海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
引き継ぎの途中で担当者が急に抜けてしまい、残された側が全部かぶることになる。職場でも、共同作業でも、そういう場面があります。
そんな状況を一語で言い表すのが「leave someone in the lurch」で、困っている人を放り出す、という意味です。『メンタリスト』シーズン2第1話の序盤、辞めると言い放ったばかりのジェーンが、出動直前の車に何食わぬ顔で乗り込んでくる場面に登場します。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「leave someone in the lurch」の意味とニュアンス
leave someone in the lurch
意味:困っている人を見捨てる、窮地に置き去りにする
leave は「残していく」、in the lurch は「不利な状況の中に」。合わせると、相手が困る状態だと分かっていながらその場を離れる、という意味になります。
この表現の重心は、離れるという行為そのものではなく、残される側の不利益にあります。単に立ち去るだけなら leave で足ります。in the lurch が加わることで、頼りにされていた、当てにされていた、という前提が浮かび上がる。だから責める言葉として使われます。
もう一つの特徴は、否定形での使用が多いことです。I won’t leave you in the lurch. と言えば、抜けるとしても迷惑はかけない、という約束になります。劇中のジェーンもこの形を選んでいます。
主語は人にも組織にも取れます。The supplier left us in the lurch. のように、取引先や制度が相手でも自然に使えます。
【ここがポイント!】
- 核は「相手が困る状態だと知りながら、その場を離れる」という一点
- 立ち去る行為より、残された側の不利益に重心が置かれる言い方
- 否定形にすると「迷惑はかけない」という約束の言葉に変わるのがコツ
『メンタリスト』S02E01のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
新しい事件の通報が入り、チームが現場へ向かおうとする駐車場。その直前にジェーンはこの仕事に意味はないと言い放ち、辞めるとまで口にしてリズボンと決裂したばかりです。ヴァンペルトが遠慮がちにジェーンの必要性を口にしますが、リズボンは取り合いません。そこへ、当のジェーンが助手席に滑り込んできます。
Van Pelt: Boss, no disrespect, but I think we need Jane.
(ボス、失礼を承知で言いますけど、ジェーンは必要だと思います)Lisbon: We’ll manage. Maybe we don’t close as many cases, but the ones we do close will be closed right, by professionals.
(何とかなる。解決件数は減るかもしれない。でも解決した事件は、プロの手できちんと片がつく)Jane: Oh, I’m not gonna leave you in the lurch. I’ll do one more case.
(まあ、見捨てたりはしないよ。もう1件だけやる)Lisbon: Do up your seat belt.
(シートベルトを締めて)The Mentalist Season2 Episode1(Redemption)
シーン解説と心理考察
ジェーンは謝りません。辞めると言ったことにも、決裂の原因にも触れないまま、いきなり「見捨てたりはしない」から入ります。話の起点をずらすやり方が、この人物らしさとして響きます。
否定形が効いているのはそこです。I’m staying. と言えば、前言を撤回したと認めることになる。leave you in the lurch を否定する形にすれば、撤回ではなく気遣いの表明として差し出せます。譲歩しているようで、実は主導権を手放していない言い回しだと言えます。
一方のリズボンは、和解の言葉を一切返しません。返ってくるのはシートベルトの一言だけです。受け入れたとも、許したとも言わない。それでも車は出発する。互いに踏み込まないまま関係が続いていく空気があります。
直前のリズボンの by professionals という言葉も効いています。プロとしてやると宣言した口の下で、最もプロらしくない人物を乗せて走り出す。その皮肉が、この短いやり取りに重なっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
lurch には「船が大きく傾く」という意味もあります。甲板が斜めになって足元が定まらない船の上に自分だけ取り残され、仲間はボートで先に行ってしまう。その絵を思い浮かべてみてください。
leave someone in the lurch は、まさにこの「傾いた場所に置き去りにする」感覚です。劇中では、船から降りかけていた人物が甲板に戻ってきて、置いていったりしないと言いました。傾く床と、そこに残される人の姿。この二つを結びつけておけば、ただ立ち去ることを表す leave との差が忘れにくくなります。
例文で覚える「leave someone in the lurch」
責める側にも、約束する側にも回れるのがこの表現の幅です。立場の違う3つの例文で確かめていきましょう。
I can’t quit now and leave the team in the lurch.
(今辞めて、チームを放り出すわけにはいきません)
転職の時期を相談する場面。辞めたい気持ちと責任感の両方を、一文で示すことができます。
The supplier pulled out and left us in the lurch.
(取引先が手を引いて、こちらは立ち往生しました)
納期遅延の経緯を説明する場面です。主語が組織でも自然に使え、報告書のような文章にも収まります。
A: Sorry, something came up. Can you cover for me on Friday?
B: Sure. You’d never leave me in the lurch, so I won’t either.
(A:ごめん、用事ができて。金曜代わってもらえる?)
(B:いいよ。君だって私を放り出したりしないんだから、お互いさま)
同僚同士でシフトを融通し合う場面。否定形で相手の過去の行いを持ち出すと、信頼を確かめ合う言い方になります。
あわせて覚えたい関連表現
leave someone hanging
(相手を宙ぶらりんにする、返事をせず待たせる)
返事や決定を保留したまま待たせる場面が中心です。実際の損害より、じらされる不快感に寄っている点が違います。
let someone down
(期待を裏切る、がっかりさせる)
期待に応えられなかったことに焦点があります。困難な状況へ置き去りにするという含みまでは持ちません。
bail on someone
(約束を土壇場で反故にする)
くだけた口語で、個人的な約束のドタキャンに使われます。leave someone in the lurch より軽い場面に向く言い方です。
Note|成句の中だけに生き残った lurch
leave someone in the lurch を初めて見た学習者がまず戸惑うのは、lurch という語そのものです。辞書を引けば「よろめく」「急に傾く」と出てきますが、その意味でこの成句を読もうとしても、うまくつながりません。
じつはこの lurch は、船が傾く lurch とは別の系統の語だと考えられています。有力なのは、フランス語由来の古いボードゲーム用語で、勝負が一方的について相手が大きく引き離された状態を指した、という説です。ゲームの得点差を表す語だったものが、そのまま「どうにもならない不利な状況」を意味する名詞として成句の中に取り込まれた、という筋書きになります。英語には、こうして特定の言い回しの中にだけ古語が残る例がいくつもあります。to and fro の fro、hue and cry の hue、short shrift の shrift。どれも単独ではまず使われないのに、成句の部品としてなら現役です。lurch もその一員で、日常語としての居場所を失いながら、この表現の中では毎日どこかで使われ続けています。
だからこの成句は、部品に分解して覚えようとすると苦労します。leave someone in the lurch でひとかたまり。lurch の語義を思い出そうとせず、「不利な状況」という箱がそこにあると受け取ったほうが、実際の会話では速く反応できます。
古い言葉が、たった一つの言い回しに守られて生き残る。そういうこともあるようです。
まとめ|謝らないまま戻ってきた男
leave someone in the lurch は、単に去ることを責める表現ではありません。相手が困ると分かっていながら離れる、という前提までを一語に含んだ言い方です。だからこそ、否定形にすれば強い約束になります。
会話に取り入れると、退職や離脱の話題で、自分の責任感を短く示せるようになります。相手の不安に先回りして触れられる分、言いにくい話を切り出しやすくもなります。
劇中のジェーンは、謝罪も撤回もしないまま、この一言だけを置いて車に乗り込みました。何も認めずに関係だけを戻す。その手つきごと、この表現は記憶に残ります。


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