海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
根拠を三つ並べたところで、相手がまだ首をかしげている。もう答えは出ているのに、と言いたくなる場面があります。
そんなときに使われるのが「do the math」で、計算すれば分かる、考えれば答えは明らかだ、という意味です。『メンタリスト』シーズン2第1話の終盤、事情聴取を終えたリズボンが、容疑者についての見立てをジェーンにぶつける場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「do the math」の意味とニュアンス
do the math
意味:計算すれば分かる、考えれば答えは明らかだ
字義どおりには「その計算をやってみて」。実際に数字を足し引きしてほしい場面でも使いますが、会話でよく登場するのは比喩のほうです。材料はもう並べた、あとはつなげれば結論に届くはずだ、と相手に促します。
特徴は、結論を自分の口から言わない点にあります。断定を避けながら確信だけを伝えられる。相手に最後の一歩を踏ませることで、押しつけずに納得させる働きをします。
裏を返せば、言い方によっては「これくらい分かるでしょう」という響きも出ます。相手の理解力を試すような含みが乗るため、目上の人や取引先に向けて使うと角が立ちます。
イギリス英語では maths と略すため、do the maths という形も見られます。ただし成句としての使用はアメリカ英語のほうが多くなります。
【ここがポイント!】
- 核は「材料は並べた、あとはそちらで足し算を」という差し出し方
- 結論を言わずに確信だけ渡せる。断定を避けたいときに効く言い方
- 相手や口調しだいで見下した響きも出る。使う相手を選ぶのがコツ
『メンタリスト』S02E01のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
被害者の娘への事情聴取が終わり、リズボンとジェーンが取調室の外で言葉を交わします。娘は失踪した母から毎月現金を受け取っていたと認めたばかりで、しかもそれを警察にも父親にも黙っていました。状況証拠は一方向に並びつつあります。ところがジェーンの反応は、リズボンの期待とは違いました。
Lisbon: I like her for this.
(私は彼女が怪しいと思う)Jane: How so?
(どうして?)Lisbon: She despises Mom. Mom’s got $1 million stolen dollars, gets in contact secretly. Do the math.
(彼女は母親を嫌っている。その母親は盗んだ100万ドルを持っていて、こっそり連絡を取ってきた。計算すれば分かるでしょ)Jane: Maybe.
(かもね)Lisbon: No? What’s your take?
(違うの? あなたの見立ては?)Jane: I’d be guessing. Could be anybody.
(当てずっぽうになるよ。誰だってありうる)The Mentalist Season2 Episode1(Redemption)
シーン解説と心理考察
リズボンは三つの材料を並べています。動機、金額、秘密の接触。順番に置いたうえで、結論だけを言わずに Do the math. で締めました。自分の見立てを主張として押し出すのではなく、相手に足し算をさせる形にしています。
ここには自信の表れがあります。材料が十分なら、誰が計算しても同じ答えになるはずだ。その前提がなければ、この言い方は選べません。
返ってきたのは Maybe. の一言だけでした。否定でも同意でもない。この短さが会話の温度を変えています。続く What’s your take? には、いつもなら食いついてくるはずの相手が乗ってこないことへの戸惑いがにじみます。
I’d be guessing. という返しも、ジェーンらしくありません。推理を披露するのが常の人物が、当てずっぽうになると言って引いている。この日の彼が別の事件に気を取られていることが、この短いやり取りだけで伝わってきます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
黒板に数字が三つだけ書かれていて、答えの欄が空白のまま残っている。書いた人は答えを知っているのに、あえて埋めずに白いチョークを差し出してくる。その場面を思い浮かべてください。
do the math は、この「答えを埋めるのはそちら」という差し出し方そのものです。劇中のリズボンは、動機と金額と秘密の連絡という三つの数字を並べ、最後の欄をジェーンに預けました。自分で言い切るより、相手に埋めさせたほうが強い。差し出されるチョークの絵を覚えておけば、この表現が単なる「計算しろ」ではないことがすぐ思い出せます。
例文で覚える「do the math」
数字そのものを扱う場面から、結論を委ねる場面まで幅があります。三つ並べて見ていきましょう。
Let’s do the math before we commit to this project.
(この案件を引き受ける前に、数字を出しておきましょう)
採算の検討を提案する場面。Let’s と組み合わせると皮肉の色が消え、実務的な呼びかけになります。
Three people, eight hours, one week. Do the math.
(3人、8時間、1週間。計算すれば分かるでしょう)
無理な納期を断る場面です。数字を並べてから使うと、感情を出さずに不可能だと示せます。
A: I don’t get why he’s always broke.
B: New car, new apartment, no raise. Do the math.
(A:あいつ、なんでいつも金欠なんだろう)
(B:新車に、新しい部屋に、昇給なし。考えれば分かるでしょ)
同僚との軽い雑談で、結論をぼかしながら伝える場面。名詞を三つ並べてから置くのが、この表現の定番の形です。
あわせて覚えたい関連表現
put two and two together
(別々の情報を結びつけて察する)
自分が推測に至る過程を描く言い方です。相手にその作業を求める do the math とは、誰が計算するかが逆になります。
connect the dots
(点と点をつないで全体像をつかむ)
材料が多く、全体像が見えにくい場面に向きます。do the math より、扱う情報の量が多い印象を与えます。
it doesn’t add up
(辻褄が合わない)
同じ計算の比喩を使いながら、結論が出ない、矛盾があると伝える側の表現です。do the math と対で覚えると整理しやすくなります。
Note|会議で使える do the math、使えない do the math
同じ do the math でも、会議で歓迎される使い方と、空気を悪くする使い方があります。分かれ目は、数字を扱っているか、結論を委ねているかです。
数字を扱う側は安全です。Let’s do the math. と切り出せば、思い込みではなく計算で判断しようという提案になります。見積書を前にした打ち合わせ、予算の再検討、人員配置の試算。こうした場では、むしろ冷静さの表れとして受け取られます。I did the math and it doesn’t add up. のように、自分が計算した結果を報告する形も同様に中立です。問題は、結論を委ねる側の用法です。相手の意見を否定したあとに Do the math. と置くと、材料はもう出したのだから、これで分からないなら理解が足りない、という含みが乗ります。会議の席で目上の相手や取引先に向ければ、内容が正しくても反発を招きかねません。同じ意味を伝えたいなら、The numbers speak for themselves. のように主語を数字にするか、If we look at the figures, … と検討の形にすると角が立ちません。くだけた場では逆に、この突き放し方が親しさの証になります。劇中のリズボンが使えているのも、相手が長年の同僚だからです。
つまりこの表現は、意味ではなく関係の距離で使い分けるものだと言えます。誰に向かってチョークを差し出すのか。そこを見誤らなければ、便利な一言であり続けます。
差し出す相手を選ぶ。それがこの言葉の作法のようです。
まとめ|リズボンが預けた最後の一手
do the math は、計算を求める言葉であると同時に、結論を相手に委ねる言葉です。材料を並べて最後の欄を空けておく。この形を押さえておくと、数字の場面でも会話の場面でも使えるようになります。
取り入れると、断定を避けながら確信を伝えられるようになります。並べる材料を三つほど用意しておくと、この一言がぐっと効いてきます。ただし相手との距離だけは、その都度確かめておきたいところです。
劇中のリズボンは、三つの根拠を並べて最後の一手をジェーンに預けました。返ってきたのは Maybe. の二音だけ。差し出したチョークが受け取られなかった瞬間の空気まで含めて、この表現は記憶に残ります。


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