海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
何か頼みごとがあるとき、つい相手をいつもより褒めてしまう。あるいは、急に褒めてくる相手に「これは何か裏があるな」と感じたこと、ありませんか。
そんな駆け引きにぴったりの「butter someone up」を、『ビッグバン★セオリー』シーズン3第15話の後半、シェルドンがペニーを説得しようとして大失敗する、ランドリールームのシーンから一緒に見ていきましょう。
「butter someone up」の意味とニュアンス
butter someone up
意味:〜のご機嫌を取る、おだてる、おべっかを使う
何か頼みごとや見返りを期待して、相手を褒めて気分よくさせることを表します。多くの場合、「下心が透けて見える」というやや否定的な含みを伴います。
ただ純粋に褒めるのとは違い、「あとで何かをお願いしたいから、先に持ち上げておく」という計算が背景にあるのがポイントです。up が「すっかり〜する」という完了・強調を添えていて、「相手をすっかりいい気分にさせる」という方向性を示しています。昇給を頼む前に上司を持ち上げる、頼みごとの前にやたらと褒める——そんな行動を指摘したり、軽く揶揄したりする場面でよく登場します。日常会話で人間関係の機微を表すのに、とても便利な表現です。
【ここがポイント!】
- パンにバターをたっぷり塗るように、相手の気分を「なめらかに」する覚え方
- ただ褒めるのではなく、「見返り目当て」という下心がにじむ表現
- 「ご機嫌取り」「おべっか」と訳すと、皮肉っぽいトーンが伝わりやすい
『ビッグバン★セオリー』S03E15のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
シェルドンは、自分をスイスに連れて行くようペニーを説得しようと、パワーポイントのプレゼンを始めます。ところが冒頭から、自分とペニーを露骨に比較する内容で、説得どころか侮辱になってしまいます。
Sheldon: Here we have a highly gifted researcher in the field of particle physics. AKA me. And here we have a waitress brushing her teeth with her finger. AKA you.
(こちらは素粒子物理学における極めて優れた研究者。すなわち私だ。そしてこちらは指で歯を磨くウェイトレス。すなわち君だ。)Penny: I’m sorry. Is this supposed to be buttering me up?
(ちょっと待って。これって、私のご機嫌を取ってるつもり?)The Big Bang Theory Season3 Episode15(The Large Hadron Collision)
シーン解説と心理考察
説得したい相手であるはずのペニーを、「指で歯を磨くウェイトレス」と見下すシェルドン。それを聞いたペニーが「これでご機嫌を取ってるつもり?」と皮肉で返すのが、このやりとりのオチになっています。
本来 butter someone up は「相手を持ち上げる」行為のはず。なのにシェルドンは正反対に相手をこき下ろしており、その的外れぶりが彼の社会性の欠如を物語っています。ペニーの一言は、フレーズ本来の意味を皮肉な形で逆から教えてくれる、絶妙なツッコミだと言えるでしょう。
『ビッグバン★セオリー』流・覚え方のコツ
固いパンに、バターをたっぷり塗り込む場面を想像してみてください。表面がなめらかになり、つやつやと光って、口当たりがぐっとよくなります。この「相手の気分を滑らかに、心地よくする」イメージが、butter someone up の核です。相手の自尊心という少し固いパンに、お世辞というバターをべったり塗っていく——そう思い描くと忘れにくくなります。劇中のシェルドンは「バターを塗る」どころか相手をこき下ろしていて、ペニーの「これでご機嫌取ってるつもり?」という皮肉が、本来の意味を裏側から照らし出しています。
例文で覚える「butter someone up」
頼みごとの前のご機嫌取りを、ちょっと皮肉を込めて表すフレーズです。3つの例文で、下心のにじみ方を確かめてみましょう。
He’s just buttering you up because he wants a favor.
(彼は頼みごとがあるから、君をおだててるだけだよ。)
相手の下心を見抜いて忠告する場面です。「ただ褒めているわけじゃない」という含みが、はっきり伝わります。
She buttered up her boss before asking for a raise.
(彼女は昇給を頼む前に、上司のご機嫌を取った。)
職場の処世術を語る、定番の場面です。目的(昇給)とセットになることで、計算ずくのおだてだとわかります。
A: Wow, you look amazing today! Is that a new haircut?
B: Okay, what do you want? Stop buttering me up.
(A:うわ、今日すごく素敵だね!髪切った?)
(B:はいはい、何が欲しいの?おだてるのはやめてよ。)
友人同士の軽いやりとりです。露骨な褒め言葉に対し、「魂胆は見え見えだよ」と切り返す、劇中のペニーに近い返し方です。
あわせて覚えたい関連表現
suck up to
(〜にこびへつらう、ゴマをする)
より露骨で軽蔑的な「媚びへつらい」を表します。butter up が「褒めて気分よくさせる」手段に焦点があるのに対し、suck up to はへつらう態度そのものを批判する、きつめの表現です。
flatter
(お世辞を言う、おだてる)
「(事実以上に)褒める」という意味の動詞一語です。butter up は「見返り目当てに継続的に機嫌を取る」行為全体を指すことが多く、こちらは一回の発言にも使える点が違います。
win someone over
(〜を説得して味方につける)
手段を問わず「相手の心をつかむ」中立〜肯定的な表現です。butter up が持つ「下心・おだて」という否定的な含みはなく、正攻法で味方にする場合にも使えます。
Note|なぜ「バターを塗る」が「おだてる」になったのか
食べ物のバターが、どうして「おだてる・ご機嫌を取る」という人間関係の表現になったのか。butter someone up の由来には、いくつかの説があるとされています。
よく挙げられるのが、古代インドで神像にバター(精製した「ギー」)を投げて祈願や感謝を捧げた、という宗教的習慣に遡る説です。神様の機嫌をうかがって供物を捧げる行為が、人に取り入る比喩につながった、という見立てになります。もう一つは、よりシンプルに、なめらかでよく伸びるバターの感触そのものから来たという説。固いパンにバターを塗ると口当たりがよくなるように、相手の心を「滑らかにして取り入る」イメージが言葉になった、という考え方です。どちらが正しいかは断定しにくいものの、いずれの説も「相手を心地よくさせて、自分の望みに近づく」という共通の発想を持っている点が興味深いところです。食卓の身近な食品が、こうして処世術を語る表現へと姿を変えていったわけです。
この背景を踏まえると、butter someone up が単なる「褒める」ではなく、「見返りを期待して心地よくさせる」という、ほんの少し打算的なニュアンスを帯びる理由が見えてきます。
褒め言葉に塗られた、うっすらとした下心——それを言い当てる一語です。
まとめ|ペニーのツッコミに学ぶ「ご機嫌取り」の一言
butter someone up は、頼みごとや見返りを期待して、相手を褒めて気分よくさせる表現です。ただ褒めるのではなく「下心がにじむ」という含みと、バターを塗るなめらかなイメージが、このフレーズの持ち味でした。
この一言を覚えておくと、人間関係の駆け引きや、相手の意図を見抜く場面を、英語で軽妙に表せるようになります。「おだててるでしょ?」と皮肉っぽく返すこともできる、表情豊かな表現です。
シェルドンの的外れな「ご機嫌取り」と、それを見抜いたペニーのツッコミを思い出しながら、butter someone up を表現の引き出しに加えてみてください。


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