海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
初対面ばかりの集まりで、隣に立っている人に話しかけるきっかけがつかめない。何か言おうとしては飲み込んでいるうちに、グラスだけが空いていく。結局ひとことも交わさないまま会場を出る。そんな時間を過ごした経験はありませんか。
そこで役に立つ「strike up a conversation」を、犯罪捜査ドラマ『メンタリスト』シーズン1第13話の前半、ジェーンが被害者の妻に、夫との馴れ初めを言い当ててみせる場面から、一緒に見ていきましょう。
「strike up a conversation」の意味とニュアンス
strike up a conversation
意味:(その場で)話し始める、会話のきっかけをつくる
strike up は、もともと楽団が演奏を始めることを指す言い方です。Strike up the band. と言えば「演奏開始」。弦が弾かれ、太鼓が打たれ、静かだった空気の中に音が立ち上がる。その瞬間を切り取った表現になります。
会話に使うと、あらかじめ決まっていなかった話がその場で自然に立ち上がる感じが出ます。飛行機で隣り合った、レジの列で並んでいた、同じ本を持っていた。そういう成り行きの始まりを含むのが、この言い方の持ち味です。どちらから話しかけたかを問わない点も特徴で、始まりの経緯をぼかしたいときにも使えます。
対象は会話にかぎりません。strike up a friendship(親しくなる)、strike up an acquaintance(知り合いになる)のように、関係そのものが立ち上がる場面にも使えます。逆に、約束していた面談や、前回の続きから再開する話し合いには向きません。演奏は、始まるからこそ始まりだからです。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは、楽団が最初の一音を鳴らして曲が立ち上がる瞬間
- 予定されていなかった会話が、その場で自然に始まるときの一言
- friendship や acquaintance にも置き換えられるので、関係の始まりにも使えるのがコツ
『メンタリスト』S01E13のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
被害者ハリーの前職を尋ねられたステヴィーが「音楽家でした」と答えた瞬間、ジェーンが「ジャズギタリストだね」と先回りします。根拠は遺体の指の形。そこから彼は、二人がどう出会ったのかまで言い当てにかかります。妻が語り出す前に、その先の展開まで奪ってしまう場面です。
Stevie: Yes. He was playing a gig–
(ええ。彼は演奏の仕事で——)Jane: At one of these ghastly, uh, events you have to go to, and you struck up a conversation. You love jazz, so you could talk with him easily, which, uh, normally, is quite difficult for you outside of business.
(出席しなければならない、あの類いのぞっとするような催しでね。そこで君は彼に話しかけた。ジャズが好きだから、彼とは楽に話せた。仕事以外では、普段の君にはなかなか難しいことなのに)Stevie: I… w–yes. That’s–but–
(私…え——ええ。それは——でも——)Lisbon: I’m sorry, Miss Caid. He’s just showing off.
(申し訳ありません、ケイドさん。彼はただ見せびらかしているだけです)The Mentalist Season1 Episode13(Paint It Red)
シーン解説と心理考察
ここで使われている struck up a conversation は、ステヴィーが語った事実ではありません。ジェーンが彼女の性格から逆算して差し出した推測です。仕事の場を離れると人と話すのが苦手な彼女が、その日にかぎって自分から動いた。ジャズという共通の話題があったからだ、という筋書きになっています。
言い当てられた側の反応が見どころです。I… w–yes. That’s–but– と、言葉が形にならないまま途切れていく。否定できないことが、そのまま声の途切れ方に表れています。
そこへリスボンが「彼はただ見せびらかしているだけです」と割って入ります。相手の内面に踏み込んで平然としているジェーンと、その後始末をするリスボン。二人の役割分担が、ほんの数往復のあいだにくっきりと立ち上がっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
楽団が最初の一音を鳴らす瞬間を思い浮かべてみてください。それまで静まり返っていた舞台で、指揮者の腕が振り下ろされる。弦が弾かれ、太鼓が打たれ、音楽が空気の中に立ち上がる。strike up の strike は、この「打つ」動作そのものです。
会話も同じで、無音のところに最初の一音が置かれ、そこから流れが生まれます。だから、後ろに来る名詞が conversation でも friendship でも、絵は変わりません。何もなかったところに音が立ち上がる、という構図が共通しているからです。
劇中では、ジャズギタリストだった夫が演奏していた会場で、妻のほうから話しかけました。音楽が鳴っていた場所で、会話も立ち上がった。この重なりごと覚えてしまうと、strike up の芯にある音が残ります。
例文で覚える「strike up a conversation」
偶然の始まりを表すのが得意な表現です。出会いを語る場面、苦手を打ち明ける場面、なれそめを説明する場面で見てみましょう。
He struck up a conversation with the woman sitting next to him on the plane.
(彼は機内で隣に座っていた女性と話し始めた)
誰かの出会いのきっかけを人に話す場面です。with のあとに相手を続けるのが基本の形になります。偶然の同席という文脈と、とくに相性のいい言い方です。
It’s not easy to strike up a conversation at a networking event.
(交流会で会話のきっかけをつくるのは、簡単なことではない)
人脈づくりの場での苦手意識を打ち明ける場面です。It’s not easy to と組み合わせると、共感を呼ぶ言い方になります。苦手意識を認めつつ、深刻になりすぎない調子が保てます。
A: How did you two meet?
B: We struck up a conversation in line for coffee.
(A:二人はどうやって知り合ったの?)
(B:コーヒーの列で話しかけたのがきっかけ)
なれそめを短く説明する場面です。主語を we にすると、どちらから話しかけたかをぼかせます。始まりの場所を添えると、情景まで一緒に伝わります。in line for ~ のような短い句が、そのまま思い出の輪郭になります。
あわせて覚えたい関連表現
start a conversation
(会話を始める)
中立で汎用的な言い方です。strike up が成り行きで立ち上がった感じを含むのに対して、こちらは意図して切り出す場合にも問題なく使えます。説明的な文脈では、こちらのほうが収まります。
make small talk
(世間話をする)
交わされる中身の軽さを指す表現で、始まりの瞬間そのものは指しません。strike up a conversation で始めた話が small talk で終わることも、深い話へ進むこともあります。会話の中身のほうに目を向けた言い方です。
break the ice
(場の緊張をほぐす)
張り詰めた空気を取り除くことに焦点があり、その場に気まずさが先にあることが前提になります。strike up は、緊張の有無に関係なく、無から会話が立ち上がる動きを指します。初対面の場をほぐす工夫そのものを指すこともあります。
Note|楽団の一音から、会話の一言へ
strike は「打つ」。その動詞が、なぜ会話の始まりを表すことになったのでしょうか。手がかりは、この語がもともと置かれていた場所にあります。
strike up は、楽器を打ち鳴らして演奏を始めることを指す言い方だったと説明されることが多い表現です。Strike up the band.(バンド、演奏開始)という号令の形は今も残っており、行進や式典で楽団に合図を送るときに使われてきました。打楽器を叩き、弦をはじいて、静けさの中に音を立ち上げる。その動作が、この句の中心にあります。
そこから対象が広がっていきます。立ち上がるのは音楽だけではありません。会話も、友情も、恋愛も、何もなかったところから始まるものです。strike up a conversation、strike up a friendship、strike up a romance。いずれも「静かだった場所に、何かが鳴り始める」という同じ絵を共有しています。
strike という動詞が担う比喩は、ほかにも広く残っています。strike a chord は、弦をはじいて和音を鳴らすことから「共感を呼ぶ」へ。strike a balance は、天秤の皿を打つ動きから「釣り合いを取る」へ。strike a deal は、手を打ちつける仕草から「取引をまとめる」へ。どれも、一度の打撃で何かが確定するという感覚を共通して持っています。
劇中のジェーンが struck up a conversation という言い方を選んだのは、ステヴィーの側から会話が始まったと見立てていたからです。声をかけられたのではなく、自分で最初の一音を鳴らした。仕事の外では人と話すのが苦手なはずの彼女が、その日だけは指揮棒を振った。その不自然さが、彼の推理の入り口になっています。
最初の一音を鳴らすのが誰なのか、この動詞は静かに示しています。
まとめ|最初の一音を鳴らすということ
strike up a conversation は、予定されていなかった会話がその場で立ち上がることを表す言い方です。楽団が最初の一音を鳴らす動作から生まれた表現で、静けさを破って何かが始まる感じを一語で運びます。
出会いを語るとき、この表現はとても便利です。誰から話しかけたのか、どんな話題だったのか、なぜその場だったのか。細かく説明しなくても、struck up a conversation の一言で、偶然と自然さが同時に伝わります。conversation を friendship に替えれば、そのまま関係の始まりの話にもなります。
ジャズの流れる会場で、ふだんは人と話すのが苦手な女性が、自分から最初の一音を鳴らした。そこから始まった関係の行方を、捜査官たちが静かにたどっていく場面でした。


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