海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
期待を寄せてくれた相手に、そこまで甘くはないと伝えなければならない場面があります。
そんなときに使われるのが「don’t hold your breath」です。息を止めて待つな、という忠告の形で、実現の見込みの薄さを伝えます。犯罪捜査ドラマ『メンタリスト』シーズン3第21話から、捜査官リグスビーが同僚のヴァン・ペルトと車で待つ場面を、一緒に見ていきましょう。
「don’t hold your breath」の意味とニュアンス
don’t hold your breath
意味:期待しないほうがいい、当てにしないほうがいい
直訳は「息を止めないで」。息を止めて待っていたら、その前に苦しくなってしまう。つまり、それほど長く待たされる、あるいはいつまで経っても実現しない、という含みです。
待ち時間の長さを、人の体が耐えられる限界で測っているところがこの表現の特徴です。数字を出さずに「息を止めて持ちこたえられる時間よりずっと先だ」と伝えられるので、短いのに情報量があります。
響きは冷たく突き放すというより、現実を教える口調に近いものです。相手の希望を頭ごなしに否定するのではなく、そこに賭けて待つのはやめておけ、と助言する形をとります。皮肉の色はありますが、fat chance のような突き放しに比べればずっと穏やかです。
I’m not holding my breath. / I wouldn’t hold my breath. のように主語を自分に置き換えると、命令の形が消えて角が取れます。仕事の場ではこちらのほうが使いやすくなります。
【ここがポイント!】
- 息が続く時間を物差しにして、待っても無駄だと伝える一言
- 突き放しではなく、現実を教える助言の口調で使われるのが基本
- 主語を自分に移せば角が取れる。相手や場面に応じて形を選ぶのがコツ
『メンタリスト』S03E21のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
情報提供者を呼びに父スティーヴンが酒場へ入り、リグスビーとヴァン・ペルトは外で待つことになります。話題は自然と父のことへ向かい、リグスビーは子どもの遊びを引き合いに出して、自分には父を誇る機会がなかったと漏らします。冗談めかした口ぶりですが、中身は軽くありません。そこへヴァン・ペルトがかけた言葉に、リグスビーが短く返します。
Rigsby: You know that game that kids play — “my dad can beat up your dad”? No one ever played that with me.
(子どもがやる遊びってあるだろ。「うちの父ちゃんのほうが強い」ってやつ。あれ、俺は誰ともやったことがない)Van Pelt: He’s a… character.
(お父さん、なかなか強烈な人ね…)Rigsby: Yep.
(ああ)Van Pelt: Maybe this will bring you two closer together.
(これで二人の距離が縮まるかもしれませんね)Rigsby: Don’t hold your breath.
(期待しないほうがいい)The Mentalist Season3 Episode21 (Like a Redheaded Stepchild)
シーン解説と心理考察
リグスビーが持ち出した子どもの遊びは、父を誇れるかどうかを競うものです。それを一度もやらなかったと言うことで、自分の子ども時代の形を一言で説明しています。父親の話題を正面から語らずに済ませる、彼なりの言い方がにじむ場面です。
ヴァン・ペルトの言葉は、捜査の協力が関係を変えるかもしれないという前向きな見方でした。同僚への気遣いとして自然な一言ですが、リグスビーはそこに乗りません。返ってきたのは三語だけの否定です。
短さが、そのまま説明する気のなさを示しています。長年かけて確かめてきた結論なので、いまさら理由を並べる必要がない。don’t hold your breath は、この「もう分かっていること」を一息で伝える形として働きます。直後に店内でガラスの割れる音が響き、会話はそこで断ち切られます。父がどういう人物かを、言葉ではなく音が説明してしまう運びになっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
息を止めて何かを待っている人の姿を、そのまま思い浮かべてみましょう。息を止めたまま長く待つことはできず、やがて苦しくなります。だから「息を止めて待つな」という忠告は、「そこまで期待して待たないほうがいい」という意味になります。
日本語にも「首を長くして待つ」という言い方がありますが、こちらは待つ側の期待を描くだけで、実現するかどうかまでは言いません。英語は息という限界のあるものを持ち出すことで、待っても無駄だという結論まで一気に運びます。
車の中で交わされたあの三語も、説明を省いて結論だけを置いた形でした。長い言い訳の代わりに息を持ち出す。この省き方ごと覚えておくと、使いどころも自然に見えてきます。
例文で覚える「don’t hold your breath」
命令形と、自分を主語にした形で響きが変わります。三つの場面で見ていきましょう。
A: Do you think they’ll approve the budget?
B: Don’t hold your breath. They shot it down twice already.
(A:予算、通ると思う)
(B:期待しないほうがいいよ。もう二回も却下されてる)
同僚と社内の見通しを話し合う雑談です。理由を一言添えると、突き放しではなく情報の共有として受け取られます。
They said the repairs would be done by Friday, but don’t hold your breath.
(金曜までに修理は終わると言われたけど、当てにしないほうがいい)
業者の約束の信頼度を家族に伝える場面です。but でつなぐことで、公式の説明と実感のずれがはっきり出ます。
The policy may change next year, but I wouldn’t hold my breath.
(制度は来年変わるかもしれませんが、私はあまり期待していません)
見通しを尋ねられ、慎重な私見を添える場面です。I wouldn’t と仮定法にすると断定を避けられ、仕事の場でも使いやすい形になります。
あわせて覚えたい関連表現
fat chance
(見込みなんてないよ)
実現の可能性をほぼ完全に否定する皮肉な言い方で、don’t hold your breath よりはるかに突き放した響きになります。fat が「たっぷり」の意味を持ちながら反語として働く点が特徴です。
when pigs fly
(そんなことは絶対に起きない)
あり得ない条件を持ち出して不可能を伝える誇張表現です。冗談として使われることが多く、現実的な助言という don’t hold your breath の性格とは離れています。
I wouldn’t count on it
(当てにしないほうがいい)
意味はほぼ同じですが、皮肉の要素がなく落ち着いた響きです。仕事の場や目上の相手には、こちらのほうが選びやすくなります。
Note|息が続く時間を、待ち時間の物差しにする
待ち時間を伝える言い方は数ありますが、この表現は時間の長さを時計ではなく体の感覚で描いています。息を止めて待ち続けるのは苦しい、という身近なイメージが、この比喩の分かりやすさを支えています。
実際に息を止められる時間は、体調や経験、訓練などによって異なります。この表現は、その時間を正確に測ったり、全員に同じ限界があると主張したりするものではありません。文字どおりの秒数ではなく、長くは待てないという身体的な実感を借りています。
ここが比喩として重要なところです。時間の長さを「三日」「半年」と言えば、それが長いか短いかの感じ方は人によって変わります。「息を止めて待つな」と言えば、聞き手は時計ではなく、自分が苦しくなる感覚を思い浮かべます。
つまり don’t hold your breath は、待ち時間の絶対的な長さを言っているのではありません。「待つ側が耐えられる限界を、確実に超える」とだけ言っています。だから、三日後の話にも十年後の話にも同じように使えます。
この仕組みが分かると、この表現が助言の形をとる理由も見えてきます。息を止め続ければ苦しくなるのは相手のほうです。実現しないという事実より、待ち方を変えたほうがいいという忠告のほうに重心があります。
体の感覚を借りることで、数字を出さずに「期待して待ち続けないほうがいい」と伝える一言になっています。
まとめ|期待を、やわらかく下ろす言い方
don’t hold your breath は、実現の見込みが薄いことを、息を止めて長くは待てないという身体的なイメージで伝える表現です。数字も理由も出さずに済むぶん、短くて済みます。
会話では、相手の期待を否定しながら関係を荒立てない、という難しい役割をこなします。fat chance ほど冷たくならず、I wouldn’t count on it より軽い。この中間の温度を持つ表現は意外と少なく、覚えておくと使う機会が多いはずです。
相手に向ける命令形と、自分を主語にした形。この二つを持っておけば、雑談から仕事の場まで対応できます。期待をやわらかく下ろす言い方として、会話のレパートリーに加えてみてください。


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