海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
とてもいい、を強めて伝えたいのに、very や really では物足りない。友人同士の会話で使われる、もっと勢いのある一語を借りてみたくなった経験はありませんか。しかもその一語が、地域的な響きまで一緒に運んでくるとしたら。
そんなときに登場する「wicked good」を、『メンタリスト』シーズン3第14話の冒頭、証人保護下の家で、連邦保安官ゴーマンがヴァン・ペルトに証人ジャスティンの機嫌を伝えるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「wicked good」の意味とニュアンス
wicked good
意味:ものすごくいい、めちゃくちゃいい
wicked はもともと「邪悪な」「意地の悪い」を表す形容詞です。その wicked が後ろの形容詞にくっついて副詞のように働き、程度を強める使い方があります。wicked good なら「ものすごくいい」、wicked cold なら「ものすごく寒い」。very や extremely に近い働きをしますが、響きはずっとくだけています。
強めるだけの役なので、後ろに来る語は good に限りません。wicked smart、wicked cold、wicked nice のように、褒め言葉にも不満にも同じように付きます。wicked 自体が持っていた「悪い」という評価はほとんど残っておらず、程度の強さだけが取り出されています。
もう一つ特徴があります。Merriam-Webster は、この副詞用法がニューイングランド、とくにその東部と強く結びついていると説明しています。つまり wicked good は、意味を強めると同時に、話し手がどのあたりの英語を身につけてきたかまで伝えてしまう一語です。書き言葉や改まった場面ではまず使いません。
【ここがポイント!】
- wicked が形容詞ではなく副詞として働き、後ろの語を丸ごと強める一言
- good 以外にも付き、褒め言葉にも不満にも程度だけを押し上げる働き
- ニューイングランドの響きが残るので、耳にしたら話し手の背景も想像してみるのがコツ
『メンタリスト』S03E14のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
証人保護下に置かれた家で、ヴァン・ペルトが夜勤を引き継ぐ場面です。娘のトリーナが、父親のジャスティンはウェイマスと証言の練習中だと答えます。続けてゴーマンがジャスティンの機嫌を伝え、その中に、この回の後半でもう一度顔を出すことになる一語がさりげなく混ざります。
Van Pelt: Where’s your dad?
(お父さんはどこ?)Trina: Practicing his testimony with Ms. Weymouth.
(ウェイマスさんと証言の練習をしてる)Gorman: Let me tell ya, he’s in a wicked good mood tonight.
(言っておくけど、今夜はものすごく機嫌がいいよ)Justin: Hey, Grace. Welcome back, Big Red.
(やあ、グレース。おかえり、赤毛のお嬢さん)Weymouth: Focus, Justin.
(集中して、ジャスティン)The Mentalist Season3 Episode14(Blood for Blood)
シーン解説と心理考察
夜勤の引き継ぎという事務的な場面で、ゴーマンは証言の練習中という事実に、ジャスティンは機嫌がいいという私的な観察を付け足します。wicked good は、そのくだけた口調を強く印象づけます。
Let me tell ya という前置きも効いています。これから耳寄りなことを伝える、という構えを先に作っておいて、続くのは証人の機嫌という短い報告です。ゴーマンが対象句を口にしたことは、後の展開を読むうえで重要になります。
この wicked はニューイングランドと強く結びつく強意語です。全国で意味は通じても、誰もが自然に選ぶ語ではないため、話者の言葉遣いを耳に残す目印になります。ただし、この一語だけからゴーマンの出身地まで断定することはできません。
後半で同じ wicked が別の文脈に現れたとき、冒頭の一言が単なる雑談ではなかったと分かります。何気ない言葉遣いが人物をつなぐ手がかりへ変わる。その仕掛けを成立させるために、最初の場面ではあくまで軽く自然に置かれていたのです。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
「悪い」と書かれた札を持った wicked が、隣に立つ good の背中をぐいと押している絵を思い浮かべてみましょう。押された good は、いつもより一歩も二歩も前に出ます。札の文字そのものは仕事をしておらず、押す力だけが働いている。これが強意副詞としての wicked です。
その札には、小さくニューイングランドと刻印も入っています。押す力と一緒に、土地の名前までくっついてくる。だから会話でこの語に出会うと、程度の強さと話し手の背景が同時に届きます。
冒頭でゴーマンがジャスティンの機嫌を伝える場面を、この絵に重ねてみてください。悪意はどこにもなく、あるのは程度を押し上げる勢いだけだと分かります。
例文で覚える「wicked good」
後ろに来る形容詞を選ばず、程度だけを押し上げるのがこの語の働きです。褒めるとき、天気を語るとき、会話でどう置かれるかを3つの例文で見ていきましょう。
This clam chowder is wicked good.
(このクラムチャウダー、めちゃくちゃおいしい)
ニューイングランドの名物を前にしたときの一言です。地元の料理を地元の言い方で褒めると、言葉と場所がぴたりと重なります。
It was wicked cold this morning, so I turned back for a jacket.
(今朝はものすごく寒くて、上着を取りに戻った)
出勤前の天気の話です。good だけでなく cold のような語にも同じように付き、良し悪しではなく程度だけを強めています。
A: How was the show last night?
B: Wicked good. You should have come.
(A:昨日のライブ、どうだった?)
(B:めちゃくちゃよかったよ。来ればよかったのに)
友人同士のカジュアルなやりとりです。返事として単独で置くこともでき、短い一言でも十分に熱量が伝わります。
あわせて覚えたい関連表現
really good
(本当にいい)
wicked good と同じ「とてもいい」ですが、地域色がなく、会話でも書き言葉でも安心して使えます。相手や場面を選ばない分、響きは平坦です。
super good
(すごくいい)
くだけた調子は wicked good に近いものの、特定の土地との結びつきはありません。カジュアルさだけを借りたいときは、こちらのほうが無難です。
dead good
(めちゃくちゃいい)
イギリスの一部で聞かれる強調で、こちらも本来は別の意味を持つ語が程度を強める役に回っています。否定的な語が強意語へ転じる型は、英語圏に広く見られます。
Note|wicked が「とても」を意味するようになるまで
「邪悪な」を意味する語が、なぜ「とても」に化けたのでしょうか。魔女や呪いを連想させる wicked が、料理や天気を褒める言葉として日常に居座っている。この落差については、たどれるだけの記録が残っています。
wicked は13世紀ごろから「悪い」「邪悪な」を表す形容詞として使われてきました。シェイクスピアの作品にも繰り返し登場し、『マクベス』で魔女が口にする一節がよく引き合いに出されます。一方、これを副詞として使い、後ろの形容詞を強める用法が目立つようになったのは、Merriam-Webster の解説によれば20世紀後半のことです。セイラムの魔女裁判と結びつける説も語られますが、同社は時代が合わないとして距離を置いています。
より確かなのは、この用法がどこで根を張ったかのほうです。Merriam-Webster はニューイングランド、とくに東部との強い結びつきを指摘し、New Partridge Dictionary of American Slang は、地域にとどまり続けた20世紀後半のアメリカ俗語の珍しい例として位置づけています。イェール大学の Yale Grammatical Diversity Project による調査でも、強意の wicked は全米で理解されるものの、容認度がとび抜けて高い地域はニューイングランドだけで、統計的に意味のある差が出たと報告されています。
つまり wicked good は、単に very good をくだけさせた言い換えではありません。全国で通じるのに、しっくりくる話者は限られている。その偏りこそが、この一語を人物描写の材料にしています。
言葉が土地を離れなかった、という事実そのものが手がかりになる場面もあります。
まとめ|ゴーマンの一言が置いていったもの
wicked good は、very good の勢いを何段か引き上げた言い方です。wicked そのものの意味はほとんど働いておらず、残っているのは程度を押し上げる力と、ニューイングランドの響きだけ。この二つが同時に届くところが、この表現のいちばんの特徴と言えます。
会話でこの語に出会ったら、強さだけでなく、どの地域と結びつく言い方なのかにも耳を向けてみてください。ただし、一語だけで話し手の出身地や来歴までは断定できません。
冒頭で証人の機嫌を伝えたゴーマンの一言も、そのときはただの雑談に聞こえました。言葉は意味だけでなく、話者が身につけた地域的な響きも一緒に運んでいるのですね。


コメント