海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
言い争いの最中に、これは相手個人への攻撃ではないと伝えたくなることはありませんか。批判したいのは決め方や仕組みであって、目の前の人ではない。その区別が伝わらずに、話がこじれてしまう場面です。
そんなときに使える「have a beef with」を、『メンタリスト』シーズン2第4話の後半、取調室で兄を亡くした女性が自分の怒りの向き先を語る場面から、一緒に見ていきましょう。
「have a beef with」の意味とニュアンス
have a beef with
意味:〜に不満がある、恨みがある
beef は牛肉ですが、この表現では「不満」や「苦情」を指します。牛肉と不満がなぜ結びつくのかは日本語の感覚からは意外に映りますが、英語では古くから定着した用法です。
指しているのは、個人的な確執や言い分です。制度への異議というより、あの人とのあいだに何かある、という個人対個人の話に使われます。響きはかなりくだけていて、会議の議事録や正式な文書には向きません。友人との会話や、感情が高ぶった場面で自然に出てくる言い方です。
とりわけよく使われるのが、否定形で対象を区切る形です。I don’t have a beef with him と言えば、その人には恨みがない、という線引きになります。怒りの矛先がどこにあるのかをはっきりさせたいとき、この形が便利に働きます。名詞だけを取り出した What’s your beef? も、不満の中身を尋ねる言い方として使われます。
【ここがポイント!】
- beef が「不満」を指す口語だと知っていれば意味がつながる表現
- かなりくだけた響きで、公式な場面には向かない一言
- 否定形にして怒りの向き先を区切る使い方が、実際の会話では出番が多い
『メンタリスト』S02E04のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
殺された弁護士は、かつて凶悪な依頼人を無罪にし、その裁判で被害者側の兄の名誉まで傷つけていました。その妹がCBIの取調室で、弁護士の事務所を荒らした件を追及されています。抵抗せず認めた彼女が、自宅にまで足を運んだ日のことを話し始めます。
Lisbon: So you get all worked up, harass the gang, trash Hodge’s office, right?
(それで頭に血がのぼって、ギャングに嫌がらせをして、ホッジの事務所を荒らした。そうですね。)Felicia: You want to arrest me for that, go ahead. I’m not gonna fight you. I’m too tired.
(それで逮捕したいならどうぞ。抵抗はしません。もう疲れました。)Lisbon: You ever try Hodge’s home?
(ホッジの自宅にも行きましたか。)Felicia: But his kid came outside. I don’t have a beef with him, so I took off before I could do anything.
(でも息子が出てきた。あの子に恨みはない。だから何かする前に立ち去りました。)The Mentalist Season2 Episode4 (Red Menace)
シーン解説と心理考察
抵抗しない、もう疲れた、と語る彼女が、それでもはっきり区切っている一点があります。誰に対して怒っているのか、という線引きです。弁護士本人には憎しみを隠しませんが、その息子には恨みはないと言い切り、それを理由に引き返しています。
怒りに飲まれた人物として描かれながら、この線だけは越えなかった。その事実が、彼女の人物像に厚みを与えています。何をするつもりだったのかと問われて答えられないところにも、行き場をなくした感情の輪郭が表れています。復讐の形を決めきれないまま、家の前まで来てしまったわけです。
そして I don’t have a beef with him という言い方が、この線引きにちょうど合っています。制度でも組織でもなく、目の前の個人との関係を語る言葉だからです。恨む相手を間違えなかったという一点が、この短いやり取りに残ります。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
食堂の列に並びながら、配られた肉について延々と文句を並べている人を思い浮かべてみてください。皿の上の beef が、そのまま「文句」そのものになった。そう考えると、have a beef with が「不満を抱えている」につながります。
このシーンでは、その文句の相手を区切るために使われました。弁護士には山ほどある。けれど、その息子には一つもない。beef を皿に見立てて、誰の前にその皿を置くのかを決める動作として覚えると、with のあとに来る相手を意識するようになります。
牛肉と恨みという意外な組み合わせは、意外だからこそ記憶に残ります。皿の絵ごと引き出せるようにしておくと便利です。
例文で覚える「have a beef with」
くだけた響きを持つ表現なので、使う相手と場面を選びます。三つの例文で、ちょうどよい距離感を確認してみましょう。
I don’t have a beef with you. I have a problem with how this was decided.
(君に恨みがあるわけじゃない。決め方に不満があるんだ。)
議論が個人攻撃に見えそうなときの弁明です。劇中と同じく、否定形で対象を区切る使い方になります。
Those two have had a beef for years.
(あの二人は何年も因縁があります。)
長く続く不仲を第三者として説明する言い方です。現在完了にすると、その状態が今も続いていることが伝わります。
A: Why does he keep leaving me off the invites?
B: I don’t know. Does he have a beef with you or something?
(A:どうして彼、私だけ誘いから外すんだろう。)
(B:さあ。何か君に思うところでもあるのかな。)
心当たりのない扱いについて話すやり取りです。相手の態度の理由を推し量る場面で、この形がよく出てきます。
あわせて覚えたい関連表現
have an issue with
(〜に問題を感じている)
意味は近いものの、中立的で職場でも使えます。beef のくだけた響きや個人的な確執の色が薄い分、場面を選ばずに使えるのが違いです。
bad blood
(遺恨、わだかまり)
名詞で、両者のあいだにある感情そのものを指します。There is bad blood between them の形が基本で、片方の言い分ではなく関係全体を描きます。
hold a grudge
(根に持つ)
過去の出来事を長く抱え続ける点に焦点があります。今この瞬間の不満にも使える have a beef with より、時間の幅が長い表現です。
Note|音楽シーンが広めた beef
beef が「不満」を意味する用法は、もともとアメリカの口語として使われてきました。ところが1990年代以降、この語の知名度を一気に押し上げたのは音楽の世界でした。
ヒップホップの世界では、アーティスト同士の対立関係を beef と呼びます。曲の中で相手を名指しして批判し、相手が別の曲で応じる。その応酬そのものが作品として発表され、聴き手も含めて追いかけられる文化が育ちました。やがて音楽メディアがこの語をそのまま見出しに使うようになり、ジャンルに詳しくない読者にも beef が対立を指すという理解が広がります。日本語のニュースでも「ビーフ」がそのまま使われる場面が出てきたほどです。もともとは食堂の苦情のような日常の不満を指す語でしたから、ずいぶん遠いところまで旅をしたことになります。そして現在では、音楽と関係のない日常会話でも、以前より気軽に beef が使われるようになりました。専門用語として広まった語が、再び日常語として戻ってきた形です。
劇中で使われているのは、この日常語としての beef です。音楽の文脈は関係なく、あくまで個人と個人のあいだにある恨みを指しています。同じ語が、場面によって日常の言い分にも大きな対立にもなる。その幅を知っておくと、耳にしたときの受け取り方が変わります。
一皿の牛肉から始まった言葉が、ずいぶん遠くまで来たものです。
まとめ|その怒りは誰に向いているのか
have a beef with は、不満や恨みの相手を名指しで示す表現です。組織や制度ではなく、あの人とのあいだにある話。その個人的な距離感が、この言い方の芯にあります。
否定形で使えば、怒りの向き先を区切る道具になります。批判しているのは決め方であって君ではない、と伝えたい場面で、この形はよく働きます。感情が高ぶった会話ほど、どこに矛先があるのかをはっきりさせる言葉が要るものです。
怒りにも、向ける先を選ぶという作法があるのかもしれません。


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