「speak ill of the dead」の意味と使い方|『メンタリスト』S05E07で学ぶ英会話

「speak ill of the dead」の意味と使い方を解説

海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。

亡くなった人のことが話題になったとき、本当は言いたいことがあるのに「悪くは言いたくないんだけど」と前置きしてから、結局あれこれ話してしまった経験はありませんか。故人を悪く言うのは気が引ける。それでも本音のほうは、口をついて出てきてしまうものです。

そんな心の動きをそのまま言い表す「speak ill of the dead」を、『メンタリスト』シーズン5第7話、殺害された女性記者の評判をたずねられた同僚が、本音をひとしきりこぼしたあとで取り繕うように口にする一言から、一緒に見ていきましょう。

目次

「speak ill of the dead」の意味とニュアンス

speak ill of the dead
意味:死んだ人の悪口を言う

ill はここでは「病気の」ではなく「悪く」を意味する古い副詞用法で、speak well of(よく言う)と対になる形です。ill が形容詞として「体調が悪い」を表す用法とは別系統なので、混同しないように押さえておくと理解が早くなります。

この表現の面白いところは、単独ではほとんど使われない点にあります。実際には I don’t want to や Not to、あるいは never といった否定とセットになり、批判の前置き、または話を切り上げる合図として機能します。つまり「これから悪く言う」「今、悪く言った」というサインとして働くことが多く、前置きの言葉どおりに何も言わずに終わる人は、それほど多くありません。

対象は故人に限定されるため、生きている相手には使えません。ここが「悪口を言う」を表す他の言い方との決定的な違いです。故人への評価が話題にのぼる場面で、遠慮の姿勢を示しながら本音を差し出す。英語圏らしい間合いの取り方が詰まった一言です。

【ここがポイント!】

  • ill は「悪く」を表す副詞。speak well of と対で覚えると意味を取り違えにくい
  • I don’t want to や never といった否定とセットで使う、前置き専用の言い回し
  • 対象は故人限定。前置きのあとに本音が続く構造そのものが実際の使われ方

『メンタリスト』S05E07のシーンで見てみよう

意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。

殺害された女性記者キャシーの勤務先で、コンサルタントのジェーンは、同僚たちが判で押したように故人を褒めることに違和感を覚えます。そこで気象キャスターのタラに個別に接触し、「みんな建前しか言わない」と水を向けて本音を引き出しにかかります。タラはキャシーの私生活について辛辣な内情を語り始めますが、最後にこの一言で体裁を取り繕おうとします。

Jane: You know, I’ve asked around about her, but everyone seems to want to just tell me what they think they should tell. You know what I mean?
(彼女のことをあちこちで聞いて回ったんだけど、みんな「こう言うべきだ」と思ってることしか言わないみたいでね。分かるかな)

Tara: Totally. What do you want to know?
(すごく分かる。何が知りたいの?)

Jane: If you were to describe Cassie in one word, what would that word be?
(キャシーを一言で表すとしたら、どんな言葉になる?)

(中略)

Tara: But… I don’t want to speak ill of the dead.
(でも…死んだ人の悪口は言いたくないから)

Jane: They don’t really care. They’re dead.
(本人は気にしないよ。死んでるんだから)

The Mentalist Season5 Episode7 (If It Bleeds, It Leads)

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シーン解説と心理考察

ジェーンの入り方が巧みです。いきなり質問をぶつけるのではなく、「みんな建前しか言わない」と先に嘆いてみせることで、タラの側に「私は本当のことを言える人間だ」と名乗り出させる余地をつくっています。求められて話しているのではなく、自分から差し出している。その形をつくられた時点で、タラの口は軽くなっています。

そして、こきおろすだけこきおろしたあとに、この一言が差し込まれます。悪口を言い切ってから「悪く言いたくない」と付け足す順序そのものが、彼女の本心を裏切る形になっている点が見どころです。

ジェーンはその取り繕いを一切受け取りません。故人が気にするはずがないと即座に切り返し、話を先へ進めさせます。礼儀としての前置きと、実際に語られた内容との落差。この落差が、タラという人物の輪郭を浮かび上がらせています。相手の建前を軽く受け流しながら核心へ進む手際が、そのまま描かれている場面と言えます。

『メンタリスト』流・覚え方のコツ

タラが悪口を並べ立てたあとに、まるでブレーキを踏むように差し込んだ一言として覚えると記憶に残ります。悪口という下り坂を勢いよく走ってきた会話に、この一言で急ブレーキがかかる。けれどブレーキが効くのは一瞬だけで、ジェーンの切り返しによって、会話はすぐにまた走り出します。

「悪く言いたくない」と言いながら、実際にはたっぷり悪く言っている。この場面のちぐはぐさを絵として思い浮かべておけば、speak ill of the dead が持つ「前置きとしての性質」がそのまま体に入ってきます。文字の並びから意味を思い出すより、この一瞬のブレーキ音を思い出すほうが早く出てきます。

例文で覚える「speak ill of the dead」

前置きとして使われることが多いこの表現を、実際の会話でどう置くのか、3つの例文で見ていきましょう。

I don’t want to speak ill of the dead, but he wasn’t an easy man to work for.
(死んだ人を悪く言いたくはないけど、あの人の下で働くのは楽じゃなかった)
元上司を偲ぶ集まりで、同僚と当時を振り返っている場面です。but のあとに本音が続く、いちばん典型的な使われ方で、前半は本音を言うための助走として機能しています。

A: Did you hear what people are saying about the old landlord?
B: I know, but let’s not speak ill of the dead — not here, anyway.
(A:昔の大家さんについて言われてること聞いた?)
(B:知ってるけど、今この場では死んだ人の悪口はやめておこう)
故人の噂話が広がりかけたところで、その場をおさめる使い方です。let’s not の形にすると、相手を責めずに話を切り上げられます。

My grandmother always said you should never speak ill of the dead.
(祖母はいつも、亡くなった人を悪く言うものじゃないと言っていた)
家庭で教わった価値観を人に話している場面です。never と組み合わせると、個人の意見ではなく言い伝えとして響きます。

あわせて覚えたい関連表現

speak well of someone
(〜をよく言う、〜を褒める)
speak ill の対になる表現です。ill と well が副詞として対応していることが目で確認でき、ill を「病気の」と取り違える誤解を防いでくれます。

bad-mouth someone
(〜の悪口を言う、けなす)
生きている相手にも使えるくだけた口語です。speak ill of the dead が持つ「してはいけないこと」という道徳的な響きはなく、行為そのものを淡々と指します。対象も場面も限定されない分、使える幅は広くなります。

Not to be unkind, but …
(意地悪を言うつもりはないけど)
同じく批判の前置きとして働きますが、相手は存命でよく、話題も限定されません。speak ill of the dead が故人限定であるのに対し、こちらは日常のあらゆる批判に添えられます。

Note|ラテン語の格言から英語へ

「悪くは言いたくないけど」という前置きは、実は古代からの言い伝えを背負った言い回しです。

この表現の背景には De mortuis nil nisi bonum(死者については良いことのみを)というラテン語の格言があるとされています。古代ギリシアの賢人が残したとされる言葉が、後年ラテン語に訳されて広まり、ヨーロッパ各国の言語に取り入れられていきました。

興味深いのは、英語ではこの格言が肯定形から否定形へと姿を変えている点です。「良いことだけを言え」という積極的な指示が、「悪いことを言うな」という禁止の形に置き換わり、speak ill of the dead というフレーズとして定着しました。何を言うべきかを示す言葉から、何を言うべきでないかを示す言葉へ。同じ内容でも、指示の向きが逆になっています。

そしてこの反転が、実際の使われ方にも効いています。禁止の形だからこそ「破る」ことができ、破る宣言としての前置きが成立する。「良いことだけを言え」という命令形のままでは、こうした使い方は生まれにくかったはずです。

タラが本音を漏らしたあとにこの一言を差し込んだのも、破ってしまった古い合意を、言葉の上だけでも回収しようとした動きだったのかもしれません。

まとめ|死者への礼儀が生んだ、ひとつの決まり文句

speak ill of the dead は、亡くなった人を悪く言うことを戒める、古くからの言い伝えを背負った表現です。単独で使われることは少なく、悪口の前後に添えられる前置きとして機能します。ill が「悪く」を表す副詞であること、対象が故人に限られること。この2点を押さえておけば、初見でも意味を取り違えずに済みます。

この表現を知っていると、英語圏の会話やニュース、追悼の場での言葉選びが、なぜ独特の慎重さを帯びるのかが見えてきます。そして、この前置きが出てきたときは、次に本音が来るという読みも立てられるようになります。

礼儀としての前置きと、その裏にある本音のずれを楽しむ視点を、表現の引き出しに加えてみてください。

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