海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
上司が朝いちばんに「新しい線が出た」と告げ、部下が真っ先に「根拠は?」と返す。そんな短いやり取りから一日が動き出す瞬間が、刑事ドラマにはよくあります。
その「根拠は?」にあたる「have something to go on」を、『メンタリスト』シーズン5第16話の中盤、リズボンが朝のオフィスでチームに新しい方針を伝えるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「have something to go on」の意味とニュアンス
have something to go on
意味:判断や行動の手がかり・根拠がある
go on はここでは「進む」ではなく「〜に基づいて動く」という使い方です。何かの上に足を乗せて先へ進む、という感覚があり、その足場になるものが手がかりや根拠にあたります。
実際の会話では、否定形や疑問形で使われることが多い表現です。We don’t have much to go on.(手がかりがほとんどない)、What do we have to go on?(何を根拠に動くのか)といった形で、材料が足りない状況を確認するときに登場します。
something の部分は入れ替えが利きます。much、anything、enough、nothing を置けば、手がかりの量をそのまま言い分けられます。捜査や調査の場面に限らず、企画の判断材料、診断の裏づけ、人物評価の根拠など、「これだけで動いていいのか」を問う場面に広く使えます。
【ここがポイント!】
- 核は「先へ進むために足を乗せる足場」というイメージ
- 否定形・疑問形で使われることが多く、材料不足を確認する一言
- something を much / anything / nothing に替えると、手がかりの量まで言い分けられるのがコツ
『メンタリスト』S05E16のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
捜査は行き詰まっていましたが、ジェーンが独自に動いて得た情報から、被害者と別の事件とのつながりが浮かびます。翌朝、リズボンはその線をチームに下ろすものの、情報源については触れません。淡々と指示が出たところで、チョウが短く根拠を確かめます。
Cho: Morning, boss.
(おはようございます、ボス)Lisbon: Whatever you’re doing, stop. We have a lead. Julia Howard may have been involved in Miranda Roman’s death.
(今やってること、いったん止めて。手がかりが出たわ。ジュリア・ハワードがミランダ・ローマンの死に関わっていたかもしれない)Cho: What do we have to go on?
(根拠は何ですか)Lisbon: It looks like Miranda stayed at Julia’s shelter. Find out what was going on there.
(ミランダはジュリアのシェルターに滞在していたらしいの。そこで何があったのか調べて)The Mentalist Season5 Episode16 (There Will Be Blood)
シーン解説と心理考察
チョウの返しは短い一文です。挨拶のあと、上司の指示に対して最初に置かれたのが確認の言葉でした。命令を拒むわけでも理由を問い詰めるわけでもなく、動く前に足場の有無だけを確かめる。無駄をそぎ落とした彼の話し方が表れています。
一方のリズボンは、情報源には触れません。答えているのは「何が分かっているか」だけで、「どこから得たか」は落とされています。答えの形は整っているのに、抜けている部分がある。その不均衡が会話の温度を変えています。
このエピソードのリズボンは、上層部にも部下にも言えないものを抱えたまま指揮を執っています。to go on という短い問いは、彼女がいちばん答えにくい部分に、意図せず近づいた一言だったとも読み取れます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
「have something to go on」は、霧の中に置かれた飛び石をイメージすると覚えやすい表現です。
向こう岸は見えません。それでも足元に石がひとつあれば、そこへ体重を移して次の一歩が踏める。石がなければ、動きたくても動けない。go on は、その石の上を進んでいく動作そのものです。
会議で「根拠は?」と聞くのは、次の石があるかを確かめる行為にほかなりません。石の数が多い、少ない、ひとつもない。その量の違いが、そのまま much / little / nothing の使い分けになります。足の裏の感覚ごと覚えておくと、否定形で使われやすい理由も自然につながります。
例文で覚える「have something to go on」
材料が足りない、という状況はどんな仕事にも訪れます。3つの場面で見ていきましょう。
We don’t have much to go on at this point.
(現時点では、手がかりがほとんどありません。)
調査の進捗を共有する場面です。much を使うことで、まったくないわけではないが不十分だ、という微妙な量感を伝えられます。
That’s not enough to go on.
(それだけでは根拠として足りません。)
提案を保留するときの一言。短く言い切る形なので、否定というより判断材料の追加を求める合図になります。
A: Do you think she’s the right person for the job?
B: Honestly, we only met once. I don’t have much to go on.
(A:彼女、この仕事に向いていると思う?)
(B:正直、一度会っただけなので。判断する材料があまりないんです。)
人物評価を求められた場面です。断定を避けたいときに、材料不足を理由として示せる便利な返し方になります。
あわせて覚えたい関連表現
a lead
(手がかり、有力な糸口)
シーンの中でリズボンが使っていた語です。go on が「材料があるか」を問うのに対し、lead は「次にたどるべき線」そのものを指します。
evidence
(証拠)
法的・客観的な裏づけを指す固い語です。go on が主観的な判断材料まで含むのに対し、evidence は提出できるものに限られます。
a hunch
(勘、直感)
根拠が言葉にできない状態を表します。I don’t have much to go on, just a hunch. のように並べると、材料の乏しさと直感の対比がはっきりします。
Note|刑事ドラマが繰り返し使ってきた「根拠はあるのか」
have something to go on は日常会話にも出てきますが、頻度がとりわけ高いのが捜査もののフィクションです。この表現が定番になった背景には、ジャンルそのものの構造があります。
刑事ドラマや推理小説は、「まだ分からない」状態をどれだけ持ちこたえられるかで成立します。すべてが分かってしまえば話は終わる。だから作品は、手がかりが足りない場面を意図的に長く置きます。そこで必要になるのが、材料の量を測る言い方です。
英米の犯罪小説では、19世紀後半から、探偵役が「まだ判断できない」と言い渡す場面が繰り返し描かれてきました。シャーロック・ホームズものにも、データが揃う前に理論を立てることを戒める場面が置かれています。20世紀後半のテレビの警察ものになると、この機能は上司と部下のやり取りへ移ります。上司が方針を示し、部下が What do we have to go on? と確かめる。視聴者はこの短い往復だけで、いま物語がどこまで進んだかを把握できます。説明的なナレーションを使わずに進捗を示せる、経済的な装置と言えます。
このエピソードのチョウの一言も、まさにその役割を果たしています。視聴者は短い質問ひとつで、チームがまだ確証を持たないまま動き出したことを理解します。意味を覚えるだけでなく、なぜここに置かれるのかまで分かると、聞き取りの手がかりも増えていきます。
分からなさを支えるための言葉が、ジャンルの定番になったようです。
まとめ|動き出す前に、足場を確かめる一言
「have something to go on」は、判断や行動の足場があるかどうかを問う表現です。根拠の有無だけでなく、much や enough を入れ替えることで、その量まで一言で言い分けられます。
この形を持っておくと、情報が足りない場面でも会話が止まりません。「分かりません」で終わらせる代わりに、判断する材料が足りないと伝えられる。相手に何を追加すべきかまで示せる返し方です。
急かされたときも、確証がないときも、まず足場の有無を確かめてから動く。そんな一言です。


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