海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
大きな手術や事故を乗り越えた人に会ったとき、「よかった」だけでは足りない気がして、言葉を探した経験はありませんか。無事だったという事実と、危なかった時間の両方を伝えたくなる場面です。
そんな場面で使われる「pull through」を、『メンタリスト』シーズン4第10話の序盤、前夜に襲われて意識を失っていたジェーンが職場に戻り、チームに迎えられるシーンから、一緒に見ていきましょう。
「pull through」の意味とニュアンス
pull through
意味:危機を切り抜ける、持ち直す
pull through は、病気やけが、経営難のように悪い状態がしばらく続いたあとで、なんとかそこから抜け出すことを表します。pull は引く、through は通り抜ける。二語を合わせると、暗いトンネルの中を引っ張られながら向こう側へ出ていく絵になります。
この表現には、結果が危ぶまれていたという前提が含まれます。だから一日で治る不調にはあまり使われず、周囲が息をひそめて見守っていたような状況で選ばれます。手術後の経過、事故からの生還、倒産寸前だった会社の立て直しなど、生き死にや存続がかかった話題と相性のよい言葉です。
主語は人に限りません。会社やプロジェクトなど、続くかどうかが危ぶまれたものにも広く使われます。目的語を取って pull through a crisis のように言えば「〜を切り抜ける」となり、通り抜けた対象がはっきりします。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは「引かれて向こう側へ抜ける」動き、自力だけでなく周囲の支えも含む一言
- 危ぶまれていた状態が前提にあるので、軽い不調に使うと大げさに響く
- 人にも会社にも使えて、目的語を取れば「〜を切り抜ける」になるのが便利なところ
『メンタリスト』S04E10のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
前の晩、捜査中のジェーンは何者かに襲われ、水中に押さえつけられて一時は呼吸が止まっていました。翌日、彼は記憶を失ったままCBIのオフィスに現れます。医師の助言に従い、チームは普段どおりに振る舞おうとしますが、当のジェーンは目の前の同僚が誰なのかも思い出せません。安否を気づかう言葉が、どんなふうに宙に浮くのかが見どころです。
Jane: Okay, I vote we skip the awkward introductions because you all know me, and in one sweeping glance, I know as much about each of you as the day I forgot you.
(ぎこちない自己紹介は省こう。みんな僕を知っているし、僕もひと目見れば、忘れた日と同じくらいには君たちのことがわかる。)Lisbon: You gave us a scare yesterday.
(昨日は肝を冷やしたわ。)Rigsby: Well, we’re just glad you pulled through.
(とにかく、無事に持ち直してくれてよかったですよ。)Jane: Thanks, Bigsby.
(ありがとう、ビグスビー。)The Mentalist Season4 Episode10 (赤のフーガ)
シーン解説と心理考察
pulled through と過去形で言われているとおり、この一言は結果が確定したあとの安堵から出ています。前夜のジェーンは心肺停止と判断され、蘇生処置を受けていました。生きて歩いてきた姿を見て、ようやく口にできた言葉だと言えます。
ところが返ってきたのは、同僚の名前を取り違えた礼でした。気づかいの温度と、受け取る側の他人行儀な軽さがまるで噛み合っていません。この落差が会話の温度を変えています。
冒頭でジェーンが自己紹介を省こうと言い出すのも、実は覚えているからではなく、覚えていない状態を悟らせないための先回りです。相手の出方を封じてから話を進める癖だけは、記憶を失っても残っている。人柄は消えず、関係の記憶だけが抜け落ちているという構図が、この短いやり取りに重なっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
pull through は、誰かがロープの端を握って、こちらを手前へ引き寄せてくれている絵で覚えられます。自分の足だけで歩き切るのではなく、引かれて抜ける。そこにこの表現の手触りがあります。
このシーンのジェーンは、文字どおり水中から引き上げられた人物です。翌日には平然と歩いてオフィスに現れ、同僚の名前を間違えてみせる。水面下から引き上げられた体と、pull という動詞の動きがそのまま重なります。
引かれる先には、待っている人がいる。心配していた同僚の顔まで含めて思い浮かべておくと、この二語が「無事でよかった」の言葉として引き出しやすくなります。
例文で覚える「pull through」
危機を抜けたという知らせにも、支えてくれた相手への礼にも使えるのが pull through です。場面の違う三つの例文で、その幅を見てみましょう。
The surgery was risky, but she pulled through.
(手術は危険を伴いましたが、彼女は持ちこたえました。)
入院した家族の経過を、友人に報告するときの言い方です。but と組み合わせると、危うかった時間があったことまで伝わります。
The company pulled through the recession by cutting costs.
(その会社はコスト削減で不況を乗り切りました。)
企業の再建事例を説明する場面で使えます。目的語を取ると「〜を切り抜ける」となり、人以外にも自然に広がります。
A: How’s your dad doing after the accident?
B: Much better, thanks. The doctors weren’t sure at first, but he pulled through.
(A:お父さん、事故のあとどう?)
(B:だいぶいいよ、ありがとう。最初は医師も断言しなかったけど、持ち直したんだ。)
親しい相手に近況を伝えるやり取りです。weren’t sure と並べることで、結果が危ぶまれていたという前提が言葉に乗ります。
あわせて覚えたい関連表現
make it
(生き延びる、間に合う)
生死の分かれ目そのものを指す言い方で、He didn’t make it. は亡くなったことを意味します。pull through が回復までの経過を含むのに対し、make it は結果の一点だけを言う表現です。
bounce back
(立ち直る、盛り返す)
ボールが跳ね返るように勢いを取り戻すことを表します。pull through が「抜け出した」ところまでなのに対し、bounce back は元気を取り戻した先まで含みます。
be out of the woods
(危険を脱する)
森を抜けたという絵で危機の終わりを表します。not out of the woods yet の形で「まだ油断できない」と使われることが多く、pull through とは反対に、途中経過を語るのに向いた表現です。
Note|「助かった」を語る三つの言葉
日本語では「助かった」の一語で済む場面でも、英語には語り分けがあります。pull through、make it、recover。この三語は、危機のどこを切り取っているかが違います。
make it が見ているのは結果の一点です。峠を越えられたかどうかだけを言うので、He didn’t make it. は死亡の婉曲表現として機能します。pull through が見ているのは経過で、悪い状態が続いた時間と、そこを抜けたという移動が含まれます。recover が見ているのは回復の中身で、失われた機能や体力が戻ったかどうかに焦点があります。だから同じ患者について、医師が He made it through the night.(夜を越えた)と言い、数日後に He’s pulling through.(持ち直しつつある)と言い、退院時に He has fully recovered.(完全に回復した)と言う、という順序が成り立ちます。三語は交換できる同義語ではなく、時間軸上の別の位置を指しているわけです。
このシーンで選ばれているのが pull through であることには意味があります。ジェーンは息を吹き返しましたが、記憶は戻っていません。結果だけを言う make it でも、回復を言う recover でもなく、通り抜けた最中を指す語が置かれている。
まだ途中である、という含みごと引き受ける一言です。
まとめ|記憶を失った男を迎えた朝
pull through は、危うかった時間を通り抜けたことを、経過ごと伝える表現です。結果を告げる make it とも、回復を語る recover とも違い、暗いところを抜けてきたという移動が言葉に残ります。
この一語があると、「無事でした」だけでは足りない場面に手が届きます。心配していたと伝えることと、もう大丈夫だと伝えることを、二語で同時にこなせるからです。
大切な人が山を越えたとき、あるいは危ぶまれた計画が続くと決まったとき。そんな知らせを届ける言葉として、表現の引き出しに加えてみてください。


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