海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
無料で引き受けました、と言われたときに、その理由まで一緒に伝わってくることがあります。値引きなのか、好意なのか、それとも別の何かなのか。英語には、その理由の側を名指しする言い方があります。
それが「pro bono」です。『BONES』シーズン1第10話の終盤、ロサンゼルスの支局で行われた取り調べに、ある美容外科医がこの一語を持ち出すシーンから、一緒に見ていきましょう。
「pro bono」の意味とニュアンス
pro bono
意味:公益のために無償で行う、無報酬の
ラテン語の pro bono publico(公共の善のために)を短くした言い方で、英語の中にラテン語のまま残っている数少ない表現のひとつです。弁護士が報酬を取らずに引き受ける案件を指す語として定着し、そこから会計士、設計士、医師など、専門技能を持つ職業全般へ広がりました。
free との違いは、無料である理由まで含んでいる点にあります。free は金額が発生しないという事実だけを述べます。pro bono はそこに、社会へ返すために行うという動機を重ねます。だから安売りや値引きの説明には使えません。
形の上では便利な語です。pro bono work のように名詞の前に置いて形容詞として使えますし、did the work pro bono のように動詞のあとへ副詞として置くこともできます。ただしどちらの形でも、専門的な技能が前提にある点は変わりません。誰にでもできる手伝いには、この語は使いません。
【ここがポイント!】
- 無料そのものではなく、公益のためという理由の側を名指しする一語
- 専門技能を無償で差し出すことが前提で、一般的な手伝いには使わない表現
- 名詞の前にも動詞のあとにも置ける、形の自由度が高いのが使い勝手のよさ
『BONES』S01E10のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
空港で見つかった遺体の身元は、顔の骨格を何度も作り替えていたために長く分かりませんでした。捜査の末に浮かび上がったのが、その特殊な手術を手がけた美容外科医アトラスです。取調室で弁護士を伴った彼に、ブースが問いかけます。この患者名簿には錚々たる顔ぶれが並んでいるはずだ、なぜ彼女がそこに加わったのか、と。
Lawyer: You can answer that Henry.
(答えていい、ヘンリー)Atlas: I did Susan’s procedure pro bono.
(スーザンの手術は無償で行った)Brennan: Why?
(なぜ?)Atlas: Because she volunteered.
(彼女が志願したからだ)Brennan: She was a guinea pig.
(実験台にしたのね)BONES Season1 Episode10 (The Woman at the Airport)
シーン解説と心理考察
pro bono という語がこの場面で果たしている働きが見どころです。無償だったと言えば、金銭のやり取りをめぐる追及はそこで途切れます。しかもこの語は、専門家が社会のために技能を差し出すという含みを連れてきます。答えとしては短いのに、自分の立場を高いところへ置き直せる。弁護士が答えてよいと促した理由も、そこにあります。
ところがブレナンの返しは Why? の一語でした。無償なのはいい、では動機は何かと、語が連れてきた高潔さを素通りして先へ進みます。
返ってきた Because she volunteered が、この短いやり取りの転回点です。志願したのだから無償で当然、という理屈が成立するには、彼女が何かを差し出していなければならない。差し出したものが何かを、ブレナンは guinea pig という一語で言い当てます。公益の言葉で始まった説明が、実験の話へ着地する。高潔な語がそのまま告発の材料に変わる瞬間が、この一言に重なっています。
『BONES』流・覚え方のコツ
金額の欄が空白のままの請求書を思い浮かべてみます。大事なのは、その空白の理由です。相手が払えないから空けたのなら free、公共のために書かないと決めて空けたのなら pro bono。同じ空欄でも、背後にある帳簿がまったく違います。
劇中のアトラスは、その空欄を自分の善意の証拠として差し出しました。ブレナンが見抜いたのは、空欄の裏側にもう一つの帳尻が合わされていたことです。無償の代わりに受け取っていたものがあった。
空白の理由まで含めてこの語だと思えば、free との重さの違いが記憶に残ります。
例文で覚える「pro bono」
専門職の文脈で幅広く使える表現です。3つの例文で、置き場所の違いを見ていきましょう。
She takes on two pro bono cases a year.
(彼女は年に2件、無償の案件を引き受けている)
専門家の活動実績を伝える場面です。名詞の前に置いて形容詞として使う形が、最も一般的になります。
The firm designed the shelter’s website pro bono.
(その事務所は避難施設のサイトを無償で制作した)
法律以外の専門職へ広がった使い方です。動詞のあとに副詞として置くと、報酬なしで行ったことが示せます。
A: Can you afford a lawyer?
B: No, but the clinic found me one who works pro bono.
A: That’s a relief.
(A:弁護士を頼む余裕はあるの?)
(B:ないけど、無償で引き受けてくれる人を相談所が見つけてくれた)
(A:それはよかった)
支援を受ける側から話す場面です。works pro bono と現在形にすると、その人の姿勢そのものを指せます。
あわせて覚えたい関連表現
volunteer
(自ら進んで行う、無償で奉仕する)
技能の有無を問わず、あらゆる奉仕活動に使える一般語です。pro bono が職業上の専門技能を無償で提供することに限られるのに対して、こちらは範囲がずっと広くなります。
free of charge
(無料で)
料金が発生しないという事実だけを述べる、中立的で事務的な言い方です。pro bono が持つ公益のためという含みはなく、案内文や請求書の注記にも使えます。
at cost
(原価で)
利益を乗せず、実費だけを受け取ることを指します。無償ではない点で pro bono と分かれ、値引きの根拠を説明する場面で使われます。
Note|無償の仕事に時間の目標を置く、法曹界の規範
pro bono がラテン語のまま英語に残っているのは、この言葉が特定の職業倫理と長く結びついてきたからです。
アメリカ法曹協会が定める模範規則には、弁護士は毎年一定時間以上の無償法律サービスを行うことを目指すべきだという条項が置かれています。目安として示されている時間数は年間50時間ほどで、義務ではなく努力目標という位置づけです。それでも州の弁護士会や大手事務所が独自の目標を掲げ、実績を公表することがあり、業界の中では実効性を持った規範として働いています。
背景にあるのは、法廷で代理できるのが弁護士だけだという職業の独占性です。費用を払えない人は、権利があっても手続きに近づけなくなる。その穴を、独占を認められた職業集団の側で埋める。pro bono publico という語が、単なる無料奉仕ではなく職業上の責務として使われてきたのは、この構図があるからです。
一方で、医師の世界にこれに相当する統一規範はありません。無償の診療や手術は、個人や団体の判断で行われます。だからこそ、劇中で美容外科医がこの語を選んだとき、その言葉はどこか借り物めいて響きます。彼が引き寄せようとしたのは、法曹の世界で長い時間をかけて積み上げられてきた信用でした。
言葉の重みは、それを背負ってきた人たちが作るのかもしれません。
まとめ|値札のない仕事の、理由の側
pro bono は、無料であることではなく、公益のために行うという理由の側を指す言葉です。同じくお金を取らない場合でも、free とは背負っているものが違います。
この一言があると、報酬なしで引き受ける理由まで一緒に伝えられます。値引きでも好意でもなく、職業として社会に返している。その立ち位置を短く示せるので、履歴や紹介文の中でも働いてくれます。
ただし、高潔に響く言葉ほど、都合よく借りられてしまうものでもあります。取調室でこの語が出た瞬間に Why? と返したブレナンの一言は、そのことを静かに教えてくれるのかもしれません。


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