海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
どうにもならないことを打ち明けられて、「きっと元どおりになるよ」とは言えないと感じたことはありませんか。消えないものについて、消えることを前提にした言葉を返すのは、かえって遠い響きになってしまいます。
そんなときの選択肢になる「learn to live with it」を、『メンタリスト』シーズン1第9話の前半、父を亡くしたばかりの高校生マディに、ジェーンが初めて声をかけるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「learn to live with it」の意味とニュアンス
learn to live with it
意味:それを抱えたまま生きていけるようになる、折り合いをつける
live with は「〜と一緒に暮らす」。取り除けないものを追い出すのではなく、同じ屋根の下に置いたまま、暮らし方のほうを変えていくという発想がこの表現の核にあります。learn がつくことで、それが自然に訪れるものではなく、時間をかけて身につけるものだと示されます。
対比すると輪郭がはっきりします。get over it は、つらさそのものが過ぎ去って元に戻る、という結末を指します。一方 learn to live with it は、対象が消えないことを前提にしています。変わるのは「それ」ではなく、こちらの暮らし方のほうです。同じ「乗り越える」と訳される場面でも、この二つは前提がまるごと違います。
使える範囲は、深刻な話題に限りません。動かせない締切、直らない設備、慣れない土地の気候。変えようがないと分かったものを引き受けて先へ進む、という場面全般に使えます。it の代わりに具体的な名詞を置いて、learn to live with the noise のようにも言えます。
【ここがポイント!】
- 核は「動かせないものを残したまま、暮らし方のほうを変える」という発想
- get over it は対象が消える前提、learn to live with it は残る前提
- 深刻な話題だけでなく、変えられない制約全般に使える
『メンタリスト』S01E09のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
放火で父を亡くしたばかりの高校生マディに、ジェーンが初めて声をかける場面です。突然の訪問者に、マディは刺のある言葉を投げて追い返そうとします。ここでジェーンが返したのは、慰めらしい慰めではありませんでした。
Jane: You must be Madeleine. Maddy.
(君がマデリーンだね。マディ)Maddy: Whatever you’re selling—pass. Funny. What are you, a moron? My dad just died.
(何を売りに来たのか知らないけど、結構です。おかしいでしょ。ばかなの? 父が死んだばかりなのに)Jane: Yes. My condolences. It happens. You’ll learn to live with it. Not for, uh, a while, but in the end, you will.
(そうだね。お悔やみを言うよ。そういうことは起きる。君はそれを抱えて生きられるようになる。しばらくは無理だけど、いずれはね)Maddy: Who are you?
(あなた、誰?)The Mentalist Season1 Episode9(Flame Red)
シーン解説と心理考察
ジェーンの返答は、慰めの定型からはっきり外れています。It happens(そういうことは起きる)は、状況を一般化して突き放す言い方です。悲しみに寄り添うどころか、事実として脇に置いたようにも聞こえます。
それでもこの言葉が届くのは、続く一言が回復を約束していないからでしょう。You’ll learn to live with it は、つらさが消えるとは言っていません。消えないまま、いずれ日常が回るようになる、と言っているだけです。しかも Not for a while(しばらくは無理だ)と、時間差までわざわざ挟んでいます。安易な励ましを拒む姿勢が、この言い回しの選び方にじんでいます。
結果として、追い返そうとしていたマディが Who are you? と問い返します。会話の入口がここで開いたことが、短いやり取りの温度を変えています。なお終盤、マディは母親についてこの同じ表現を口にします。慰めとして差し出された言葉が、刺として返される。同じ一言の二つの顔が、このエピソードには置かれています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
家のなかに、動かせない大きな柱が一本立っている場面を思い浮かべてください。邪魔だからと切り倒すことはできません。できるのは、家具の配置を変え、歩く道筋を変えて、その柱と一緒に暮らせるようにすることだけです。
このとき変わるのは、柱ではなく暮らし方のほうです。get over it が柱をなくす話だとすれば、learn to live with it は柱を残したまま動線を引き直す話になります。引き直しには時間がかかるからこそ、ジェーンは「しばらくは無理だけど、いずれは」と言い添えました。柱を残す絵で覚えておくと、二つの表現を取り違えずに済みます。
例文で覚える「learn to live with it」
深刻な話題にも、日常の小さな不便にも使える表現です。重さの違う3つの例文で、幅を確かめていきましょう。
The scar never really faded, but I learned to live with it.
(傷跡は結局消えなかったけれど、気にせず暮らせるようになりました)
過去の出来事を落ち着いて振り返る場面です。過去形にすると、すでに折り合いがついた状態を表せます。
You’ll have to learn to live with the noise from the street.
(通りの騒音とは、付き合っていくしかないですよ)
引っ越してきた人に部屋の事情を伝える場面です。it の代わりに具体的な名詞を置くと、何を抱えるのかがはっきりします。
A: The new system is so slow.
B: I know. We’ll just have to learn to live with it for now.
(A:新しいシステム、遅すぎる)
(B:だよね。当分は慣れるしかないよ)
変えようのない社内事情を同僚と話す場面です。あきらめと現実的な割り切りが半分ずつ混じった、日常的な返しになります。
あわせて覚えたい関連表現
get over it
(乗り越える、立ち直る)
つらさそのものが過ぎ去って元に戻る、という結末を指します。learn to live with it は対象が消えないことを前提にしているため、結論がほぼ正反対になります。
come to terms with
(受け入れる、折り合いをつける)
心のなかでの決着に焦点がある表現です。learn to live with it が日々の暮らし方という外側の変化を指すのに対し、こちらは内面の和解を表します。
put up with
(我慢する、耐える)
不満を抱えたまま耐える含みが強い言い方です。learn to live with it には、耐えるというより慣れて落ち着いた状態が含まれる点で違いがあります。
Note|「乗り越える」と「抱えて生きる」は違う
日本語の「乗り越える」は、ずいぶん広い言葉です。失恋も、病気も、仕事の失敗も、ひとまとめにこの一語で言い表せます。ところが英語に移そうとすると、対応する表現が複数に分かれ、しかもそれぞれ前提が違います。
分かれ目になるのは、その対象が消えるのか残るのかという一点です。get over it と move on は、対象が背後に去っていく前提に立っています。get over は障害物を越えて向こう側へ行く絵、move on は同じ場所にとどまるのをやめて先へ進む絵です。どちらも、その出来事が現在から離れていくことを含みます。これに対して come to terms with は、対象が残ったまま、こちらの心のなかで決着がつく状態を指します。terms は「条件」で、相手と条件を出し合って和解に至る、という交渉の比喩です。そして learn to live with it は、対象が残り、心の決着も保留されたまま、それでも生活は回るようになる、という段階を表します。四つのなかで最も、変化の量が少ない表現だと言えます。
この違いは、慰めの言葉を選ぶときに効いてきます。取り戻せないものを失った相手に You’ll get over it. と言えば、その喪失はいずれ過去になると宣言したことになります。相手がまだそう思えない段階なら、この言葉は遠くに響きます。一方 You’ll learn to live with it. は、失ったものが戻るとは言っていません。約束しているのは、いつか日常が回るようになる、という一点だけです。言えることの範囲が狭いぶん、嘘にならずに済みます。
劇中のジェーンが選んだのも、この狭いほうでした。彼自身が家族を失っている人物であることを踏まえると、この選択には理由があるように見えます。回復を約束できる立場にないと分かっている人が、それでも差し出せる言葉。Not for a while という時間差の但し書きまで含めて、この一言は誠実に狭く作られています。
訳語がひとつでも、英語側では線が引かれている。その線をたどると、言葉の選び方まで見えてくるのですね。
まとめ|追い返そうとした少女への一言から学ぶ「残るもの」の語り方
learn to live with it は、「動かせないものを残したまま暮らし方を変える」という核から、それを抱えて生きられるようになる、という意味を表す表現でした。get over it との違いは、対象が消える前提か、残る前提かという一点にあります。
変えようのないことを打ち明けられて、返す言葉に迷ったとき。この一言なら、回復を約束せずに、それでも先があると伝えられます。締切や設備といった日常の制約にも使えるので、使い道は思いのほか広いはずです。
安易な慰めを避けたジェーンの言葉づかいとともに、表現の引き出しに加えてみてください。


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