海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
その業界のことを知ろうとしたとき、結局は一握りの人たちがすべてを動かしているらしい、と気づく瞬間があります。
そんな人たちを指すのが「mover and shaker」、物事を実際に動かす力を持った有力者という表現です。『BONES』シーズン1第3話から、上司から捜査の重さを告げられたブースが、それでも食い下がろうとする場面をもとに、一緒に見ていきましょう。
「mover and shaker」の意味とニュアンス
mover and shaker
意味:有力者、実力者、影響力のある人物
move は「動かす」、shake は「揺らす」。どちらも、静止しているものに外から力を加える動詞です。その二つを and で結ぶことで、物事を実際に動かす側にいる人物を指します。
似た日本語として「大物」「お偉方」がありますが、mover and shaker には単に地位が高いという以上の含みがあります。肩書きの大きさではなく、動かす力そのものに焦点があるためです。ただ有名なだけの人物は、この語では呼ばれません。
使われ方には特徴があります。まず、複数形の movers and shakers で使われることが圧倒的に多い表現です。業界やコミュニティの中枢にいる人々を、ひとまとめに指す場面が中心になります。単数で使う場合は、a real mover and shaker のように a real を伴う形が収まりのよい言い方です。
もう一つの特徴は音です。mover と shaker は、どちらも -er で終わります。この響きの揃い方が、二語一組の表現として定着した理由の一つになっています。
【ここがポイント!】
- move(動かす)と shake(揺らす)が重なり、力の方向が二重に強調される一言
- 地位の高さより「動かす力」に焦点がある、実質を見る表現
- 複数形 movers and shakers で使うのが基本、と押さえておくのがコツ
『BONES』S01E03のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
名門私立校の生徒が遺体で発見された事件。上司のサンタナは、この街の有力者が残らずその学校とつながっていると告げ、捜査の政治的な重さをブースに突きつけます。それを聞いたブースの返しに、彼の反骨心がのぞきます。
Santana: Every mover and shaker in this town is connected to that damn school. Apparently the very future of this country is at stake.
(この街の有力者はみんなあのいまいましい学校とつながってる。この国の未来がかかってるんだそうだ)Booth: Well, I would like to declare it a murder just to shake those little bast…
(じゃあ殺人だと断定してやりますよ、あの連中を揺さぶるためだけにでも)Brennan: Booth.
(ブース)Bones Season1 Episode3(A Boy in the Tree)
シーン解説と心理考察
見どころは、ブースの返しです。彼は shake という動詞を、サンタナの mover and shaker から拾い上げて投げ返しています。相手が「揺らす側の人間」を語ったのに対し、こちらは「その連中を揺さぶってやる」と応じる。動かされる側に立たされた者が、同じ動詞で反撃してみせる構図になっています。
その反発の背景には、この回を通して顔を出すブースの私立校観があります。特権的な学校とそれに追従する地元権力への不信が、この一言の勢いを支えています。捜査の重さを聞かされたことが、彼にとっては引き下がる理由ではなく、揺さぶる理由になっている点が表れています。
言い終える前にブレナンが名前を呼んで遮るのも、この場面の呼吸です。ブースの言葉が職務上まずい方向へ進みかけたことを、彼女が一言で止める。普段は言外の含みを読み取らない人物が、ここでは的確にブレーキをかけているという配置になっています。
『BONES』流・覚え方のコツ
mover と shaker を、それぞれ手の動きで思い浮かべてみてください。move は物を横へ押しやる手、shake は掴んで揺さぶる手です。どちらも、対象に触れて力を加えている手のかたちをしています。
このシーンで思い出したいのは、サンタナが every mover and shaker と口にした瞬間に、事件の輪郭が変わったことです。街を動かしている手が、残らずあの学校につながっている。動かす手の持ち主たちが、捜査の向こう側に並んで立っている絵になります。
そしてブースは、その手を今度は自分が揺さぶってやると言い返しました。動かす側と、動かされる側。その境界に立つ人物の反発として聞くと、shake という一語が記憶に残ります。
例文で覚える「mover and shaker」
ビジネスや報道の文脈で使われることが多い表現です。3つの場面で見ていきましょう。
The conference was full of movers and shakers from the tech industry.
(その会議はテック業界の実力者だらけだった)
業界イベントの様子を伝える場面です。full of と組み合わせると、その場の密度や熱気まで伝わってきます。
She’s become a real mover and shaker in local politics.
(彼女は地元政治で本物の実力者になった)
一人の人物の台頭を語る一言です。単数で使うときは a real を添えると、語としての収まりがよくなります。
A: How did you get that deal through so fast?
B: Let’s just say I know a few movers and shakers.
(A:どうやってあの案件をあんなに早く通したんだ?)
(B:まあ、有力者を何人か知ってる、とだけ言っておくよ)
仕事の裏側を尋ねる会話です。答えをぼかす言い方と組み合わせることで、人脈の存在をほのめかす働きをしています。
あわせて覚えたい関連表現
big shot
(大物、お偉方)
地位の高さに焦点を当てた表現です。mover and shaker が動かす力を含意するのに対し、こちらは肩書きの大きさ寄りで、話し方次第では皮肉として響きます。
power broker
(黒幕、影の実力者)
政治的な取引を裏で仲介する立場を指します。mover and shaker より狭く、表に出ないという含みが強く出る点が異なります。
key player
(重要人物、主要な担い手)
最も中立的でフォーマルな表現です。影響力の大小より「その場に欠かせない」ことを示すため、mover and shaker のような力の含みはありません。
Note|「世界を動かす者たち」から業界の有力者へ
いまでは業界の有力者を指す movers and shakers ですが、この言葉の出発点は詩の一節でした。しかも、称えられていたのは権力者ではありません。
イギリスの詩人アーサー・オショーネシーの「Ode」という詩が、この表現の初出とされています。1873年に発表され、翌1874年の詩集『Music and Moonlight』に収められた作品です。「We are the music makers(私たちは音楽をつくる者)」で始まるこの詩が歌うのは、詩人や音楽家、つまり芸術家たちでした。世界の趨勢を決めているのは権力者ではなく、夢を見て歌をつくる者の方だ——そう宣言する文脈の中に、movers and shakers という一節が置かれています。オックスフォード英語辞典もこの語を「出来事を引き起こし人を動かす人物」と定義しており、初出をこの詩に求める説明が広く共有されています。
興味深いのは、その後の道のりです。この詩は1912年にエルガーが合唱曲へと編曲したことで広く知られるようになりましたが、表現自体が現在の意味で使われ始めるのは、さらに後のこと。アメリカで有力者を指す言葉として定着したのは1960年代だと説明されています。芸術家を称えるために生まれた言葉が、90年ほどをかけて、権力の側を指す言葉へと移っていったことになります。
サンタナが every mover and shaker in this town と言うとき、そこに詩人は一人もいません。街を動かしているのは、学校とつながった有力者たちです。オショーネシーが権力の対極に置いたはずの言葉が、いまや権力そのものを名指しするようになっています。
言葉は、生まれたときの意味を律儀に守ってはくれません。
まとめ|動かす手を、今度は揺さぶり返す
mover and shaker は、物事を実際に動かす力を持った人物を指す表現です。地位の高さではなく動かす力そのものに焦点があり、複数形で使われることが多い点に特徴があります。
この一言が使えるようになると、ある業界や組織の中枢にいる人々を、肩書きに頼らずに描写できるようになります。誰が本当に物事を動かしているのか——その視点を持つための言葉でもあります。
サンタナが並べてみせた有力者たちに、ブースは同じ shake という動詞で返しました。動かす側の言葉を借りて動かし返す。そんな瞬間を思い出したときのために、表現の引き出しに加えてみてください。


コメント