海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
新しい仕事や道具に向き合って、頭では手順を理解しているのに手がまったくついてこない。そんな時期が誰にでもあります。周りは簡単そうにこなしているのに、自分だけ何度やってもぎこちない。そういう数日間です。
そんな時期を言い表す「get the hang of」を、『メンタリスト』シーズン2第4話の中盤、父を亡くしたばかりの高校生が運転の練習に苦戦し、助手席のジェーンに弱音をこぼす場面から、一緒に見ていきましょう。
「get the hang of」の意味とニュアンス
get the hang of
意味:コツをつかむ、要領を覚える
hang には「垂れ方」「下がり具合」という名詞の意味があり、布地や道具を扱ったときの手ざわりを指す言葉として使われてきました。その「扱った感じ」をつかむ、というのがこの表現の成り立ちです。
指しているのは、理屈で理解することではありません。説明を聞いて納得する段階を越えて、繰り返すうちに手や体がなじんでいく過程を表します。だから、努力や根性ではなく慣れの話をするときに選ばれます。同じ動作を何度もやってみて、ある日ふっと力が抜ける。あの感覚に近い表現です。
会話でよく現れるのは三つの形です。You’ll get the hang of it という励まし、I’m getting the hang of it という途中経過、そして今回のシーンのような I’m never gonna get the hang of this という嘆きです。未来形なら希望、進行形なら手応え、否定形ならもどかしさ。どの形で使うかで、話し手が今どのあたりにいるのかが伝わります。
【ここがポイント!】
- 手に持ったときの感じをつかむ、という身体的なイメージが核にある表現
- 理屈での理解ではなく、慣れて自然にできるようになる過程を指す一言
- 励まし・途中経過・嘆きの三つの形で覚えると、そのまま会話に出しやすい
『メンタリスト』S02E04のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
被害者の自宅前の私道で、高校生の息子が免許取得に向けた運転練習をしています。助手席に座っているのはジェーンです。父を亡くしたばかりの少年は思うように操作できず、いらだちを募らせていきます。その口から出るのが今回のフレーズです。
Jane: You need to relax.
(力を抜くといい。)Lucas: It’s not gonna help. I’m never gonna get the hang of this.
(そんなの意味ないよ。どうせ一生コツなんてつかめない。)Jane: That’s an easy fix. You need the right instructor. All right. So now you can speed up a little. Excellent. I like how you’re keeping your distance. Just trust your instincts. They’re always right.
(それは簡単に直せる。教える人を変えればいい。よし、もう少しスピードを上げてごらん。いいね。車間の取り方がうまい。自分の勘を信じて。勘はいつも正しい。)The Mentalist Season2 Episode4 (Red Menace)
シーン解説と心理考察
一生コツなんてつかめない、という言い方には、運転の話を越えたものが混じっています。少年が苦戦しているのはハンドル操作ですが、彼を追い詰めているのは、うまくできない自分を見られている状況のほうです。
それに対してジェーンが返したのは、慰めでも励ましでもありませんでした。問題は君ではなく教える側にある、と原因の置き場所をずらしています。責める材料を取り上げてしまえば、相手は自分を責める必要がなくなる。その手つきが、このあと少年が口を開いていく土台になっています。
続く言葉が操作の指示から「自分の勘を信じて」へと移っていくのも見どころです。運転の助言のようでいて、少年がこれから向き合うことへの言葉にもなっている。二重の意味が一つの台詞に重なっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
初めて手に取った道具を、軽く振って重さや傾きを確かめる動作を思い浮かべてみてください。説明書を読む前に、まず手で確かめる。あの数秒でつかもうとしているものが hang です。
このシーンの少年は、まだその段階にいます。ハンドルもブレーキも、手の延長になっていない。だから力が入り、余計にぎこちなくなる。get the hang of がつかめていない状態を、これ以上ないほど分かりやすく見せてくれる場面です。
頭で覚えるのではなく手が覚える。その違いを意識しておくと、study や learn ではなくこの表現を選ぶ場面が自然に見えてきます。
例文で覚える「get the hang of」
励ましにも、報告にも、愚痴にも使える表現です。三つの形を場面ごとに見ていきましょう。
It took me a month to get the hang of the new system.
(新しいシステムに慣れるのに一か月かかりました。)
業務ツールが変わったあとの感想を同僚と共有する場面です。It took … to と組み合わせると、習熟までの期間まで一緒に伝えられます。
I never got the hang of parallel parking.
(縦列駐車だけは、最後までコツがつかめませんでした。)
苦手なことを笑い話として語る言い方です。never を使うと、あきらめまで含んだ軽い自嘲になります。
A: I keep messing up the espresso machine.
B: Don’t worry. You’ll get the hang of it in a week.
(A:エスプレッソマシン、何回やっても失敗するんです。)
(B:心配いらないよ。一週間もすればコツをつかめるから。)
新しく入った職場で先輩が声をかけるやり取りです。この未来形が、この表現のいちばん出番の多い形になります。
あわせて覚えたい関連表現
get used to
(〜に慣れる)
できるようになることではなく、抵抗がなくなることに焦点があります。嫌なことにも使える点が、技能の習得を指す get the hang of との違いです。
pick something up
(自然に身につける)
意識して練習しなくても覚えてしまう場合に使います。言語や癖のように、いつのまにか身についたものを語るときになじみます。
get the knack of
(要領をつかむ)
ほぼ同じ意味ですが、knack には生まれつきの器用さという含みもあり、少し技巧寄りの響きになります。置き換えて使える場面が多い表現です。
Note|「つかむ」で語られる習得の言葉
get the hang of の hang は、手に持ったときの感じを指しています。同じように、英語では習得を「つかむ」系の短い語で語る言い方がいくつも並びます。
grasp the concept(概念をつかむ)、get a grip on the situation(状況を把握する)、catch on(のみこむ)、pick up a skill(技能を身につける)。どれも本来は手や体の動作を表す語で、そこから「理解する」「できるようになる」へと広がりました。注目したいのは、どの語も短いという点です。hang、grip、grasp、catch。一音節の語が並びます。理解を表す語には understand や comprehend のような長い語もありますが、そちらは頭の中の作業を指すのに対し、短い語のほうは手が届いた瞬間を指しています。音の短さが、動作の一瞬性とそのまま重なっているのが面白いところです。日本語でも「つかむ」「のみこむ」「身につく」と、体の動きを借りた言い方が並びます。
こう見ると、get the hang of が study や learn と交換できない理由が見えてきます。この表現が描いているのは、知識が増えた状態ではなく、手が届いた瞬間なのです。だから、うまくできない時期の嘆きにも、できるようになる予感を語る励ましにも使えます。
つかめた瞬間は、たいてい音もなくやってくるものです。
まとめ|うまくいかない時間の呼び方
get the hang of は、まだ手がなじんでいない時期と、なじんだあとの状態を一本の線でつなぐ表現です。できないことを能力の問題ではなく、慣れの途中として言い表せます。
この言い方を知っていると、苦戦している相手にかける言葉が変わります。頑張ってと言う代わりに、じきにコツをつかめるよ、と伝えられる。自分について語るときも同じで、向いていないのではなくまだ途中なのだ、と位置づけ直すことができます。
うまくいかない時間にちょうどよい名前をつけてくれる、そんな一言が助手席から差し出された場面でした。


コメント