海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
追い詰められているはずの相手が、妙に落ち着いている。そんな瞬間が、ドラマにはときどきあります。まだ見せていない手が残っているのだろう、と観ている側にも伝わってくる、あの間です。
その感覚を言葉にできるのが「have something up one’s sleeve」です。『メンタリスト』シーズン3第19話の後半、ジェーンが婚活サービスのスタジオを再訪し、今度は経営者エリカをカメラの前に座らせる場面から、一緒に見ていきましょう。
「have something up one’s sleeve」の意味とニュアンス
have something up one’s sleeve
意味:切り札を隠し持っている、まだ見せていない手がある
袖の中に何かを持っている、という直訳のとおり、相手に見せていない備えや計画があることを表します。
注目したいのは、この表現が必ずしも悪い意味ではないところです。企みを疑う場面でも使えますし、頼もしさを表す場面でも使えます。どちらに転ぶかを決めるのは語そのものではなく、話し手と相手の関係です。味方に向ければ「まだ手がある」という安心になり、警戒している相手に向ければ「何か企んでいる」という牽制になります。
something の部分は入れ替えが利きます。a trick、an idea、a plan などを置けば中身が具体的になり、a few tricks と複数にすれば余裕が増します。疑問文にした What have you got up your sleeve? は、相手の余裕の理由を尋ねる決まり文句として、そのまま覚えておくと便利です。
【ここがポイント!】
- 核は「両手を広げてみせた直後、袖口からカードが出る」瞬間
- 企みにも頼もしさにも転ぶ、関係性で色が変わる表現
- 中身を something のままにしておくと、正体不明の余裕そのものを指せるのがコツ
『メンタリスト』S03E19のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
ジェーンが婚活サービス「シンフォニー」を再訪した場面です。エリカのアリバイとして使われているDVDに、彼はかすかな不審音を見つけていました。その正体を確かめるため、今度は立場を入れ替えて、彼女をカメラの前に座らせようとします。エリカは断らず、むしろ自分から仕掛けの中身を尋ねます。
Erica: You want to interview me? Why?
(私にインタビュー? なぜ。)Jane: Like I said, I have a theory. You scared?
(言ったろ、仮説があるんだ。怖い?)Erica: No. It might be good for me to experience what my clients go through. You can ask questions from in there, yes?
(いいえ。顧客が受けているものを体験するのもいいかもしれない。そこから質問できるのよね?)Jane: Yes.
(ああ。)Erica: Thank you. What have you got up your sleeve?
(ありがとう。何を隠し持っているの?)Jane: Patience.
(まあ待って。)The Mentalist Season3 Episode19(綺麗なバラにはトゲがある)
シーン解説と心理考察
人の心を読むことを職業にしてきた二人が、互いに手札を伏せたまま向き合っています。エリカは縁結びの面談で、ジェーンはかつて偽霊能者兼ステージ・メンタリストとして、それぞれ相手の内側を言い当ててきた人物です。
だからこの質問は、単なる警戒ではありません。断ることもできる場面で、彼女はあえて椅子に座り、そのうえで「何を隠し持っているの」と尋ねる。読まれる側に回ってなお余裕を見せることで、主導権をこちらに引き寄せようとする意図が表れています。
対するジェーンの答えは「まあ待って」の一言だけ。中身をいっさい明かさないこの返しが、袖の中に確かに何かがある、という空気を作ります。言葉数の少なさが、そのまま緊張として響く場面です。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
手品師が観客に向かって、両手をゆっくり広げてみせる。手のひらには何もない。それを確かめさせたうえで、次の瞬間、袖口からカードが現れる。
覚えておきたいのは、「何もないように見せている場所こそが仕掛けの置き場だ」という一点です。袖は隠し場所として選ばれているからこそ、そこに手が伸びる。
このシーンの面白さは、その言葉を向けられているのが、元・偽霊能者でステージ・メンタリストだったジェーンだという点にあります。仕掛けを隠していそうな人物が、それを問われている。フレーズと人物が正面から噛み合う場面です。
例文で覚える「have something up one’s sleeve」
企みを疑うときにも、味方を励ますときにも使えます。三つの向きで見てみましょう。
She’s smiling too much. I bet she has something up her sleeve.
(やけに機嫌がいいな。絶対に何か隠してるよ。)
相手の余裕が引っかかっている場面です。I bet と組み合わせると、確信に近い推測をカジュアルに口にできます。
He kept the strongest evidence up his sleeve until the final hearing.
(彼は最も強い証拠を最終審まで伏せていた。)
交渉や訴訟の経過を説明する、かたい場面です。keep … up one’s sleeve の形にすると「意図的に伏せておく」という戦略性が前に出ます。
A: We’ve tried everything. I don’t see a way out of this.
B: Don’t give up yet — the team still has a few tricks up their sleeve.
(A:全部試したよ。もう抜け道が見えない。)
(B:まだあきらめないで。チームにはまだ手がいくつか残ってる。)
劣勢の局面で味方を励ます使い方です。a few tricks と複数にすることで、余裕と頼もしさが伝わります。
あわせて覚えたい関連表現
an ace up one’s sleeve
(とっておきの切り札)
トランプのエースを具体的に指すため、切り札の強さが明示されます。中身を伏せたまま余裕だけを示す something 型とは、見せている情報量が違います。
a hidden agenda
(隠された意図)
表向きの目的とは別の狙いがあることを指し、否定的な含みが強い語です。好意的な文脈でも使える up one’s sleeve とは、評価の向きがはっきり分かれます。
keep something in reserve
(予備として取っておく)
比喩性が薄く、実務的な言い方です。隠して駆け引きするという要素はなく、単に温存していることを伝えたい場面で使い分けられます。
Note|袖の中身が「エース」になるまで
なぜ隠し場所が、ポケットでも帽子でもなく袖なのか。この表現の背景には、衣服の形と賭博の歴史が重なっています。
中世からルネサンス期にかけての衣服は、いまよりずっと袖にゆとりがありました。ポケットが服に縫い付けられるようになる前の時代、袖はちょっとした小物を入れておく実用的な収納として使われていたと言われます。つまり最初の段階では、袖に何かがあること自体は、うしろ暗さとは無関係でした。それが変わるのは、カード賭博が広まってからです。テーブルの下ではなく袖口にカードを忍ばせるいかさまが知られるようになり、袖は「隠された有利」の置き場として意識されるようになります。この連想が定着した結果、something up one’s sleeve から、中身を明示する an ace up one’s sleeve や a card up one’s sleeve といった派生形が生まれました。
順序が面白いところです。まず「中身の分からない何か」があり、そのあとで「エース」という具体的な強さが後から入ってきた。だからいまでも、something 型のほうが守備範囲が広く、良い意味にも悪い意味にも転びます。中身を言わないぶん、評価も宙に浮いたままにできるわけです。
エリカが選んだのも、この宙に浮いたままの形でした。何を持っているのかを決めつけず、持っていること自体だけを指摘しています。
見えない中身は、疑いにも期待にもなるということです。
まとめ|まだ見せていない手が、そこにある
have something up one’s sleeve は、相手に見せていない備えや計画があることを指す表現でした。企みにも頼もしさにも転ぶ懐の広さがあり、中身を something のままにしておけるところが、この言い回しの強みです。
この表現が使えるようになると、相手の余裕を言葉にできるようになります。「何か企んでいる」と決めつけるのでもなく、「まだ手がある」と楽観するのでもなく、その中間の空気をそのまま伝えられる。会話に含みを持たせたい場面で、静かに効いてきます。
読み合う二人のあいだで、袖口だけがわずかに揺れて見えた瞬間でした。


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