海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
信用してくれと頼まれても首を縦に振らなかった相手が、腕を疑われたとたんに態度を変える。そういう場面が、ドラマには時々あります。
その転換点になる「have the chops」を、『メンタリスト』シーズン4第19話の中盤、マジシャンの部屋に集まった一味が、ジェーンを仲間に入れるかどうかで揉めるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「have the chops」の意味とニュアンス
have the chops
意味:その仕事をやり切るだけの実力がある、腕が立つ
chops はもともと顎や口のまわりを指す古い語です。そこから管楽器を吹く奏者の唇と口の筋肉を指す言い方になり、さらに演奏の技量そのものを表すようになったとされます。音楽の世界で育った語が、後にジャンルを越えて広がりました。
そのため、この表現が指しているのは才能や資格ではなく、実際に手を動かして通用する技術です。理屈を知っているだけでは足りず、その場で見せられるかどうかが問われます。
have で語られる点も特徴です。持っているか持っていないかという所有の形をとるため、疑うときには「持っていないだろう」という言い方になります。人格ではなく所持の有無に触れる形なので、挑発として使うと効き目が鋭くなります。
冠詞を外して serious chops、real chops のように形容詞を添える形も定着しています。とくに音楽の話題では、こちらのほうが自然に響きます。
【ここがポイント!】
- 元は口のまわりを指す語。実力を身体に入ったものとして捉える発想が土台
- 才能や資格ではなく、その場で見せられる技術を指す一言
- have で語るため、疑う形にすると挑発として強く働くのが使いどころ
『メンタリスト』S04E19のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
マジシャンのヘリオンが、ジェーンも仕事に加わると仲間に告げる場面です。素性の知れない相手を、仲間のヴィンセントは受け入れようとしません。ここでジェーンが取るのは説得ではなく、まったく逆の手です。相手が抱えている警戒心を、そのまま別の感情に置き換えてしまう一言に注目です。
Hellion: Jane’s coming in on the job with us.
(ジェーンも今回の仕事に加わる)Vincent: I don’t know about that. How do we know we can trust this guy?
(それはどうかな。こいつを信用できる保証がどこにある)Hellion: It’s okay. You can trust him. He’s one of us.
(大丈夫だ。信用していい。こっち側の人間だ)Vincent: Says you. I’m not doing this with him.
(あんたがそう言ってるだけだろ。こいつとは組まない)Jane: Well, fine. Walk away from a foolproof plan to rob the casino. Tell you the truth, I didn’t think you really had the chops for it anyway.
(けっこう。完璧な計画から降りればいい。正直に言うと、そもそも君にその腕があるとは思っていなかったしね)Vincent: Show us your plan.
(計画を見せてもらおうか)The Mentalist Season4 Episode19 (Pink Champagne on Ice)
シーン解説と心理考察
ヘリオンが二度試したのは説得でした。信用していい、こっち側の人間だ。どちらも相手の警戒心に正面から向き合う言い方で、どちらも通りません。相手が求めているのは保証であって、保証は言葉では作れないからです。
ジェーンが取るのは逆の道です。まず「降りればいい」と突き放し、選択肢を相手に返してしまいます。そのうえで、実力を疑う一言を置く。信用を求められれば拒めますが、腕を疑われれば証明したくなる。反発の理由そのものを裏返す手つきが表れています。
直後に返ってくるのが「計画を見せてもらおうか」であるところに、この一手の切れ味がにじみます。ヴィンセントは何ひとつ譲歩を引き出していないのに、自分から前に出てしまった。相手を動かすのではなく、相手が動きたくなる形を作るという、この人物のやり方が凝縮された場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
長年トランペットを吹いてきた奏者が、難所を何食わぬ顔で吹き切る場面を思い浮かべてみてください。息の支え方も唇の当て方も、考えて出しているわけではありません。数えきれない時間をかけて、身体のほうに入ってしまっている。chops が指しているのは、この「身体に入った技術」です。
だからこの言葉は、頭で分かっている人には向きません。説明できるかどうかではなく、その場で出せるかどうかを問う言葉だからです。
劇中でジェーンに腕を疑われた相手が即座に反応するのも、身体に入っているはずのものを持っていないと言われたからにほかなりません。知識を疑われるより、腕を疑われるほうが痛い。その痛みの位置ごと覚えておくと、使いどころが見えてきます。
例文で覚える「have the chops」
実力を認めるときにも、疑うときにも使えます。三つの場面で、向きの違いを見てみましょう。
She definitely has the chops to lead this team.
(彼女にはこのチームを率いるだけの実力が、間違いなくあります)
人選について意見を述べる場面です。to 不定詞を続けると、何に対する実力なのかがはっきりします。
The band’s new drummer has serious chops.
(あのバンドの新しいドラマー、相当な腕前だよ)
ライブの感想を友人に伝える場面です。冠詞を外して serious を添える形は、音楽の話題でとくによく使われます。
A: I’m thinking about applying for the lead role.
B: Go for it. You’ve got the chops, you just don’t say it out loud.
(A:リーダーの役に応募しようか迷ってるんだ)
(B:やりなよ。腕はあるんだから。口に出さないだけで)
迷っている相手の背中を押す場面です。you’ve got の形にすると、断定が柔らかく響きます。
あわせて覚えたい関連表現
have what it takes
(必要なものを備えている、素質がある)
何が必要かを名指ししないため、根性や覚悟まで含む広い言い方です。磨かれた技術に的を絞る今回のフレーズとは、測っている中身が違います。
be up to the task
(その務めをこなせる)
特定の任務との釣り合いを述べる、書き言葉寄りの表現です。挑発には向かず、要件と能力の適合を静かに確認する場面で使われます。
know one’s stuff
(自分の分野をよく分かっている)
知識と経験の確かさが中心にあります。その場で実演して見せる技量を問う今回のフレーズとは、証明の仕方が異なります。
Note|唇の筋肉が「実力」になるまで
chops という語は、もともと顎や口のまわりを指す古い英語の語だったとされます。今でも lick one’s chops のような形で、口のまわりを指す元の意味が残っています。
この語が技量の意味を帯びたのは、音楽の現場を経由したためだと説明されます。管楽器の演奏では、唇と口の周りの筋肉の状態が音を決めます。長く吹いていない奏者は音が持たず、鍛えている奏者は難所を安定して吹き切れる。そこで奏者たちのあいだで、口の状態を指す chops が、そのまま演奏能力を指す言い方として使われるようになったとされます。ジャズの世界で広く使われたことが普及の後押しになったとも言われますが、時期や経路には諸説があります。
やがてこの語は音楽の外へ出ていきました。役者の演技力、料理人の手際、経営者の実務能力。分野は違っても、身体で覚えたものを本番で出せるかどうかという一点が共通していたためです。
面白いのは、この語が現在も「身体に入っている」という含みを手放していない点です。資格や学歴を指して have the chops とは言いません。試験に受かったかどうかではなく、本番で音が出るかどうか。その基準が、語のいちばん深いところに残っています。
劇中でジェーンが腕を疑ったとき、相手が反論ではなく行動で応じたのも、この語が証明を要求する語だからです。持っていると言い返しても意味がなく、見せるしかない。
言葉の出どころが、そのまま使われ方を決めている一例です。
まとめ|口に出さず、見せるしかない実力
have the chops が問うているのは、知っているかどうかではなく、その場で出せるかどうかです。管楽器の奏者が難所を吹き切れるかどうかと、同じ基準で人の実力を測っています。
この一言があると、能力について話すときの角度が変わります。優秀だと褒めるのでもなく、経験があると事実を述べるのでもなく、本番で通用するかという一点に絞って言える。褒めるときにも、挑発するときにも効きます。
腕を疑われた人間は、言い返す代わりに動いてしまう。そういう力を持った、短くて重い一言です。


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