海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
もっともらしい話をすっかり信じて動いたのに、あとになって作り話だと分かり、力が抜けてしまった。そんな経験はありませんか。
そんなときに使えるのが「yank someone’s chain」で、人をからかう、担ぐ、という意味です。『メンタリスト』シーズン1第17話の冒頭、予告された時刻と座標を頼りに砂漠まで来たリズボンが、何も起こらないまま撤収を告げる場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「yank someone’s chain」の意味とニュアンス
yank someone’s chain
意味:人をからかう、担ぐ、いっぱい食わせる
yank は「ぐいっと引っぱる」という動作を表す語です。chain は鎖。つながれた相手の鎖を、こちらの都合で不意に引く。その一動作から生まれた言い回しになります。
指しているのは、相手が本気にすると分かったうえで、嘘や大げさな話で振り回す行為です。だます、という重い言葉ほどの悪意はなく、反応を引き出して面白がるいたずら寄りの含みが中心にあります。
You’re yanking my chain. のように、振り回された側が相手に向かって言う形が最もよく耳にする言い方です。主語を somebody にすると、劇中のように誰にやられたか分からないまま状況だけを言い切ることもできます。
くだけた口語表現で、書き言葉にはほとんど出てきません。目上の相手に向けて使うと軽すぎる響きになるため、気心の知れた間柄で使う一言だと押さえておくと安全です。
【ここがポイント!】
- 核は「つながれた鎖を、こちらの都合でぐいっと引く」という動作
- だますより軽く、相手の反応を楽しむいたずら寄りの一言
- くだけた響きなので、気心の知れた相手との会話で使うのがコツ
『メンタリスト』S01E17のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
州司法長官のもとに、犯行を予告するメールが届きます。指定されたのは午前11時5分と、モハーベ砂漠のただ中を示す座標。片道3時間を飛ばしてたどり着いたCBIチームでしたが、時刻を過ぎても砂と岩が広がるばかりで、何も起こりません。拾った化石に上機嫌のジェーンをよそに、リズボンは撤収を告げます。その一言に、この表現が使われています。
Lisbon: Okay, we’ve done our job. Somebody yanked our chain pretty good. Let’s go.
(もういいわ、やることはやった。誰かにまんまとかつがれたのよ。行きましょう)Jane: Wait. I think we should wait.
(待って。もう少し待つべきだと思うんだ)Lisbon: What for? What could possibly happen?
(何のために? 何が起きるっていうの)Jane: I have no idea, but it’s a pleasant spot, and I have sandwiches.
(さあね。でもいい場所だし、サンドイッチもある)Lisbon: We’ll eat ‘em in the car. We’ve wasted enough time.
(車の中で食べればいいでしょ。もう十分に時間を無駄にしたわ)The Mentalist Season1 Episode17(Carnelian, Inc.)
シーン解説と心理考察
リズボンの一言は、失敗の報告ではなく幕引きの宣言として響きます。予告メールは知事にまで届き、州の捜査機関がまるごと動きました。その結果が空振りだったことを、悪意ある誰かのいたずらだったと言い切ってしまう。責任の所在を自分たちの外側に置くことで、無駄になった3時間に区切りをつけようとする姿勢が表れています。
pretty good という言い添え方も見どころです。うまくやられた、と相手の手際を認める形になっていて、怒りよりも敗北感が前に出ます。ここで強い罵り言葉が選ばれていないことが、リズボンの職業的な冷静さをやわらかく見せています。
一方のジェーンは、まだ何も終わっていないと感じています。理由は説明できず、持ち出すのはサンドイッチという頼りない口実だけ。噛み合わないまま会話が終わりかけたところで、遠くから悲鳴が届きます。かつがれたという結論のほうが覆される、その直前の数十秒がこの場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
首輪につながれた犬の鎖を、飼い主がふざけて何度もぐいっと引く場面を思い浮かべてみましょう。犬は散歩だと思って毎回飛び起きますが、扉は開きません。引かれるたびに反応してしまう側、そこに立たされるのがこの表現の感覚です。
砂漠に立つCBIチームは、まさにその犬の側にいました。一通のメールに知事も司法長官も飛び起き、車で3時間の道を走らせた。そして扉は開かなかった。遠くで鎖を握って笑っている誰かの姿まで一緒に想像しておくと、悪意よりも「振り回された」という徒労感がこの表現の中心にあることを思い出せます。
例文で覚える「yank someone’s chain」
冗談を疑うときにも、後日笑い話にするときにも使える表現です。三つの例文で、その振れ幅を見ていきましょう。
Wait, you’re not really quitting, are you? You’re yanking my chain.
(待って、本当に辞めるわけじゃないよね。かついでるでしょ)
友人の重大発表が冗談かどうか探る場面です。進行形にすると、今まさに振り回されている最中だという臨場感が出ます。
I bought the whole story. He really yanked my chain on that one.
(話をまるごと信じちゃったよ。あれは完全にやられたね)
後日、自分がかつがれたと気づいて笑い話にする場面です。on that one を添えると「あの件では」と範囲が限定され、根に持っていない軽さが伝わります。
A: Congratulations, you got the promotion.
B: Seriously? You’d better not be yanking my chain.
(A:おめでとう、昇進だってさ)
(B:本当に? かついでたら承知しないからね)
同僚から吉報を聞かされ、半信半疑で確かめる場面です。you’d better not be と組むことで、嬉しさと疑いが同居した言い方になります。
あわせて覚えたい関連表現
pull someone’s leg
(人をからかう、冗談を言って担ぐ)
同じ「からかう」でも、こちらは最も一般的で響きの軽い言い方です。今回の表現には振り回された側の徒労感がにじみますが、こちらは純粋な冗談として収まります。
jerk someone around
(人を振り回す、いいように引きずり回す)
冗談ではなく、返事を先延ばしにするなど実害を伴う振り回し方を指します。今回の表現にあるいたずらの軽さは、こちらにはほとんどありません。
mess with someone
(人をからかう、ちょっかいを出す)
射程が広く、軽い冗談から本気の妨害まで含みます。I’m just messing with you. は種明かしの定型句で、今回の表現より使える場面が広い言い方です。
Note|「からかう」を強さ順に並べる
日本語の「からかう」は便利な一語ですが、英語はこの領域を何段にも分けて持っています。今回の表現がどのあたりに位置するのかを、並べて確かめてみましょう。
最も軽いのが pull someone’s leg です。冗談で相手を信じ込ませるだけで、あとには何も残りません。次に来るのが今回の yank someone’s chain。信じた側が実際に動いてしまい、徒労感が残るところまで含みます。劇中のCBIチームは片道3時間の道のりを往復しました。ここが pull との差になります。さらに進むと mess with someone。軽い冗談から嫌がらせまで幅があり、口調と場面で意味が決まります。最も重いのが jerk someone around で、返事を引き延ばす、約束を反故にするといった実害を伴う振り回し方を指し、冗談の色はほぼ消えています。
四つを並べると、今回の表現が「無害な冗談」と「迷惑行為」のちょうど中間にあることが見えてきます。相手を本気で怒らせるほどではないけれど、振り回された側には何かが残る。劇中のリズボンが苛立ちながらも撤収を選べたのは、その中間の重さだったからだと読み取れます。
からかいにも、ちゃんと目盛りがあるようです。
まとめ|3時間の徒労を、一言で片づける
yank someone’s chain が指しているのは、嘘そのものよりも、それを信じて動いてしまった側に残る徒労感です。だました、だまされたという重い構図ではなく、鎖を引かれて飛び起きたという軽い絵で状況を言い切れる。そこにこの表現の使いどころがあります。
会話に入れておくと、いたずらや作り話に振り回されたときの説明が一気に短くなります。友人の冗談にも、出所の怪しい情報にも、社内に流れた誤報にも使えて、深刻さの度合いは口調のほうが調整してくれます。
劇中のリズボンは、州をまるごと動かした空振りを、この三語で幕引きにしました。悔しさを抱えたまま、それでも次へ進むための言葉。そんな一言です。


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