海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
応援しているチームの試合中、誰かが「これはもう勝ったな」と口にした瞬間、なんとなく嫌な予感がする。そんな場面があります。
そんなときに使えるのが「put the hex on someone」で、相手に呪いをかける、という意味を持ちます。『メンタリスト』シーズン1第18話の中盤、CBIの取調室で、チョウが催眠術の使い手であるリック・ティグラーを追い込んでいく場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「put the hex on someone」の意味とニュアンス
put the hex on someone
意味:〜に呪いをかける、〜を思いどおりに操る
hex は「呪い、まじない」を指す名詞です。put the hex on … で「〜の上に呪いを置く」、つまり相手に呪いをかけるという形になります。冠詞は a になることも多く、put a hex on … もごく普通に使われます。
実際の会話では、本気で魔術を信じているというより、不運を招く・調子を狂わせるという比喩で使うのがほとんどです。試合前に勝利を口にした友人に向かって「縁起の悪いことを言うな」と返すような場面が、いちばん典型的な使いどころになります。
もうひとつの使い方が、劇中のように「相手の意思を外から操る」という方向への広げ方です。催眠術、人心掌握、交渉のうまさ。理屈で説明しきれない影響力を、呪いになぞらえて言い表します。魔術めいた語感があるぶん、真剣な告発よりも、からかいや当てこすりの調子によくなじみます。
【ここがポイント!】
- 核は「相手の上に見えない呪いを置く」という絵
- 本気の呪詛より、縁起かつぎや当てこすりで使われることが多い一言
- 人を操るうまさを皮肉る方向にも広げられるのがこの表現の幅
『メンタリスト』S01E18のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
CBIの取調室。逃走を図って身柄を確保されたリック・ティグラーが、チョウの尋問を受けています。ティグラーは神経言語プログラミングを教えるダニエル博士の筆頭助手で、催眠術の腕は組織内でも指折りとされる人物です。チョウは正面から問い詰めず、まず相手の職業的な自負をくすぐる方向から入っていきます。その流れの先に、このフレーズが置かれます。
Cho: Everyone says you’re Dr. Daniel’s number one guy.
(誰もがあなたをダニエル博士の右腕だと言っている)Rick: I’m proud to assist Dr. Daniel. I’m good at what I do.
(博士を補佐できることを誇りに思っている。自分の仕事には自信がある)Cho: If anyone could put the hex on Carl Resnick, it’s you.
(カール・レズニックに催眠をかけられる人間がいるとしたら、それはあなただ)Rick: I wouldn’t say that. No.
(そうは言わない。違う)The Mentalist Season1 Episode18(Russet Potatoes)
シーン解説と心理考察
直前でティグラーは「自分の仕事には自信がある」と胸を張ったばかりです。その言葉を受け取ったうえで放たれるのが、この一言。腕前を認める形を取りながら、その腕こそが容疑の根拠なのだと突きつけています。持ち上げと追い込みが同時に走る構図が、この場面の見どころです。
チョウのやり方には無駄がありません。犯行の可能性を並べ立てるのではなく、相手自身が誇っているものを、そのまま証拠の側に置き換えてしまう。ティグラーは自分の腕を否定しない限り反論できなくなり、返せたのは短い打ち消しだけでした。
hex という語の選び方にも意味があります。hypnotize(催眠をかける)ではなく、あえて呪いの語を使うことで、専門技術を胡散臭いものとして扱う響きがにじむ場面になっています。相手の誇りに敬意を払っているようで、実は値踏みしている。その二重性が会話の温度を変えています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
hex は、とんがり帽子の魔女が指先から何かを送り込む絵で覚えるとよいでしょう。put the hex on は、その見えない何かを相手の上に「置く」動作そのものです。置かれた側は、なぜ調子が狂うのか自分では説明できません。
劇中の場面と重ねると、この語の持ち味がはっきりします。催眠術師に向かって「呪いをかけられる者がいるとしたら、それはあなただ」と告げる取調室。褒めているようでいて、逃げ道をふさいでいる。褒め言葉と当てこすりの境目に立つ一言だという感覚を、この場面ごと覚えておくと使い分けを外しません。
例文で覚える「put the hex on someone」
縁起かつぎで使うか、人を操るうまさを指すかで、表情が変わる表現です。三つの場面で見ていきましょう。
Don’t say we’re going to win. You’ll put the hex on us.
(勝つなんて言わないで。縁起が悪くなるから)
試合や勝負ごとを観戦していて、勝利を口にした友人を止める場面。冗談として言うのが前提の、いちばん日常的な使い方です。
Every time I bring this umbrella, it rains. Someone must have put a hex on it.
(この傘を持ってくると必ず雨だ。誰かが呪いをかけたに違いない)
妙に運の悪いものについて笑い話をするときの一言。冠詞が a になる形も自然で、特定の呪いを指す the とは軽く使い分けられています。
A: How did you get him to agree so fast?
B: No idea. She just walks in and puts the hex on everyone.
(A:どうやってあんなに早く彼を納得させたの?)
(B:さあね。彼女は部屋に入るだけで、みんなを落としてしまうから)
交渉上手な同僚について話す場面です。悪い意味に限らず、人を惹きつける力を茶化して言うこともできます。
あわせて覚えたい関連表現
jinx someone
(〜に不運を呼び込む、縁起の悪いことを言って台無しにする)
動詞一語で済むぶん軽く、日常での使用頻度は今回のフレーズより高くなります。魔術のにおいが薄いのが違いです。
put a curse on someone
(〜に呪いをかける)
curse は hex より重く、本気の呪詛や物語の中の呪いを指します。冗談で使うと大げさに響くため、軽い場面では hex のほうが向きます。
put the whammy on someone
(〜に不運を仕掛ける、〜に一撃を食らわせる)
さらにくだけた俗語寄りの表現で、コミカルな響きを持ちます。double whammy(二重の打撃)の形でよく知られています。
Note|ドイツ語の「魔女」から届いた一語
呪いを表す英語なら curse や spell が思い浮かびます。それなのに、なぜ hex という短い一語がアメリカ英語に居場所を持っているのでしょうか。
hex はドイツ語で魔女を意味する Hexe に由来し、ペンシルベニア州に入植したドイツ系移民の言葉、いわゆるペンシルベニア・ダッチを通じて19世紀のアメリカ英語に入ったとされています。移民たちが持ち込んだのは言葉だけではありません。同じ地域には、納屋の外壁に描かれる色鮮やかな幾何学模様があり、hex sign と呼ばれています。星形や花のかたちを円の中に収めた図案で、現在も観光の目玉として残っています。
興味深いのは、この模様の意味づけが地元でも一致していない点です。災いを遠ざける魔除けだったという説がある一方、装飾以上の意味はなく、後年になって観光的に呪いの物語が結びついたという見方もあります。hex という語そのものも、恐れられる呪いから、縁起かつぎの軽い冗談へと重さを変えながら使われてきました。
そう考えると、put the hex on someone が本気の呪詛ではなく、からかいや当てこすりに落ち着いているのは自然な流れに見えてきます。もともと移民の暮らしとともに渡ってきた言葉が、時間をかけて日常の語彙へなじんでいった結果なのかもしれません。
呪いという強い言葉ほど、使われるうちに角が取れていくようです。
まとめ|呪いという言葉のやわらかさ
put the hex on someone は、相手の上に見えない呪いを置くことを指す表現です。実際には本気の呪詛ではなく、縁起の悪いことを言って台無しにする、あるいは説明のつかない影響力で人を動かす、といった場面で使われます。
会話に入れておくと、勝負ごとの前の縁起かつぎから、交渉上手な人物へのからかいまで、幅広くカバーできるようになります。curse ほど重くならず、jinx より少し古風で表情がある。その中間の温度を持っているのが、この表現の使いどころです。
劇中のチョウは、この一語で相手の誇りを証拠に変えてしまいました。褒め言葉のかたちをした追い込みとして、表現の引き出しに加えてみてください。


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