海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
言うべきか、黙っておくか。相手の振る舞いを前にして数秒だけ迷い、結局今回は何も言わずにおく。そういう小さな判断が、ドラマの会話には頻繁に出てきます。
その判断を一言で表す「let something slide」を、『メンタリスト』シーズン4第22話から、チョウが路上で売人を締め上げるシーンを通して、一緒に見ていきましょう。
「let something slide」の意味とニュアンス
let something slide
意味:見逃す / 大目に見る / あえて手を出さずに放っておく
let は「そのままにさせる」、slide は「滑っていく」。合わせると、目の前を通り過ぎるものを止めずに行かせる、という絵になります。
ここに許すという温かさは含まれていません。相手の行いを認めたわけでも、水に流したわけでもなく、今回は取り上げないと決めただけ。判断の中身は「手を出さない」という一点に尽きます。
そのため、この表現は二つの方向に転びます。一つは寛容な側で、部下の小さな遅刻を今回は指摘しないというような使い方。もう一つは怠慢な側で、やるべき対応を先送りし続けて事態が悪化する、という使い方です。どちらに読むかは前後の文脈で決まります。
否定形にすると、性格が一気に変わります。I’m not gonna let that slide. と言えば、これは見過ごせないという強い宣言になり、報復や追及の予告として機能します。
【ここがポイント!】
- 目の前を通り過ぎるものを、止めずに行かせるという絵が核
- 許すのではなく「今回は取り上げない」という判断を指す一言
- 否定形にすると「見過ごさない」という強い宣言に変わるのが読みどころ
『メンタリスト』S04E22のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
チョウは、情報提供者として付き合っているサマーが暴行を受けたことを知ります。彼女は通りすがりの誰かに絡まれただけだと説明しましたが、チョウは納得しません。相手を突き止め、路上で壁に押しつけて問い詰めます。返ってきたのは、想定とは違う答えでした。なお、この場面の途中には粗い言い回しを含むやり取りがあり、以下では発言の順を保ったまま一部を省いています。
Tookie: What the hell’s up, yo?
(何なんだよ、いったい)Cho: Summer Edgecombe. Tell me what happened.
(サマー・エッジコムだ。何があったか話せ)Tookie: She stole my product, man– like, 6 grams. She won’t give it back. Like I’m an idiot? Come on, man. I’m not gonna let that slide. I got a reputation, all right?
(あの子がブツを盗んだんだよ、6グラムも。返しもしない。俺を馬鹿にしてるのか。なあ、見逃すわけにいかないだろ。こっちにも面子があるんだ)Cho: Stay away from her.
(彼女に近づくな)The Mentalist Season4 Episode22(So Long, and Thanks for All the Red Snapper)
シーン解説と心理考察
売人の言い分が、報復を私的な感情としてではなく商売上の必要として語られているところに、この場面の緊張があります。腹が立ったからではなく、見逃せば示しがつかないから手を出した。I got a reputation という一言が、その理屈を支えています。
対するチョウの応答は四語だけです。反論も説教もせず、要求だけを置いて終える。感情を交えずに淡々と話すこの人物の特徴が、そのまま短い一文として響きます。
構図として面白いのは、二人がまったく同じ論理の上に立っていることです。売人は自分の面子のために見逃さないと言い、チョウはサマーのために引かない。どちらも「今回は流す」という選択肢を最初から捨てている。let that slide という言葉が否定形で置かれることで、その捨てられた選択肢の存在が会話の中に浮かび上がってきます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
机の端に向かって、書類が一枚すべっていく場面を思い浮かべてください。手を伸ばして押さえるか、そのまま行かせるか。選べるのはその二つだけです。let it slide は、後者を選ぶという判断を指しています。
大事なのは、行かせたからといって書類が消えるわけではないという点です。床に落ちたまま、そこに残ります。だからこの表現は許すことにはならず、単に手を出さなかったという事実だけが残る。放置の意味にも転ぶ理由が、この絵で説明できます。
路上で売人が「見逃すわけにいかない」と言い切った場面を思い出せば、否定形にしたときの強さもあわせて記憶に残ります。
例文で覚える「let something slide」
指摘するかしないかを決める場面で顔を出します。3つの例文で、寛容にも怠慢にも転ぶ幅を見ていきましょう。
He was late again, but I decided to let it slide this time.
(彼はまた遅刻したが、今回は見逃すことにした)
職場で小さな違反をどう扱うか決める場面です。this time を添えると、いつもは見逃していないという含みまで伝わります。
I let a lot of things slide while I was busy with work.
(仕事に追われているあいだ、いろいろなことを放りっぱなしにしていた)
家事や手続きが滞っていたと打ち明ける場面です。目的語を things にすると、寛容ではなく放置の意味に振れます。
A: Are you going to say something about that comment?
B: I can’t let it slide. Someone has to push back.
(A:さっきの発言、何か言うつもり?)
(B:見過ごすわけにはいかない。誰かが異を唱えないと)
不適切な発言への対応を相談する場面です。否定形で受けると、そのまま行動の宣言になります。
あわせて覚えたい関連表現
let it go
(手放す、こだわるのをやめる)
自分の中の怒りや未練を手放す言い方です。相手の行為を取り上げないという判断を指す let it slide とは、向いている先が自分か相手かで分かれます。
turn a blind eye
(見て見ぬふりをする)
片目を閉じて見えないことにする絵で、不正だと分かったうえで意図的に見ないという含みがあります。let it slide より非難の色がはっきりと濃くなります。
overlook
(見落とす、大目に見る)
一語で書き言葉にもなじむ動詞です。うっかり見落とす意味も持つため、意図的な判断に限られる let it slide とは重なりきりません。
Note|見逃し方を四つに分ける
何かを咎めずに済ませる。日本語ではひとまとめに「見逃す」と言えてしまう場面が、英語では複数の言い方に分かれています。
軸は二つあります。一つは、見ているのが相手の行為なのか、自分の感情なのか。もう一つは、その処理が意図的なのかどうかです。
let it slide は、相手の行為を意図的に取り上げない判断です。遅刻を指摘しない、失言に触れない。行為は認識していて、対応しないと決めている。let it go はこの軸の反対側にあり、扱っているのは自分の内側です。腹立ちや未練を手放すという話なので、相手が何をしたかは必ずしも問題になりません。
turn a blind eye は、相手の行為を見る点では let it slide と同じですが、対象が不正や違反に寄ります。見えていないふりをするという言い方自体に、本当は見えているという前提が組み込まれているため、責任を問う文脈で使われやすくなります。overlook はやや性格が違い、意図せず見落とした場合にも使えます。そのぶん、書類の不備を見落とすといった事務的な場面まで守備範囲が広がります。
この四つを並べると、今回のシーンで売人がなぜ let that slide を選んだのかも見えてきます。彼が言っているのは、相手の行為を認識したうえで対応しないという選択肢を取らない、ということです。自分の感情を手放すかどうかでも、不正を見ないふりをするかどうかでもありません。
同じ「見逃す」でも、どこを見ている言葉なのかで、選ぶ表現が決まってきます。
まとめ|止めるか、行かせるか
let something slide は、目の前を通り過ぎるものを止めずに行かせるという判断を表す表現です。許すのでも忘れるのでもなく、今回は取り上げないと決めただけ。その一点に絞られているからこそ、寛容にも怠慢にも読める幅を持っています。
職場で小さな違反をどう扱うか迷ったとき、家のことを後回しにしていたと振り返るとき、そして見過ごせないと宣言するとき。肯定形と否定形の両方を持っておくと、使える場面が一気に広がります。
言うか言わないかを決めたその瞬間を、そのまま切り取れる一言です。


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