論ゆえに響かないこともある、使いどころを選ぶ一言
『フレンズ』S03E24のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
フィービーは、友人のボニーをロスに紹介しました。その後日、モニカとレイチェルのアパートのバルコニーで、焼き網を囲みながら首尾を尋ねます。ロスの返事は、はっきりとした好感触。ところがフィービーは、その返事を聞きながら、なぜか慰めの言葉を返しはじめます。会話が噛み合わないまま、失恋のときの定番句が飛び出す場面です。
Phoebe: So Ross, how did it go with Bonnie?
(それでロス、ボニーとはどうだったの?)Ross: What? Oh! I gotta tell you, I wasn’t expecting to like her at all, I mean I actually wasn’t expecting to like anyone right now, but she’s really terrific.
(え? ああ! 正直に言うとね、好きになるなんてまったく思ってなかったんだ。というか今は誰のことも好きになる気なんてなかった。でも彼女、本当に素敵なんだよ。)Phoebe: Ohh, that’s too bad!
(あら、それは残念ね!)Ross: No, I’m saying I liked her.
(いや、好きになったって言ってるんだけど。)Phoebe: Yeah, y’know what, there are other fish in the sea.
(そうよね、ほら、海にはほかにも魚がいるから。)Ross: Pheebs, I think she’s great. Okay? We’re going out again.
(フィーブス、彼女はすごくいい人なんだ。いい? また会う約束したんだよ。)
Friends Season3 Episode24(The One With the Ultimate Fighting Champion)
シーン解説と心理考察
この会話は、最初から最後まで噛み合っていません。ロスは「予想外によかった」と繰り返し伝えているのに、フィービーは「残念ね」「ほかにも魚はいる」と、振られた前提の慰めを重ねていく。ロスが二度も言い直しても、彼女の返しは変わりません。
理由は、この直前の出来事にあります。フィービーはレイチェルから「ボニーに髪があるなんて聞いてない」と責められたばかりでした。紹介を取り持った側として、彼女はすでにレイチェルの側に立ち直している。つまり、ロスとボニーにはうまくいってほしくないのです。
その本音が、慰めの定番句という形で漏れ出しています。there are other fish in the sea は、相手が何かを失っているときにしか成立しません。ロスは失っていない。それどころか釣り上げている。前提が崩れているのに慰めが出てくるから、この一言は慰めではなく、フィービーの願望として響きます。定番句を口にした瞬間に、隠しておきたかった立場のほうが露わになる。台詞の選び方だけで本音を見せる、うまい書き方だと言えます。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
覚えるときは、海に釣り糸を垂らしている自分の姿を思い描いてください。
狙っていた一匹に、あと少しのところで逃げられた。悔しくて、水面のその一点をじっと見つめている。そこで顔を上げると、目の前に広がっているのは海そのものです。逃した魚は一匹で、海は変わらずそこにある。この「一点から視野を広げる」という動作が、そのまま表現の中身になっています。
このシーンが使えるのは、失敗例として完璧だからです。ロスは魚を逃していない。むしろ釣り上げている。それなのにフィービーは海の話を始める。慰めが成立するには「相手が失っていること」という前提が要る。その前提が抜けるとどうなるかを、この噛み合わない会話が実演してくれています。
例文で覚える「other fish in the sea」
慰めるとき、恋愛以外に使うとき、そして慰められる側が返すとき。三つの形で見てみましょう。
Don’t worry about him. There are plenty of other fish in the sea.
(あの人のことは気にしないで。ほかにも相手はいくらでもいるから。)
失恋した友人を励ます場面です。plenty of を足すと「たくさんいる」が前に出て、明るく背中を押すトーンになります。
He didn’t get that job, but there are other fish in the sea.
(彼はその仕事に受からなかったけど、ほかにもチャンスはあるよ。)
恋愛以外に応用した形。就職や物件探しのように「選択肢がある」場面なら、そのまま成立します。
A: I know, I know. There are other fish in the sea.
B: I wasn’t going to say that.
(A:わかってる、わかってるよ。ほかにも相手はいるんでしょ。)
(B:そんなこと言うつもりなかったけど。)
慰められる前に、本人が先回りして言ってしまう場面です。それだけ言われ慣れた定番句だということが、この返しから伝わります。
あわせて覚えたい関連表現
plenty more fish in the sea
(海にはもっとたくさん魚がいる。)
ほぼ同じ意味のバリエーションです。more が入るぶん「まだこれから出会える」という未来の方向が強まります。イギリス英語ではこちらの形をよく見かけます。
It’s not the end of the world.
(世界の終わりじゃない。)
同じ慰めでも、向きが違います。fish in the sea が「代わりがある」と選択肢を示すのに対し、こちらは事の深刻さそのものを下げにいきます。
You’ll find someone better.
(もっといい人が見つかるよ。)
fish in the sea が「数はいる」と言っているのに対し、こちらは「質が上がる」と約束しています。踏み込んでいるぶん、外れたときに気まずくなりやすい言い方です。
Note|慰めの比喩を、どこから借りてくるか
失恋した人を慰めるとき、英語は海に手を伸ばします。魚はいくらでもいる、と。ところが日本語で同じことを言おうとすると、まず魚は出てきません。
日本語で選ばれるのは、たいてい空のほうです。「男は星の数ほどいる」。同じ「たくさんいる」を伝えるのに、片方は海面下を、もう片方は夜空を指している。この違いは、比喩の借り先が違うことから来ています。
英語の fish in the sea は、漁の発想です。海に糸を垂らし、一匹を狙い、逃したらまた垂らす。相手選びを、獲物を釣る行為になぞらえている。だからこそ「逃した一匹」と「まだ海にいる無数の魚」という対比が成立します。一方の「星の数ほど」には、獲る動作がありません。ただ数の多さだけを言っている。見上げれば無数にある、という感覚です。
この差は、慰めとしての手触りにも表れます。fish in the sea には「また釣ればいい」という行動の促しが含まれている。だから前向きにも響き、同時に「相手を獲物扱いしている」という冷たさも生まれます。ロスに向けられたあの一言が妙に響かないのは、フィービーの下心のせいだけではありません。慰めているようでいて、相手を海の中の一匹に還元してしまう。この表現がもともと抱えている性質が、噛み合わない会話の中で、いつもより濃く出てしまっています。
同じ「たくさんいる」でも、どこから借りた比喩かで、届き方が変わります。
まとめ|噛み合わない慰めが映すもの
there are other fish in the sea が差し出しているのは、視野の広さです。逃した一匹を見つめている相手に、海そのものを見せようとする。落ち込んだ人の目線を上げるための、古くからある言い方です。
この一言を知っておくと、英語圏の慰めの型が読めるようになります。同時に、それが本当に相手を励ましているのか、言う側の都合で持ち出されているのかも、前後の会話から見分けられるようになります。
好感触を伝えている相手に、失恋の慰めを返す。定番句は、使う場面を間違えると、話し手の本音のほうを映し出してしまう表現と言えます。


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