海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
大ごとになりそうだと身構えていたのに、ふたを開けてみれば大したことはなかった。「なんだ、あんなに騒いで損した」と拍子抜けした経験はありませんか。
そんなときにぴったりの「much ado about nothing」を、『ビッグバン★セオリー』シーズン6第15話の中盤、家を出たレナードを、シェルドンがペニーの部屋まで連れ戻しに来るシーンから、一緒に見ていきましょう。
「much ado about nothing」の意味とニュアンス
much ado about nothing
意味:から騒ぎ、大騒ぎするほどのことではないこと
much ado about nothing は、実体のないことや些細なことをめぐって、周囲が大げさに騒ぐ様子を表す慣用句です。日本語の「から騒ぎ」「取り越し苦労」にあたり、「あれだけ騒いだのに、結局は何でもなかった」という拍子抜けや皮肉のニュアンスを伴います。
中に含まれる ado は「骨折り・面倒・騒ぎ」を意味する古風な語で、現代英語ではほぼこの表現の中でしか見かけません。シェイクスピアの喜劇のタイトルがそのまま日常句として定着したもので、やや文学的で格式ばった響きを持ちます。make this much ado about nothing(これをから騒ぎにする)のように使われ、過剰反応をたしなめたり、騒ぎの空虚さを評したりする場面で活躍します。
【ここがポイント!】
- 「中身は空っぽなのに、まわりだけが大騒ぎ」を言い表す一言
- ado は古語で、ほぼこの表現専用に生き残っている点が面白いところ
- シェイクスピア由来の格式と、軽い皮肉の両方を帯びるのが読みどころ
『ビッグバン★セオリー』S06E15のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
シェルドンとの口論で家を飛び出したレナードを、シェルドンがペニーの部屋まで追いかけてきます。シェルドンは喧嘩を「大したことではない」と片付け、寛大に許してやるかのような口ぶりで、レナードに戻ってくるよう促します。
Sheldon: She made me realize that this little dust-up between you and me is much ado about nothing.
(エイミーと話していて、君と僕のこのちょっとした諍いは、騒ぐほどのことじゃないと気づかされてね)Leonard: Is that so?
(へえ、そうかい?)Sheldon: Yes. All is forgiven, so come back home.
(そうだとも。すべて水に流したから、家に戻っておいで)The Big Bang Theory Season6 Episode15(The Spoiler Alert Segmentation)
シーン解説と心理考察
喧嘩を much ado about nothing と片付け、「すべて許した」と言ってのけるシェルドンの口ぶりからは、自分が折れたわけではないと印象づけたい思惑がにじみます。格式ばったこの言い回しを選ぶあたりに、知識をさりげなくひけらかしつつ、事態を軽く扱おうとするシェルドンらしさが表れています。
実のところ、シェルドンの本心はエイミーとの同居を避けるためにレナードに戻ってきてほしいだけで、その打算は後から明かされます。寛大さを装う言葉の裏に、自分の都合が隠れている。much ado about nothing という「から騒ぎ」を意味する表現が、まさに自分に都合よく状況を矮小化するために使われているところが見どころです。レナードの素っ気ない Is that so? という返しにも、その魂胆を見透かしている空気が漂っています。
『ビッグバン★セオリー』流・覚え方のコツ
シェイクスピアの舞台で、登場人物たちが「何もない(nothing)」ことをめぐって大げさに右往左往する喜劇を思い浮かべてみてください。タイトルそのものが「実体のない大騒ぎ」を表しているので、「中身は空っぽ(nothing)なのに、まわりだけが大騒ぎ(much ado)」という対比で覚えると、意味がすっと入ります。
このシーンでは、本当はエイミー回避が目的のシェルドンが、自分に都合よく喧嘩を「から騒ぎ」と片付けていました。「大したことないと言いくるめたい人が使う」という、ちょっと皮肉な使われ方とセットにすると、表現の温度感まで一緒に記憶できます。
例文で覚える「much ado about nothing」
から騒ぎを言い表す much ado about nothing は、日常からビジネスまで幅広く登場します。three つの場面で確かめてみましょう。
The whole scandal turned out to be much ado about nothing.
(あの騒動は、結局のところから騒ぎにすぎなかった)
大げさに報じられた件が、ふたを開けてみれば大したことなかった、という場面です。turn out to be と組み合わせて、「結局〜だった」という拍子抜けを表します。
Let’s not make this much ado about nothing—it’s a minor issue.
(これをから騒ぎにするのはやめよう。些細な問題なんだから)
過剰反応を抑える一言です。make this 〜 の形で、「大げさに騒ぎ立てるな」と冷静さを促す、ややフォーマルな使い方になります。
A: Everyone’s panicking about the system update.
B: Honestly, it’s much ado about nothing. It’ll be fixed by noon.
(A:システム更新の件で、みんな大騒ぎしてるよ。)
(B:正直、から騒ぎだよ。昼までには直るって。)
周囲の過熱を冷ます会話です。会話の中で「実際は大したことないよ」と落ち着かせるときに、much ado about nothing がぴたりとはまります。
あわせて覚えたい関連表現
a storm in a teacup / a tempest in a teapot
(ティーカップの中の嵐=から騒ぎ)
小さな器の中の大騒ぎ、という比喩で「から騒ぎ」を表します。意味はほぼ同じですが、storm in a teacup はイギリス、tempest in a teapot はアメリカでよく使われるとされ、much ado about nothing はより文学的な響きを持ちます。
make a mountain out of a molehill
(モグラ塚を山にする=小さなことを大げさに言う)
些細なことを誇張する「行為」に焦点を当てた表現です。騒ぎそのものが空虚だという「結果・状態」を表す much ado about nothing と、視点の置きどころが異なります。
blow something out of proportion
(物事を実際以上に大げさに扱う)
能動的に「誇張する」動作を表す言い回しです。名詞句で騒ぎ全体を一語で評する much ado about nothing に対し、こちらは「大げさにする」という動きを描く点で違いがあります。
Note|シェイクスピア喜劇から生まれた慣用句
much ado about nothing が、どこから日常英語に入ってきたのかをたどってみましょう。
この表現は、シェイクスピアの喜劇のタイトルがそのまま慣用句として定着したものとされます。恋の駆け引きや勘違いをめぐって登場人物たちが大騒ぎする筋立てで、「大した中身もないのに、これほどの騒ぎ」というタイトル自体が、作品の喜劇性を言い当てています。なお、当時の英語では nothing が「取るに足らないこと」と「噂・盗み聞き(noting)」の両方の含みを持っていたとも言われ、タイトルには言葉遊びが重ねられているとする解釈もあります。中心にある ado は、古い英語で「すること・骨折り・面倒」を意味した語とされ、現代ではこの表現や without further ado(前置きはこのくらいにして)といったごく限られた言い回しの中にだけ生き残っています。つまり much ado about nothing は、ふだん使わない古語を一つ抱えたまま、何百年も会話の中で使われ続けてきた表現なのです。
この来歴を知っておくと、シェルドンがあえてこの格式ばった言い回しを選んだ理由も見えてきます。喧嘩を「文学的に」片付けてみせることで、知的に振る舞いながら事態を小さく見せようとする——その狙いが、表現の重みからにじんでくるのです。
数百年前の舞台の言葉が、今日の口げんかを片付けている。言葉の長い命を感じさせる一句です。
まとめ|から騒ぎを「文学的に」片付ける一句
much ado about nothing は、実体のない騒ぎや取り越し苦労を、一語で言い表す表現と言えます。シェイクスピア由来の格式と、「なんだ、大したことなかった」という軽い皮肉の両方を併せ持つところに、この言葉ならではの味わいがあります。
この慣用句を押さえておくと、海外ドラマや英語の会話で、誰かが騒ぎを大げさだと評する場面に出会ったとき、その一言にこもった皮肉やとぼけまで読み取れるようになります。古語 ado を抱えた、少し気取った響きも、使いどころを選べば効果的です。
エイミー回避という本音を隠しながら、喧嘩を「から騒ぎ」と片付けてみせたシェルドン。その小狡さごと味わえる一句として、会話のレパートリーに加えてみてくださいね。


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