海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
足音も気配もないまま、ふと視界に人が立っている。近づいてくる過程がまるごと抜け落ちたような登場の仕方をする人物が、ドラマにはときどきいます。
その現れ方を、英語では「out of nowhere」と言い表します。どこからともなく、前触れもなく、という意味の一言です。『メンタリスト』シーズン3第23話の中盤、上司のラロッシュが音もなく現れて去った直後に、リズボンが思わずぼやく場面から、一緒に見ていきましょう。
「out of nowhere」の意味とニュアンス
out of nowhere
意味:どこからともなく、突然
直訳すると「どこでもない場所から」。nowhere は「どこにも」という副詞として使われるほか、辞書には「存在しない場所・無名の場所」という名詞用法も載っています。out of nowhere では、出所がわからないことを場所のように表していると捉えるとわかりやすくなります。
人や物が予告なく現れる場面と、出来事が予兆なく起きる場面の両方に使えます。come / appear / show up といった移動を表す動詞と組み合わせるのが典型で、話し手が不意を突かれたという感覚がそのまま乗ります。
近い表現に out of the blue がありますが、こちらは晴れた空から雷が落ちる絵に由来し、知らせや連絡が突然届く場面に馴染みます。out of nowhere は、車や人が視界に飛び込んでくるような物理的な出現にも幅広く使える点が違いです。
from nowhere という形も同じ意味で使われます。Cambridge Dictionary は from/out of nowhere を一つの項目で扱っており、地域差を固定せず、どちらも「突然、予想外に」と理解するのが安全です。
【ここがポイント!】
- 「どこでもない場所から出てきた」と丸ごと覚えてしまうのが、いちばんの近道
- come / appear / show up と組み合わせるのが定番。人にも出来事にも使える一言
- 単なる「突然」より、不意を突かれた驚きが乗る。話し手の表情まで伝わります
『メンタリスト』S03E23のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
捜査は行き詰まり、めぼしい進展のないまま夜を迎えています。そこへ上司のラロッシュが現れ、報告できることが何もないと確かめると、礼だけ告げて静かに立ち去ります。気配なく現れ、気配なく消える上司に、リズボンが思わず本音をこぼす場面です。
LaRoche: Is there something concrete I can tell Bertram?
(バートラムに伝えられる具体的なものはあるか。)Lisbon: Not really, sir.
(特には、ありません。)LaRoche: Thank you, Lisbon.
(ありがとう、リズボン。)Jane: Bye.
(どうも。)Lisbon: God, I miss Hightower. Aside from the murder stuff, obviously. Uh, screw it. Even with the murder stuff how does he just appear out of nowhere like that?
(ああ、ハイタワーが恋しい。もちろん、あの件は別にして。……ううん、もういいわ。あの件を含めたって、あの人どうしてああ、どこからともなく現れるの?)Jane: He’s a ghost from the fifth dimension.
(五次元から来た幽霊さ。)The Mentalist Season3 Episode23(Strawberries and Cream, Part 1)
シーン解説と心理考察
ラロッシュのやり取りは、質問二つと礼が一つ、それだけで終わります。進展がないと知っても、責めもしなければ、次にどうしろとも言わない。何も言い残さずに引き下がるその短さが、かえって場に圧をかけています。
リズボンのぼやきは、上司個人への不満というより、読めない相手への警戒心の表れです。前任者の名前を持ち出しながら、途中で「もういい」と言い直すところに、口に出すべきでない領域に触れかけた自覚がにじみます。愚痴として言い切れないまま、話題が登場の仕方へ逸れていく流れが自然です。
そこへジェーンが、五次元から来た幽霊という一言で応じます。捜査の行き詰まりと上司への警戒という重い空気を、比喩ひとつでほどいてみせる。事態が急転する直前に置かれた、短い休息のような時間として響きます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
見渡す限り何もない、地図に載っていない空白の場所を思い浮かべてください。その「どこでもない場所」から、人がすっと歩み出てくる。英語は nowhere を住所のある一つの地点のように見立て、そこを出発点として表せます。だから out of がつくわけです。
劇中では、ラロッシュが足音もなく現れ、用件だけ告げて消えていきます。ジェーンが返した「五次元から来た幽霊」という一言は、まさに nowhere を実在の場所として扱う発想を、そのまま冗談に仕立てたものです。地図の外から通勤してくる上司——そう思い描いておけば、out of nowhere の形と意味が一度に頭に残ります。
例文で覚える「out of nowhere」
人が現れる場面にも、出来事が起きる場面にも使えるのがこの表現の強みです。3つの例文で、その守備範囲を確かめてみましょう。
A cyclist came out of nowhere and I had to slam on the brakes.
(自転車がどこからともなく現れて、急ブレーキを踏むはめになった。)
運転中のヒヤリとした出来事を人に話す場面です。come と組み合わせるのが最も自然な形で、視界に飛び込んでくる感じがそのまま出ます。
The offer came out of nowhere, and I had two days to decide.
(その申し出は突然舞い込んで、決断まで2日しかなかった。)
予想外のオファーを振り返る、落ち着いた語りの場面です。主語を人ではなく出来事にすると、降ってわいた話という含みが強まります。
A: Where did that idea even come from?
B: Honestly, it just came to me out of nowhere in the shower.
(A:その発想、いったいどこから出てきたの?)
(B:正直、シャワー浴びてたらふっと湧いてきただけ。)
思いつきの出どころを尋ねる、くだけた会話です。come to me と組み合わせると、外から人に現れるのではなく、自分の内側にふっと湧く感覚を表せます。
あわせて覚えたい関連表現
out of the blue
(突然に、思いがけなく)
青空から雷が落ちる絵に由来し、連絡や知らせが突然届く場面に馴染みます。物理的な出現にも使える out of nowhere より、対象がやや限定的です。
all of a sudden
(突然、いきなり)
出来事の速さそのものを指す中立的な表現で、どこから来たのかという出所への驚きは含みません。淡々と経過を語りたいときに向きます。
from nowhere
(どこからともなく)
Cambridge Dictionary では out of nowhere と同じ項目に並ぶ形です。どちらも突然で予想外の出現を表し、米英どちらかに固定した説明は避けるのが安全です。
Note|「どこでもない場所」を住所のように扱う英語
out of nowhere をそのまま日本語に置き換えようとすると、少し妙なことになります。「どこにもない場所から」という言い方は、日本語では成立しにくいからです。
nowhere は副詞として広く使われますが、Merriam-Webster には「存在しない場所」「無名・遠方の場所」という名詞用法も載っています。out of nowhere だけでなく、in the middle of nowhere と言えば「人里離れた辺鄙な場所」を指し、場所として扱う用法が実際に確認できます。go nowhere(どこにも行き着かない)、get nowhere(埒が明かない)のような副詞用法とは、同じ語でも文中での働きが異なります。
日本語の「どこからともなく」は、これと対照的です。方向をぼかし、出所を特定しないことで突然さを表します。出発点を名指ししないのが、日本語側の解決策なのです。ところが英語は逆に、存在しないはずの場所に名前を与え、そこを出発点として指定します。ないものを、あることにして文法に組み込む。この一歩の踏み込み方が、両言語の分かれ道になっています。
劇中のリズボンが appear out of nowhere と言うとき、ラロッシュはただ突然現れたのではありません。英語の文法上は、nowhere という地点から出てきたことになっています。ジェーンが「五次元から来た」と返せたのも、この表現がもともと出発地を名指しする形をしているからこそです。
存在しない場所に住所を与えてしまう。英語のそんな大胆さが、この短い一言に畳み込まれています。
まとめ|地図の外から現れる人
out of nowhere は、人や出来事が前触れなく現れることを表す表現です。nowhere という「どこでもない場所」を出発点として名指しするところに、この言い回しの面白さが詰まっています。
会話で使えるようになると、単に「突然」と言うのとは違う、不意を突かれた側の驚きまで一緒に伝えられます。come や show up と組み合わせれば人の登場に、主語を出来事にすれば降ってわいた知らせに。ひとつの形で守備範囲が広いのも、覚えておく値打ちのあるところです。
気配なく現れ、気配なく去る上司を前に、思わず本音がこぼれる。張り詰めた回の、束の間の息継ぎのような場面でした。


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