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初めて行く店の前を、入るかどうか決めかねて二度も三度も通り過ぎてしまう。そんな、目的があって見て回っているだけなのに、なぜか後ろめたく見えてしまう場面があります。
その「見て回る」を後ろ暗い意味で言い切る「case a place」を、『メンタリスト』シーズン4第19話の中盤、劇場裏でジェーンが旧友のマジシャンを呼び止めるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「case a place」の意味とニュアンス
case a place
意味:侵入や犯行に備えて、その場所を下調べする
名詞の case は事件や案件を指します。それを動詞にして使うと、ある場所を調査の対象として扱う、つまり細かく見て回るという意味になります。19世紀後半から20世紀初頭のアメリカで、犯罪者たちの隠語として広まったとされますが、由来には諸説あります。
重要なのは、この語には後ろ暗い目的が最初から組み込まれている点です。単に visit や look around と言えば目的は問われませんが、case を使った時点で「何かを企てている」という前提が入ります。カメラの位置、警備員が通る間隔、非常口の場所。そういうものを数えながら歩く行為を指します。
目的語は場所を表す語であれば幅広く取れます。case the bank、case the house、そして俗語色の強い言い方では case the joint という形もよく見られます。
比喩として、犯罪とは関係のない下見に使うこともあります。その場合は「抜け目のない準備をしている」という、少し皮肉を含んだ軽口になります。
【ここがポイント!】
- case は「事件」の case。対象として調べるという動きが動詞になったもの
- 後ろ暗い目的が語そのものに含まれている、色のついた表現
- 犯罪と無関係な場面で使えば、周到さをからかう軽口になるのが面白いところ
『メンタリスト』S04E19のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
舞台を終えたマジシャンのジャック・ヘリオンを、ジェーンが劇場裏で待ち構えていた場面です。ジェーンはこの日ずっと旧友の様子を観察していました。舞台での不自然な動揺、被害者を知らないという嘘、前科者たちとの交友。集めた観察を順に並べたうえで、次の一手として持ち出すのがこの一言です。相手を責めずに褒めてみせる入り方に注目です。
Jane: The way you fell apart onstage when I yelled was the first clue. Then you lied about knowing D’Stefano, and now you’re palling around with a couple of ex-cons. Your friends are more professional than they look. I must say that. They did a good job of casing this place.
(僕が叫んだときに舞台で取り乱したこと、あれが最初の手がかりだった。次に、ディステファノを知らないと嘘をついた。そして今は前科者二人とつるんでいる。君の友人たちは見た目より本職だね。それは認めるよ。この場所の下見は見事だった)Hellion: What do you mean? What place?
(どういう意味だ。どの場所のことだ)Jane: You’re planning to rob the casino, Jack. There’s no point in hiding it.
(君はカジノを襲うつもりだろう、ジャック。隠しても仕方がない)Hellion: Shut up. You can get me in a lot of trouble, people hear you talking like that.
(黙れ。そんな話を人に聞かれたら、こっちが厄介なことになる)The Mentalist Season4 Episode19 (Pink Champagne on Ice)
シーン解説と心理考察
ジェーンが選んだ入り方は、追及ではなく称賛です。仲間の下見は見事だったと褒めることで、相手は否定しにくい位置に立たされます。褒め言葉を打ち消すには、下見などしていないと言い切る必要がありますが、それは会話の流れとして不自然になる。逃げ道を先にふさぐ運び方が表れています。
ヘリオンの返しも観察に値します。「どういう意味だ」と聞き返すだけなら、まだとぼけていられました。そこに「どの場所のことだ」と足してしまったことで、心当たりのある場所が頭にあることが露呈します。焦りが余計な一語を呼ぶ構図が、短いやり取りににじむ場面です。
とどめの「黙れ」は反論ではありません。人に聞かれたら困ると言った時点で、聞かれて困る中身があると認めたのと同じです。ジェーンは一度も問い詰めていないのに、相手が自分から輪郭を描いていく。この手つきが会話の温度を変えています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
建物の前を、ゆっくりと二度、三度と往復している人の姿を思い浮かべてみてください。立ち止まりはしません。ただ、防犯カメラの向きを目で追い、警備員が角を曲がるまでの秒数を数えている。その歩き方が case a place です。
普通に見て回るのとの違いは、視線が何を拾っているかにあります。店の雰囲気ではなく、逃げ道を見ている。商品ではなく、鍵の形を見ている。同じ場所を歩いていても、集めている情報が違うわけです。
劇中でジェーンが「下見は見事だった」と言えるのも、相手の仲間がその歩き方をしていたのを見ていたからにほかなりません。歩幅ではなく視線で覚える、と考えると使いどころを外しにくくなります。
例文で覚える「case a place」
後ろ暗さを含む語なので、使う場面を選びます。三つの場面で、色の出方を見てみましょう。
They were casing the bank for weeks before the robbery.
(彼らは強盗の前、何週間もその銀行を下見していた)
事件の経緯をニュースや会話で説明する場面です。進行形にすることで、準備に費やした時間の長さが伝わります。
Security noticed a man casing the parking garage late at night.
(警備員は、深夜に駐車場を下見している男に気づいた)
不審者の目撃を報告する場面です。notice someone doing の形にはめると、目撃の描写としてそのまま使えます。
A: Why are you walking around the store again?
B: I’m not casing the place. I just can’t decide what to buy.
(A:なんでまた店の中をぐるぐる回ってるの)
(B:下見してるわけじゃないって。何を買うか決まらないだけ)
売り場を何度も往復する友人をからかう場面です。犯罪語彙をあえて使うことで、冗談だと分かる軽さが出ます。
あわせて覚えたい関連表現
scope out
(下見する、様子を見に行く)
目的の後ろ暗さがない中立的な言い方です。今回のフレーズと動作は同じでも、こちらは会場や店の事前確認にそのまま使えます。
stake out
(張り込む)
一箇所にとどまって監視し続ける行為で、主語が捜査する側になることが多い表現です。歩いて見て回る case a place とは、体の動かし方が逆になります。
check the place out
(その場所を見てみる)
最も日常的で、目的も限定されません。計画性を含む case a place と比べると、軽さと無害さがはっきり違います。
Note|犯罪ものが育てた動詞
case という短い語が「下見する」という限定された意味を持てるのは、この語が長いあいだ特定のジャンルの中で使われ続けてきたからです。
強盗を扱った映画や小説では、犯行の前に必ず現場を調べる段取りが描かれます。金庫の位置を確認し、警備の交代時刻を測り、逃走経路を決める。この一連の流れに名前をつける必要があったため、隠語だった case が作品の中で繰り返し使われ、やがて一般の視聴者にも通じる語になりました。
その結果、この語は意味だけでなく場面設定ごと運ぶようになりました。誰かが「あの店を case している」と言えば、聞き手の頭には自動的に、これから何かが起きるという展開まで浮かびます。辞書的な定義は「下調べする」の一語で済みますが、実際に伝わっているのはそれより広い情報です。
同じことは stake out や inside job にも起きています。犯罪ものというジャンルが、一群の語彙をまとめて日常語に押し上げてきた。作品が言葉を運ぶ器になっている一例です。
劇中のジェーンが「下見は見事だった」と口にした瞬間、ヘリオンが青ざめたのも同じ理由です。この語が使われた時点で、話題が何であるかは説明するまでもありません。
一語で場面が立ち上がる。そういう語が、ジャンルの中では育ちます。
まとめ|歩き方ではなく、視線で決まる言葉
case a place が指しているのは、場所を見る行為そのものではなく、何を拾いながら見ているかです。逃げ道と鍵と警備の間隔を数えていれば、それは下見になります。
この一語を知っていると、犯罪を扱った作品を見るときの解像度が上がります。登場人物が街を歩いているだけの場面でも、台詞にこの語が出た瞬間、準備段階に入ったことが分かるようになります。
ジャンルの中で育った語には、その世界の空気ごと持ち歩く力があるのですね。


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