海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
『モダンファミリー』シーズン7第9話では、家族が山小屋で過ごすクリスマスに、ジェイが引退を発表します。ところが、会社を誰に任せるのかをめぐって、ジェイとクレアの間に大きな行き違いが生まれます。
同じ「会社を譲る」でも、英語では選ぶ言い回しによって、事務的な報告にも、思いのこもった訴えにも聞こえます。引退を告げる側、引き継ぎを語る側、そして自分が継ぐはずだったと訴える側。それぞれの口から出た表現を順に見ていきます。
「I’ve decided to retire」と切り出す
家族がそろった場で、ジェイが話を始めます。
Jay: Gloria and I have been talking about this for a while.
(グロリアとはしばらく、このことを話し合ってきた。)Jay: What with Joe getting older, I feel it’s just the right time to start a new chapter, which is why I’ve decided To retire.
(ジョーも大きくなってきたし、新しい章を始めるにはちょうどいい頃合いだと思う。だから決めた。引退することにした。)Mitchell: Oh, my.
(なんてこと。)Modern Family Season7 Episode9 (White Christmas)
have been talking about this for a while は「しばらく前からこの件を話し合ってきた」という現在完了進行形で、思いつきではなく考え抜いた結論だと前置きする働きがあります。大事な発表の前に置くと、聞き手が身構える時間をつくれます。
What with ~ は「〜もあって」と理由を挙げる口語的な言い方で、ここではジョーの成長を引退の理由として添えています。it’s just the right time to ~ は「〜するのにちょうどいい時期だ」という意味です。start a new chapter については同じ回のフレーズ記事で取り上げているため、ここでは「人生の次の段階に進む」という意味の確認にとどめます。
retire は仕事そのものから退くことを表す動詞です。役職だけを降りる場合は step down を使うことが多く、退いたあとも別の形で関わり続ける含みを持たせたいときに選ばれると言われます。ジェイは I’ve decided と言い切ってから retire を続けています。
発表を聞いたフィルは、これでキャンピングカーを借りて大リーグの球場を巡れると持ちかけますが、ジェイは一人で行けばいいと返します。引退をきっかけにした誘いが、あっさり断られる流れです。
「turn his company over to his son」で語る引き継ぎ
ジェイが会社を譲る相手として名前を出したチャック・フィーニーについて、ジェイ自身が次のように明かします。
Jay: There is no Chuck Feeny.
(チャック・フィーニーなんて男はいない。)Jay: I made him up because of what happened to Don McSorley when he turned his company over to his son.
(俺がでっち上げたんだ。ドン・マクソーリーが会社を息子に譲ったときのことがあってな。)Jay: Son only took the job because he felt obligated.
(息子は義務感から仕事を引き受けただけだった。)Jay: One year later, business went bankrupt.
(1年後、会社は倒産した。)Jay: Broke my heart to buy his entire inventory 8 cents on the dollar.
(あいつの在庫を丸ごと1ドルあたり8セントで買い取るのは胸が痛んだよ。)Modern Family Season7 Episode9 (White Christmas)
turn A over to B は「AをBに引き渡す」という句動詞で、会社・権限・書類などを手放して相手の管理下に移すことを、事実として淡々と伝えます。誰が何を誰に渡したのかを説明する場面に向いた言い方です。turn over the keys(鍵を引き渡す)のように、具体的な物にも使えます。
引き受ける側の言い方としては、take the job が「その仕事を引き受ける」に当たります。felt obligated は「義務だと感じた」で、本人が望んだわけではないことを示します。ジェイが後継者の名前を作り上げた理由として、この一件を挙げている点がポイントです。only が添えられていることで、義務感のほかに引き受けた理由がなかったことが強調されます。
I made him up の make up は「(話や人物を)でっち上げる」という意味です。go bankrupt は「倒産する」、8 cents on the dollar は「1ドルにつき8セント」、つまり元の価値のごく一部の値段で買い取ったことを表す言い回しとして使われます。
「hand over the reins」に込めた本音
発表のあと、ジェイはクレアを見つけて声をかけます。
Jay: There she is.
(いたいた。)Jay: Haven’t seen you since my big announcement.
(俺の大発表から顔を見てなかったな。)Jay: What do you think?
(どう思う?)Claire: I think that I gave my all to this company and that if you were gonna hand over the reins to somebody, it should be me and not some hump from Chicago!
(私はこの会社に全力を注いできた。誰かに手綱を渡すなら、それは私であるべきで、シカゴから来たどこかの馬の骨じゃないと思う!)Jay: Well, it just so happens
(まあ、実はちょうど)Claire: I’m not finished, dad! Thank you for saving me from wasting the next 20 years of my life talking about slats, rods, and hinges from becoming the most boring person in the most boring industry on earth!
(まだ話は終わってない、パパ! これから20年、板やらパイプやら蝶番やらの話で人生を無駄にして、世界一退屈な業界の世界一退屈な人間にならずに済んで、どうもありがとう!)Modern Family Season7 Episode9 (White Christmas)
hand over the reins は「手綱を渡す」が直訳で、馬を操る手綱にたとえて、組織を動かす立場そのものを託すことを表します。turn over が「何を渡したか」を伝えるのに対し、こちらは「誰が指揮をとるのか」に焦点が当たる言い方です。クレアは it should be me と続け、その立場は自分が担うはずだったと訴えます。gave my all の詳しい使い方はフレーズ記事に譲ります。
続く Thank you for saving me from ~ は「〜せずに済ませてくれてありがとう」という形ですが、ここでは怒りを込めた反語の感謝です。言葉どおりの意味と逆の気持ちが込められていることは、直前の it should be me から読み取れます。
Jay: “Boring”?!
(「退屈」だと?!)Claire: Boring!
(退屈よ!)Jay: Closets bring order to a chaotic world!
(クローゼットは混沌とした世界に秩序をもたらすんだ!)Gloria: What happened?
(何があったの?)Jay: I’ll tell you what happened.
(何があったか教えてやる。)Jay: I raised a mean, ungrateful daughter, and I’m glad I gave the business to Chuck Feeny!
(俺は意地悪で恩知らずな娘を育てちまった。チャック・フィーニーに会社を譲ってよかったよ!)Gloria: There is no Chuck Feeny!
(チャック・フィーニーなんていないでしょ!)Modern Family Season7 Episode9 (White Christmas)
グロリアに何があったのかと聞かれたジェイは、give the business to ~ という最も平易な形で言い返します。それを受けて、グロリアが作り話であることを口にします。
| 表現 | 焦点 |
|---|---|
| retire | 仕事から退くこと |
| turn A over to B | 何をだれに引き渡したか |
| hand over the reins | だれが指揮をとるか |
| give the business to ~ | 会社を渡すという事実 |
まとめ|譲る言葉と、継ぎたい気持ち
I’ve decided to retire で決意を伝え、turn over で引き継ぎの事実を語り、hand over the reins で「指揮をとる立場」を託す。同じ「譲る」でも、焦点の違いで聞こえ方が変わることが分かります。
親子の言い合いの陰にある本音にも耳を傾けながら、これからも『モダンファミリー』の会話を楽しんでいきましょう。
同じ回のほかのコラムでは内緒の計画を見抜く言い方や、本心を皮肉と受け取られたときの言い直しを、個々の表現はフレーズ記事で取り上げています。


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