海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
誰かに便宜を図ってもらった代わりに、自分も何かで応えなければならない――そんな「持ちつ持たれつ」の関係を一言で表したくなることはありませんか。
そんな取引の空気を伝える「quid pro quo」を、『メンタリスト』シーズン5第14話の終盤、ポーカーで勝利した上司バートラムがリズボンに種明かしをするシーンから一緒に見ていきましょう。
「quid pro quo」の意味とニュアンス
quid pro quo
意味:見返り、対価、代わりの取引
ラテン語で「あるものの代わりに、あるもの」を意味する成句がそのまま英語に取り入れられた表現。「何かをしてもらう代わりに、こちらも何かを差し出す」という等価交換の関係を指す。ビジネスの取引や政治的な駆け引きから、日常のちょっとした貸し借りまで幅広く使われるが、暗黙の裏取引や、あからさまには言いにくい交換条件を指すときに特によく登場する語でもある。a little quid pro quo のように a little を添えると、深刻な取引ではなく軽い駆け引きであることを示すこともでき、口調によって重さを調整できる表現でもある。
【ここがポイント!】
- 核は「何かの代わりに、何か」という等価交換のイメージ
- ビジネス・政治・日常の貸し借りまで、幅広い場面で使える表現
- 暗黙の裏取引を指すときにも使われる、少し駆け引き寄りの一言
『メンタリスト』S05E14のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
ポーカーで負け続けていた上司バートラムは、ジェーンから密かに指南を受けたことで見事な勝利を収める。リズボンが部下ヴァンペルトの研修費を通すためにこの一手を仕組んでいたことを、バートラムが見抜いて種明かしをする場面に注目です。
Bertram: That was very slick, you having Jane give me lessons. You must really want to help Van Pelt.
(ジェーンに指南させるとは、なかなかやるじゃないか。よほどヴァンペルトを助けたいんだな。)Lisbon: What did Jane do?
(ジェーンが何かしたんですか?)Bertram: Oh, now there’s no need to be coy. I don’t have a problem with a little quid pro quo. The White Hat program, wasn’t it? I’ll authorize the stipend in the morning.
(ああ、とぼけなくていい。ちょっとした取引に文句はないよ。ホワイトハットの研修だろう? 朝一番で研修費を承認しよう。)The Mentalist Season5 Episode14 (Red in Tooth and Claw)
シーン解説と心理考察
リズボンは、部下の研修費を通すため、ジェーンにバートラムのポーカー指南をさせるという回り道を選んだ。バートラムはその意図を見抜きながらも、あえて咎めることなく「取引」として受け入れる度量を見せる。この短いやり取りには、事件の緊迫した捜査劇とは対照的な、組織内での持ちつ持たれつの人間関係が垣間見える。quid pro quo という硬い響きの言葉を、上司が部下の思惑を軽く受け流す場面で使うことで、深刻な裏取引ではなく、あくまで穏やかな駆け引きとして描かれている点も興味深い。ポーカーで負け続けていた立場から一転して勝者となったバートラムの上機嫌さが、この場面の軽妙なやり取りをさらに引き立てている。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
天秤の両側に、同じ重さのものが一つずつ乗っているイメージを思い浮かべると覚えやすい表現です。片方に何かを乗せれば、もう片方にも同じだけのものを乗せて釣り合いを取る――そんな絵を思い浮かべると、quid pro quo が持つ「等価交換」の感覚がつかみやすくなります。バートラムが軽い調子で受け入れた「ちょっとした取引」も、天秤がわずかに傾いただけの、深刻すぎない駆け引きとしてイメージすると記憶に残りやすくなります。天秤がぴたりと釣り合った瞬間をイメージすると、フォーマルな響きを持つこの語の落ち着いた印象とも重なります。
例文で覚える「quid pro quo」
日常会話からビジネスの場面まで、quid pro quoが使われる3つの場面を見てみましょう。
I’ll help you move this weekend, but it’s a bit of a quid pro quo — you’re driving me to the airport next month.
(今週末の引っ越し手伝うけど、ちょっとした取引条件があってね。来月空港まで送ってもらうよ。)
友人同士の貸し借りを軽い調子で伝える場面で使えます。
A: Why did the company suddenly agree to sponsor the event?
B: It’s quid pro quo. They get their logo on every banner in return.
(A:どうして会社が急にイベントのスポンサーを引き受けたの?)
(B:見返りがあるからだよ。全部の看板に自社ロゴを載せてもらえる条件でね。)
ビジネスの取引条件を説明する場面での典型的な使い方です。
The senator was accused of offering a quid pro quo in exchange for campaign donations.
(その上院議員は、選挙資金の提供と引き換えに便宜を図ったとして非難された。)
政治的な駆け引きや不正の疑いを報じるような、やや硬い文脈でも使われます。
あわせて覚えたい関連表現
give and take
(譲り合い、持ちつ持たれつ)
quid pro quoよりも柔らかく、対等な関係の中で互いに歩み寄る姿勢そのものを指す。quid pro quoが「これをしたら、これを返す」という具体的な条件を伴うのに対し、give and takeは条件を明示しない一般的な相互性を表す。
tit for tat
(仕返し、やられたらやり返す)
quid pro quoと語感は似ているが、こちらは主に否定的な文脈で使われ、報復や意趣返しのニュアンスが強い。等価交換という骨格は共通するが、向かう方向が善意か悪意かで大きく異なる。
scratch someone’s back
(人の背中をかいてあげる=便宜を図る)
“you scratch my back, I’ll scratch yours” という形でよく使われ、quid pro quoよりくだけた口語表現。互いに便宜を図り合う関係を、体の動作にたとえたカジュアルな言い回し。
Note|薬棚から法廷へ渡ったラテン語
quid pro quo という言葉には、もともと薬にまつわる警告の響きがあったとされる。
ラテン語で「あるものの代わりに、あるもの」を意味するこの成句は、中世からルネサンス期にかけて、薬剤師や医師のあいだで使われていた表現に由来するという説がある。当時は、ある薬を別の薬と取り違えて処方してしまう誤りを戒める言葉として用いられ、「本来渡すべきものの代わりに、別のものを渡してしまう」という否定的な意味合いを持っていたとされる。その後、時代とともに意味は中立化し、法律や政治の世界で「対価として何かを差し出す取引」を指す語として定着していった。現在では、贈収賄や利益供与の疑いを報じるニュース記事でもしばしば登場する、フォーマルな響きを持つ表現になっている。
バートラムのセリフでこの語が使われている点は興味深い。組織のトップという立場にある人物が、部下の裏工作を見抜きながらも「ちょっとした quid pro quo」と軽く受け流すことで、本来重々しい響きを持つはずの取引の語を、あえて軽やかに扱ってみせている。
薬の取り違えを戒める言葉が、駆け引きを軽く受け流す言葉になった。
まとめ|等価交換を一言で示す表現
quid pro quo は、何かをしてもらう代わりに、こちらも何かを差し出すという等価交換の関係を、ラテン語由来の一言で伝える表現です。
ビジネスの取引条件を説明したいときにも、友人同士の軽い貸し借りを伝えたいときにも使える幅広さが魅力です。バートラムのように、重々しい響きを逆手に取って軽い調子で使いこなせるようになると、表現の幅がぐっと広がります。
持ちつ持たれつの関係を語るときの一言として、会話のレパートリーに加えてみてください。


コメント