海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
誰かが妙に親切にしてくれたとき、ありがたいと思う一方で、この人は何が目当てなんだろうと勘ぐってしまう。そんな居心地の悪い瞬間を経験したことはありませんか。
英語には、その勘ぐりをそのまま一文で言い切ってしまう表現があります。それが「there’s something in it for someone」です。『メンタリスト』シーズン5第6話、殺人現場の周辺で聞き込みをしていたジェーンが、ひとりだけ様子の違う住民の嘘を崩していく場面から、一緒に見ていきましょう。
「there’s something in it for someone」の意味とニュアンス
there’s something in it for someone
意味:誰かにとって得になるものがある、見返りがある
利益を「見返り」という独立した名詞で取り出さず、その話や取引の内部にあらかじめ入っているものとして扱う言い方です。something とぼかしているため、中身が金銭でも立場でも恩義でも使えます。相手の行動原理そのものを言い当てるときにも、キャンペーンや勧誘で参加者の利点を示すときにも登場します。
構造を分解すると理解しやすくなります。there’s something が「何かがある」、in it の it は話題になっている取引や頼みごとそのもの、for you が「あなたにとっての」。つまり「その話の中に、あなた向けの何かが入っている」という組み立てです。利益がどこにあるかを、前置詞ひとつで場所として指定しているわけです。
肯定文で他人について使えば、その人の行動原理を評する言い方になります。見返りがあるから動く人だという観察であり、必ずしも非難の色は伴いません。一方、unless や否定と組み合わせると、劇中のジェーンのように「そうでなければ動かないはずだ」という断定に近づきます。同じ形でも、周囲の語との組み合わせで踏み込みの深さが変わる点は押さえておきたいところです。
【ここがポイント!】
- 利益を外から与えるのではなく、話の中にすでに入っているものとして語る表現
- something のおかげで、金銭・恩義・立場などどんな利益にも使える汎用性がある
- 人物評として使うと、「損得抜きでは動かない人だ」という辛口の観察になる
『メンタリスト』S05E06のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
殺害された警備員の現場周辺で、CBIチームが近隣住民に聞き込みをしています。ほとんどの住民が協力的に話すなか、ひとりだけ携帯電話から目を離さない男がいます。ジェーンはその態度から、彼の言い分に矛盾があることを見抜いていきます。男の名前はアイザック。兄夫婦の郵便物を取りに来ただけだと説明しますが、その説明自体が最初から揺らいでいます。
Jane: You’re in high finance. You’re a banker, a hedge fund manager, yes?
(君は金融畑の人だ。銀行員か、ヘッジファンドの運用者か、そうだろう?)Isaac: Yes.
(そうだ)Jane: You don’t do favors for people unless there’s something in it for you.
(君は、自分に得がないかぎり人に親切はしない)Isaac: That’s not true.
(そんなことはない)The Mentalist Season5 Episode6 (Cherry Picked)
シーン解説と心理考察
ジェーンはここで、アイザックの嘘そのものを追及していません。職業を言い当てたうえで、その職業に就く人間がとる行動パターンから逆算し、「あなたという人間はそもそもこういう動き方をしない」と行動原理ごと崩しにかかっています。数分前まで携帯を気にしていた素振りが、この一言で単なる癖ではなく計算された無関心だったと読み替えられていく過程が見どころです。アイザックの否定は反射的で、根拠を伴っていません。この直後、ジェーンは郵便受けの中身という一点だけを尋ね、嘘が成立しない急所を選んで突く手つきを見せます。相手の言葉ではなく行動の一貫性を材料にする観察の質が、このやり取りに凝縮されています。嘘を暴くというより、嘘が成り立つ余地をあらかじめ潰していく進め方だと言えます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
取引をひとつの箱だと考えてみてください。箱を開けたとき、自分の名札がついた小包が入っていれば動き、入っていなければ動かない。in it の it は、まさにこの箱にあたります。ジェーンはアイザックの前でこの箱の蓋を開けてみせ、「あなたの小包が入っていない話に、あなたが手を出すはずがない」と指摘しました。見返りを外から返ってくるものとして考える日本語の発想と、最初から取引の中に埋め込まれているとみなす英語の発想の違いを、この箱の絵で押さえておくと定着しやすくなります。
例文で覚える「there’s something in it for someone」
日常のやり取りからビジネスの交渉まで、幅広く使える表現です。誰について語るのか、そして肯定形か疑問形かで印象が変わります。3つの例文で、場面ごとの温度差を確認してみましょう。
I’ll help you move this weekend, but there’d better be something in it for me.
(週末の引っ越し、手伝ってやるよ。ただし、こっちにも何か見返りがないと困る)
友人同士の軽口として使う場面です。there’d better be を添えると、本気の要求ではなく冗談として成立する軽さが出ます。見返りの中身をあえて言わないところに、この表現の使いやすさがあります。
He never volunteers unless there’s something in it for him.
(あの人は、自分に得がないかぎり手を挙げない)
同僚の人柄を第三者に説明する場面です。ジェーンの用法にいちばん近い、行動原理を評する形になります。unless と組むことで、それ以外の動機はないという断定が加わります。
A: If we take this contract, what’s in it for us?
B: A steady client for the next three years, at least.
(A:この契約を受けたとして、うちには何が入ってくる?)
(B:少なくとも今後3年は安定した取引先になる)
社内会議で条件を詰める場面です。疑問形にすると、自分たちの取り分を確認する実務的な響きになります。相手を疑っているわけではなく、条件を明確にする手続きとして機能します。
あわせて覚えたい関連表現
What’s in it for me?
(それで、こっちには何があるの?)
同じ発想を疑問形にした形です。相手に取り分を要求する姿勢が前に出るため、平叙文で人物評として使う今回のフレーズより直接的で強く響きます。交渉の席では有効ですが、相手によっては露骨に受け取られます。
have an ulterior motive
(下心がある、裏の意図がある)
動機が隠されていること自体を問題視する語で、非難の色が濃くなります。there’s something in it for someone は利益の存在を指摘するだけで、必ずしも非難にはなりません。隠していたかどうかを問うか、あるかどうかを問うかの違いです。
scratch someone’s back
(相手の便宜をはかる、持ちつ持たれつでいく)
双方向の互恵関係が前提の表現です。一方の側の得だけを言い当てる今回のフレーズとは、利益が向かう方向が異なります。持ちつ持たれつを提案したいときは、こちらを選ぶほうが自然です。
Note|「見返り」を場所として言う英語
日本語は「見返り」「うまみ」と、利益を独立した名詞として外側に取り出して語ります。英語の there’s something in it for you は、利益をあらかじめ取引の内側に入っている物として扱う点が対照的です。
前置詞 in と for の組み合わせが、この発想を支えています。in は場所を、for は宛先を示し、「その中の、あなたのための何か」という二重の限定が一文でできあがります。契約書のような硬い文脈にも、友人への軽口にも同じ骨組みが使われるのは、something という語を具体化しないまま置けるからです。金銭・昇進・恩義のどれを指すかは、文脈がすべて引き受けます。
この発想の違いは、ジェーンの一言をより深く理解する手がかりになります。彼はアイザックの「親切心」を否定しているのではなく、その親切心の中に何が入っているかを見ようとしています。日本語なら「下心があるはず」と外から疑うところを、英語は取引の内部構造そのものを問う形で言い当てているわけです。
言葉の置き場所が変わるだけで、疑いの質感まで変わってくるところが興味深い一例です。
まとめ|利益は「外」ではなく「中」にある
there’s something in it for someone は、利益を独立した見返りとしてではなく、取引や関係性そのものの内側にあるものとして語る表現です。
打算を非難する言葉ではなく、行動の理由を淡々と言い当てる言葉として使えるため、人物評にも交渉の切り出しにも応用が利きます。What’s in it for me? のように自分の取り分を尋ねる形にも変化させられ、ビジネスの場面でも自然に使えます。
使うときは、肯定形で人物を評するのか、疑問形で自分の取り分を尋ねるのかを意識すると、意図が正確に伝わります。both of us と組めば、打算の色を消して協調の提案に変えることもできます。
日常のやり取りのなかで相手の動機を見立てる場面があれば、この表現を会話のレパートリーに加えてみてください。


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