海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
取調室で、男が何年も前の出来事を語りはじめます。机から落ちた封筒を拾えと言われた、ただそれだけの話。けれど彼は、そのときの言い方まで覚えていました。
そんな場面で登場するのが「pick on someone」で、~を目の敵にする、という意味です。『メンタリスト』シーズン1第16話の中盤、容疑者が被害者との確執を語る場面に出てきます。どのように使われているのか、一緒に見ていきましょう。
「pick on someone」の意味とニュアンス
pick on someone
意味:~を目の敵にする、~をいびる、~にばかりつらく当たる
pick の核にあるのは、たくさんの中から一つを選び取る動作です。果物を摘む、カードを引く、どれも同じ絵になります。その指が人に向けられたのが pick on someone です。
大切なのは、選ばれる理由に正当性がないという点です。そして、一度きりでは足りません。on には接触が続く感覚があり、指がその人の上に置かれたまま離れない状態を表します。だから繰り返しが前提になります。
使うのは、被害を受けている側か、それを見ている側です。Why are you picking on me? のように、標的にされた本人が抗議する形でよく登場します。
受動態にして be picked on とすると、いじめられていたという経験を語る言い方になります。過去を打ち明ける場面で使いやすい形です。
【ここがポイント!】
- 核は「大勢の中から一人を指さして選ぶ」動作
- on がつくことで、その指が離れない状態になる
- 選ばれる理由に正当性はない。標的にされた側が抗議に使うことが多い一言
『メンタリスト』S01E16のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
アリバイを証明できなかったテレンス・アンドリュースは、被害者メディナとの確執について語りはじめます。新人トレーダーだった彼は、メディナの甥が狙っていたポストに就いたことで目をつけられました。そして決定的な衝突は、床に落ちた一枚の封筒から起きます。
Lisbon: So what happened? Why did you and Medina fight in the first place?
(それで何があったの。そもそもなぜメディナと揉めたの)Andrews: I was a junior trader in the company’s program. And he had been picking on me for months. I took a job his nephew wanted. Anyway, an envelope falls off his desk. “Pick it up,” he said. Like that, “Pick it up.” I don’t think so. “Pick it up your own damn self,” I said. Big deal.
(俺は社の育成プログラムの新人トレーダーだった。あいつは何か月も俺をいびり続けてた。甥っ子が欲しがってたポストを俺が取ったからだ。とにかく、封筒があいつの机から落ちた。「拾え」だとさ。そんな調子で「拾え」って。冗談じゃない。「自分で拾えよ」って言ってやった。それだけの話だ)The Mentalist Season1 Episode16(Bloodshot)
シーン解説と心理考察
Big deal. 大したことじゃない、と彼は締めくくります。けれど、その直前まで語られていた内容がそれを裏切っています。何年も前に落ちた封筒の位置、命じられたときの言い方、自分が返した言葉。細部が残らず再現されているという事実そのものが、この出来事の大きさを物語っています。
pick on という表現の選び方も見逃せません。殴られたわけでも、罵倒されたわけでもない。ポストを奪ったという理由で、何か月も標的にされつづけた。その積み重ねを一語でまとめるのに、この表現はちょうど収まりがよくなっています。
同じ場面に pick が二度現れるのも印象的です。picking on me と、Pick it up。いびる側の態度と、屈服を求める命令。同じ動詞が両方を担っていて、封筒を拾えという一言が、それまでの数か月を凝縮した形になっています。だから彼は拾わなかった。封筒の話ではなかったからです。
語り終えたあとに残るのは、彼が今もこの一件を手放せていないという事実だけです。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
教室を見渡す指を思い浮かべてみましょう。大勢がいる中から、その指が一人を選んで止まります。選ばれた理由は本人にもわかりません。ただ、選ばれてしまった。
pick on someone は、この指の絵で覚えられます。pick は選び取る動作、on は接触したまま離れない状態。選んだ指がその人の上に置かれつづけている、という構図です。一度きりでは pick on にはなりません。指が離れないから、この表現になります。
劇中でアンドリュースを何か月も指さしつづけたのがメディナで、その指が最後に向かった先が、床の封筒でした。指と封筒を結びつけておくと、この表現が持つ継続の含みまで一緒に思い出せます。
例文で覚える「pick on someone」
いじめを止める場面、職場の状況を説明する場面、誤解を先回りして打ち消す場面。三つの例文で見ていきましょう。
Pick on someone your own size.
(自分と同じくらいの相手にしろよ)
弱い者いじめを止めに入る場面です。英語圏で広く定着した決まり文句で、この形のまま覚えて使えます。もとは体格差を指した言い方ですが、今は立場や力の差にも使われます。
The new supervisor picks on the junior staff for the smallest mistakes.
(新しい上司は、ごくささいなミスで若手をいびる)
職場の状況を第三者に説明する場面です。for のあとに、いびる口実を置いています。the smallest のように程度を極端まで振った語を添えると、理不尽さがはっきり伝わります。
A: You’re picking on me.
B: I’m not picking on you. I’d say the same thing to anyone on this team.
(A:私ばかり責めていますよね)
(B:きみを目の敵にしてるわけじゃない。このチームの誰にでも同じことを言うよ)
指摘が個人攻撃に受け取られた場面です。進行形にすると、今まさに標的にされているという感覚が出ます。否定形で返しながら理由を添えると、誤解を解く言い方になります。
あわせて覚えたい関連表現
bully
(いじめる)
今回の表現より深刻で、力関係を利用した継続的な加害を指します。名詞でいじめっ子そのものも表せます。学校や職場の問題を正面から扱う文脈では、こちらが選ばれます。
give someone a hard time
(~につらく当たる、~を困らせる)
意味は近いものの、悪意のない冗談やからかいにも使える軽さがあります。友人同士で She gave me a hard time about it. と言えば、笑い話の範囲にとどまります。
single someone out
(~を選び出す、~だけを取り上げる)
一人だけ選び出すという動作は共通ですが、こちらは褒める場合にも使える中立な言い方です。功績を挙げて名指しするときにも使えます。今回の表現は、常にマイナスの扱いを指します。
Note|「いじめる」では広すぎる pick on
日本語の「いじめる」は、からかいから深刻な加害まで幅広く受け止める言葉です。英語はそこをいくつかの語に分けて担わせています。
いちばん軽いのが tease で、からかう、冷やかすという程度にとどまります。親しい相手への軽口も含まれ、悪意がないことのほうが多い語です。次に来るのが pick on で、特定の一人を選んで、繰り返し不当に扱うこと。加害の意図ははっきりしていますが、暴力を伴うとは限りません。さらに重いのが bully で、力関係を背景にした継続的な加害を指します。学校や職場の問題として扱われるのは主にこの語です。そして harass になると、法的な責任を問われる領域に入ります。職場の場合は harassment という名詞で制度上の用語にもなっています。
劇中でアンドリュースが受けたのは、ポストを奪ったという理由で何か月も目をつけられ、人前で封筒を拾えと命じられることでした。暴力はありません。制度上の問題として扱われる性質のものでもありません。それでも、明確に標的にされている。ちょうど pick on の射程に収まる出来事です。
日本語に訳せば「いじめられていた」で済んでしまいますが、英語話者はこの語を選んだ時点で、事の重さをある程度指定していることになります。訴える側がどの語を使うかで、聞く側の身構え方も変わってくるわけです。
同じ出来事を語るのに、どの言葉を選ぶか。そこにも、その人の受け止め方が表れているのかもしれません。
まとめ|指がその人の上に置かれたまま
pick on someone は、大勢の中から特定の一人を選び、繰り返し不当に扱うことを指す表現でした。pick が選び取る動作、on が離れない接触。この二つが合わさって、継続的に標的にするという意味が生まれます。
弱い者いじめを止めるとき、職場の状況を説明するとき、あるいは自分の指摘が個人攻撃ではないと伝えるとき。tease より重く bully より軽いという位置を押さえておけば、選ぶ場面に迷いません。
何年も経ってなお、封筒が落ちた瞬間の言い方まで再現してしまう男。大したことじゃないと本人が言うほど、そうではなかったことが伝わってくる場面でした。


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