海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
カフェで席を立つとき、後ろで待っている人に「どうぞ」と場所を譲る。会議室を出るとき、次に使う同僚に鍵を渡す。そんな引き渡しの瞬間が、一日のうちに何度かあります。
英語には、この動作をたった3語で済ませてしまう言い方があります。それが「be all yours」です。渡すものが場所でも物でも人でも、形は変わりません。『メンタリスト』シーズン5第6話、ジェーンが証言を引き出し、その場を静かに離れる最終場面から、一緒に見ていきましょう。
「be all yours」の意味とニュアンス
be all yours
意味:あとは任せた、どうぞご自由に
人・物・場所の主導権を、その場で相手に渡す一言です。譲る場面と、面倒を押し付ける場面の両方で使え、どちらになるかは渡す対象と口調によって決まります。所有格を使うことで、対象を相手の持ち物として明け渡す形になります。
注目したいのは all という語です。yours だけでも「あなたのもの」は成立しますが、all が加わることで「まるごと」「あとは全部」という含みが生まれます。部分的に譲るのではなく、こちらは一切関与しないという線引きがここに表れています。
対象は物にも場所にも人にも広がります。会議室、最後の一切れ、報告書の残り、そして扱いに困る相手。何を渡すかによって、同じ形が好意にも押し付けにも転びます。渡す側が得をしているのか損を回避しているのか、その判断は聞き手が文脈から行うことになります。
【ここがポイント!】
- 対象を「相手の持ち物」として扱う所有格の形が核になる表現
- 好意で譲る場合も、厄介ごとを回す場合も同じ形になる
- 渡した瞬間から、渡す側の関与や責任は基本的に切れる
- all が「まるごと」「あとは全部」という線引きを加えている
『メンタリスト』S05E06のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
エピソードの最終場面です。ジェーンは、勾留者の護送を担当していた運転手ウォルターの自宅で待ち構えていました。脅されて協力させられた経緯を認めさせようと、同じ問いを繰り返し投げかけています。ウォルターは目を合わせようとせず、沈黙で押し通そうとしています。
Jane: Where did you take Lorelei? Look at me, Walter. You have a chance to make this right. Where did you take Lorelei?
(ローレライをどこへ運んだ? こっちを見ろ、ウォルター。取り返す機会はまだある。ローレライをどこへ運んだ?)Walter: Okay. I’ll tell you.
(わかった。話す)Jane: He’s all yours.
(あとは任せた)The Mentalist Season5 Episode6 (Cherry Picked)
シーン解説と心理考察
ジェーンにとって必要だったのは、ウォルターを罰することではなく、行方につながる一点だけでした。それが手に入った瞬間、彼にとってこの人物への用は済みます。all yours という譲渡の言い方には、相手を丸ごと差し出す軽さがあり、直前まで見せていた粘り強い追及との落差が、そのまま人物像として立ち上がってきます。物語の核心に触れない範囲で言えば、聞き出す役目と引き取る役目がここではっきり分かれており、ジェーンは前者だけを担って場を離れます。追及の緊張から一転、あっさりと手を引く身のこなしが、このキャラクターらしさを静かに物語っています。長い追及の末に出てくるのが、たった3語の引き渡しである点も効いています。粘った時間の長さと、手を引く速さの落差がそのまま印象に残ります。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
手に持っていたものを、相手の手のひらの上にそのまま置いて、自分は一歩下がる。この動きひとつが all yours です。置かれるのは会議室の鍵かもしれませんし、最後のケーキかもしれませんし、扱いに困る人物かもしれません。渡す側は、渡した瞬間から一切の責任を持ちません。だからこそ、好意にも押し付けにもなります。劇中のジェーンは、必要な情報を得た直後にこの言葉を使い、そのまま部屋を出ていきます。手放して背を向ける、という二つの動作をセットでイメージすると、この表現の温度がつかみやすくなります。
例文で覚える「be all yours」
物を譲る場面から、担当を引き継ぐ場面まで幅広く使える表現です。何を渡すかで、好意にも押し付けにも転びます。3つの例文で使い分けを確認してみましょう。
I’m done with the conference room — it’s all yours.
(会議室、使い終わりました。どうぞお使いください)
共有スペースを次の利用者に引き渡す場面です。場所を譲るときの定番の言い方になります。I’m done with を前に置くと、自分の用は済んだという区切りが明確になります。
I’ve finished my part of the report. The rest is all yours.
(報告書の担当分は終わりました。あとはお願いします)
共同作業の引き継ぎを伝える場面です。the rest と組むと、どこからが相手の担当かという範囲の区切りが明確になります。分担を確認する意味でも使えます。
A: He’s in a terrible mood today.
B: Great. He’s all yours, then.
(A:今日は機嫌が最悪だよ)
(B:よかったね。じゃあ、あとは頼んだよ)
厄介な相手を同僚に回す場面です。譲渡と押し付けが同じ形になる、この表現らしい一例です。Great. のような一語を前に置くと、皮肉の色がはっきり出ます。
あわせて覚えたい関連表現
take it from here
(ここから先は引き継いで)
進行中の流れを途切れさせずに渡す言い方で、続きの作業があることが前提です。be all yours は対象そのものを丸ごと渡す形で、渡した後の使い道は相手にゆだねられます。経緯を引き継がせたいなら前者が適しています。
over to you
(そちらへどうぞ)
発言権や進行の番を渡す言い方で、放送や司会の場面でよく使われます。物や人そのものを渡すニュアンスは薄い点が異なります。順番を回すだけなら、こちらのほうが軽く響きます。
be my guest
(どうぞご自由に)
相手の申し出や行動を許可する返答として使われます。be all yours は渡す側が主体的に手放す動きを含む点が異なります。求められて許すか、こちらから明け渡すかの違いです。
Note|引き渡しを表す3つの言い方
be all yours、take it from here、over to you は、いずれも「あとは任せた」と訳されがちな表現ですが、渡している対象が違います。
be all yours は、対象を相手の持ち物として扱う所有格の形です。渡した後、渡す側がその対象にどう関わるかは基本的に問われません。一方、take it from here は「流れ」を渡す表現で、これまでの経緯を引き継ぐことが前提になっています。over to you は「番」を渡す表現で、司会や実況の交代のような、順番の移動に使われます。会議室を明け渡すなら all yours、途中まで書いた資料を託すなら take it from here、進行役を交代するなら over to you。同じ場面に三つとも置けるわけではありません。
渡した後の関与の有無という軸で並べると、be all yours がいちばん潔く手を引く形だと分かります。ジェーンがウォルターの家を後にする場面で選ばれたのも、この潔さと無関係ではなさそうです。情報を得た時点で、彼にとってその場に留まる理由はもうありません。
同じ「任せた」でも、渡しているものが違えば、選ぶ言葉も変わってきます。
まとめ|手放して、背を向ける一言
be all yours は、人や物の主導権を相手にそのまま渡し、渡す側は一歩引くという動きを表す表現です。所有格の形をとることで、対象を「相手のもの」として明け渡す潔さが生まれます。
take it from here や over to you といった近い表現と比べると、渡した後の関与を残さない点が特徴的です。会議室の鍵から厄介な相手まで、幅広い対象に使えます。渡すのが流れなのか、番なのか、対象そのものなのかを見極めると、三つを迷わず選び分けられるようになります。all という一語が加える「まるごと」の線引きが、その判断の目印になります。
ジェーンが背を向けたあの一言の軽さが、この表現の輪郭をいちばんよく伝えている場面でした。


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