海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
情報源は明かせないけれど、どうしても伝えたい話がある。そんなとき、少しもったいぶって切り出したくなった経験はありませんか。
そんな前置きにぴったりの「word on the street」を、『フレンズ』シーズン2第12話の中盤、動物園の清掃係が情報屋を気取ってロスに話しかけるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「word on the street」の意味とニュアンス
word on the street
意味:巷の噂では、聞くところによると
word on the street は、公式に発表されたものではなく、市井に流れている非公式な情報を指します。話し手が情報源を明かさないまま「そういう話がある」と切り出すときの前置きとして使われます。
この表現の面白さは、street という語の選択にあります。情報が生まれる場所として、会議室でも新聞社でもなく「通り」が選ばれている。誰が言い出したのかわからないまま、人から人へ伝わっていく話。その匿名性と流動性が、street という一語に込められています。
そのため word on the street には、どこか秘密めいた響きが残ります。裏社会の情報網を思わせる語感があり、話し手はそれを承知のうえで使います。ビジネスの場でも使えますが、口にした瞬間に会話の温度が少しだけ砕けたものになる。その効果込みで選ばれる表現です。
【ここがポイント!】
- 核は「通りに落ちている言葉」、出所は不明だが確かに流れている情報を指す一言
- 情報源を明かさずに切り出せるため、責任を負わずに話を始められるのがこの表現の機能
- どこか通ぶった響きがあり、あえて格好つけて使われる場面も多いのが読みどころ
『フレンズ』S02E12のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
飼っていたサルの行方を追って動物園にやってきたロスの前に、清掃係のバディが現れます。彼は声を落とし、周囲をうかがい、まるで裏社会の情報屋のような口ぶりで話しかけてきます。ところが、その決まり文句を口にした直後、彼自身が言葉の矛盾に気づいてしまいます。
Ross: You knew Marcel?
(マルセルを知ってたのか?)Buddy: Word on the street… well, when I say street I mean those little pretend streets they have here at the zoo.
(巷の噂じゃな……いや、街と言っても、この動物園の中にある作り物の道のことだがな)Ross: Right.
(なるほど)Buddy: It’s all a great, big cover-up.
(全部、でかい隠蔽工作さ)Friends Season2 Episode12(The One After the Superbowl (Part 1))
シーン解説と心理考察
バディは自分の語りに酔っています。犯罪映画の情報屋が使うような重々しい決まり文句を選び、声を落とし、間を置く。その一連の演出は、彼が明らかに何かの真似をしていることを示しています。
ところが、street と口にした瞬間、彼は現実に引き戻されます。自分が立っているのは裏路地ではなく、動物園の遊歩道です。そこで彼は言い直すのですが、この訂正が致命的でした。格好つけた文句を支えるはずの舞台が、作り物の道でしかないことを、彼自身が暴露してしまったからです。
ロスの Right という一言も見どころです。反論も同意もせず、ただ受け流す。この短い相槌が、バディの演出をさらに宙に浮かせています。表現の持つ格好よさと、それを口にする人物の滑稽さ。その落差が、この場面の笑いを支えていると言えます。
『フレンズ』流・覚え方のコツ
情報が、公式な建物の中ではなく、通りに落ちている場面を思い浮かべてみてください。新聞社のプレスリリースでも、企業の発表でもない。誰かが道端で口にした言葉が、通りを伝って歩いてくる。出所はわからないけれど、確かにそこにある。それが word on the street の姿です。
バディは、この言葉を口にした直後に、自分の立つ通りが作り物であることを認めてしまいました。裏社会の情報屋を気取った瞬間に、舞台が動物園の遊歩道だと露呈する。この落差ごと覚えておけば、word on the street が「もったいぶって切り出すための表現」であることが、身体に残ります。格好つけたいときに選ばれる言葉なのだと、バディが身をもって教えてくれています。
例文で覚える「word on the street」
word on the street は、噂話を切り出す前置きとして使われます。真偽をぼかしたまま情報を伝えられるのが、この表現の便利なところです。3つの例文で確かめていきましょう。
Word on the street is they’re shutting down the whole department.
(噂じゃ、あの部署ごと閉鎖されるらしい)
同僚と給湯室で言葉を交わしている場面です。is のあとの that はほぼ省略され、話し言葉ではこの形が定型になります。
I don’t put much stock in the word on the street.
(巷の噂は、あまり真に受けないことにしている)
噂話に距離を置く姿勢を示す場面です。the をつけて名詞句として扱うと、「噂というもの」全般を指せるようになります。
A: What’s the word on the street about the merger?
B: Nothing solid. Just people guessing.
(A:合併について、巷ではどう言われてる?)
(B:確かな話は何も。みんな憶測してるだけだよ)
業界の知り合いに探りを入れる場面です。疑問文にすると、情報を伝える側ではなく求める側の表現に変わります。
あわせて覚えたい関連表現
rumor has it
(噂によれば)
word on the street より中立的で、書き言葉でも違和感なく使えます。word on the street が裏の情報網を思わせる響きを残すのに対し、こちらは情報源を問わず「噂がある」という事実だけを淡々と述べます。
hear through the grapevine
(人づてに聞く)
grapevine(ぶどうの蔓)は、口づてに広がる情報網を指します。word on the street が「街全体に流れている話」であるのに対し、こちらは「知人を経由して自分に届いた話」で、伝達経路がより個人的になります。
buzz
(話題、評判)
真偽よりも「盛り上がっている」ことに焦点があります。新作映画や新商品への期待感を語る場面で使われ、word on the street が持つ非公式で秘密めいた含みは、ここにはほとんどありません。
Note|噂を伝える4つの言い方、どこが違うのか
バディは word on the street を選びました。同じ「噂によれば」を伝える表現は他にもあるのに、なぜこの一つだったのでしょうか。答えは、それぞれの表現が話し手をどこに立たせるかにあります。
rumor has it は、最も中立的な言い回しです。主語が rumor(噂)そのものであり、話し手は伝達者の位置に退きます。情報源にも真偽にも関与しない姿勢が構文に表れているため、報道記事や書き言葉でも使われます。距離は遠く、責任は軽い。
hear through the grapevine は、経路を個人化します。grapevine は南北戦争期の電信線の俗称に由来するとも言われ、いずれにせよ「口づての網」を指します。この表現を選ぶ話し手は、自分がその網のどこかに接続していることを暗に示します。誰から聞いたかは言わないが、確かに人づてに届いた。距離は近く、含みが生まれます。
buzz は、真偽の軸から完全に降ります。焦点は情報の内容ではなく、周囲がどれだけ沸いているかです。話し手は観測者として熱量を報告しており、その話が本当かどうかを問われても答える構えを持ちません。
そして word on the street は、話し手を「通り」に立たせます。情報源は明かさないが、自分はその流れに触れている。この立ち位置は rumor has it より近く、grapevine より公的で、buzz より内容に踏み込みます。だからこそ、どこか通ぶった響きが生まれます。バディがこの一語を選んだのは、動物園の清掃係でありながら、街の情報網に通じた者として振る舞いたかったからでしょう。
言葉の選択は、話し手が立ちたい場所の選択でもあります。
まとめ|バディが「通り」に立ちたかったわけ
word on the street は、単に噂を伝える表現ではありません。話し手を情報の流れの中に位置づけ、内情に通じた者として振る舞わせる言葉です。同じ噂を伝えるにしても、rumor has it を選べば距離が生まれ、この表現を選べば近さが生まれます。
使い分けを意識できるようになると、噂話ひとつを口にするときにも、自分がどこに立つかを選べるようになります。責任を軽くしたいのか、内情に通じた顔をしたいのか。表現がその態度を運びます。
作り物の遊歩道の上で、それでも街の情報屋であろうとしたバディの姿を思い出しながら、word on the street を表現の引き出しに加えてみてください。


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