海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
追い詰められていたはずの人物が、急に懇願する側へ回る。その一瞬で立場が入れ替わるような場面が、ドラマには時々あります。
そんな緊迫したやり取りの中で使われる「keep one’s cards close」を、『メンタリスト』シーズン2第4話の中盤、取調室でリズボンがギャングのボスの人物像を言い表す場面から、一緒に見ていきましょう。
「keep one’s cards close」の意味とニュアンス
keep one’s cards close
意味:手の内を明かさない、考えを人に見せない
ポーカーで手札をのぞかれないよう、カードを胸元に引き寄せて持つ。その仕草から生まれた言い方です。完全な形は keep one’s cards close to one’s chest で、会話では後半を省いて短く使われることもよくあります。
指しているのは、情報を出さない姿勢そのものです。何を知っていて何を考えているのかが、周囲からは読み取れない。そういう人物を説明するときに選ばれます。ここで大事なのは、この表現が必ずしも悪口ではないという点です。交渉ごとで手札を伏せておくのは有効な戦い方でもあるため、慎重さへの評価として使われることもあります。文脈しだいで、不気味さにも賢さにも傾く中立的な言い方だと考えておくとよさそうです。
同じトランプ由来の表現には show one’s hand(手の内を明かす)があり、こちらは反対の動きを表します。二つを対にすると、伏せるか見せるかの選択として整理できます。
【ここがポイント!】
- カードを胸元に引き寄せる仕草がそのまま核になっている表現
- 悪口にも称賛にもなる、文脈しだいで表情の変わる中立的な一言
- show one’s hand と対にして「伏せる・見せる」で覚えるのがコツ
『メンタリスト』S02E04のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
殺された弁護士と関係を持っていた女性は、ギャングのボスの恋人でもありました。関係を認めた彼女が、ボスにだけは知られたくないと訴えます。それに対してCBI側は、すでに知られていて動機になった可能性を突きつけます。
Constance: You gotta promise that Von doesn’t find out about me and Gordon.
(お願い。わたしとゴードンのこと、ヴォンには知られないと約束して。)Lisbon: He keeps his cards close. He could already know– killed Hodge out of jealousy.
(あの男は手の内を明かさない。もう知っていて、嫉妬でホッジを殺したのかもしれない。)Constance: Trust me. If Von knew, Gordon’s wouldn’t be the only dead body. Only one other person knew. And that was bad enough.
(信じて。ヴォンが知っていたら、死体はゴードンひとりじゃ済まない。知っていたのはもうひとりだけ。それだけでも十分まずかった。)Lisbon: Who was that other person?
(そのもうひとりというのは。)The Mentalist Season2 Episode4 (Red Menace)
シーン解説と心理考察
手の内を明かさない、という評価は、この場面では二つの意味を持っています。ひとつはボスの人物像の説明。もうひとつは、捜査する側から見た厄介さです。表情にも発言にも真意が出ない相手には、心を読む手法が通じません。読めない相手であることが、そのまま容疑者としての不気味さに変わっています。
その指摘に対する彼女の返しも印象的です。知っていたなら死体はひとつでは済まない。この即答が、ボスがどういう人物かをボスの人物評よりも雄弁に語っています。恐怖の深さが、そのまま人物像の裏づけになっているわけです。
守ってほしいと頼んだ相手から、すでに知られている可能性を示される。逃げ場を塞がれた側が、それでも秘密を守ろうと言葉を重ねる。緊張が一段上がる場面と言えます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
ポーカーのテーブルで、カードを胸元まで引き寄せて持つ人を思い浮かべてみてください。腕で囲うようにして、隣からも正面からも見えない角度に手札を置く。close は「近い」ですから、カードと胸の距離がゼロに近いほど情報は漏れない、という絵になります。
このシーンで語られるのは、まさにその姿勢を崩さない人物でした。何を知っているのか最後まで読ませない。カードを伏せたまま表情も変えない相手を思い浮かべると、この表現の持つ静かな圧が記憶に残ります。
完全な形の to one’s chest(胸へ)まで一緒に覚えておくと、なぜ close なのかが絵と結びついて忘れにくくなります。
例文で覚える「keep one’s cards close」
この表現は、人物の性格を説明するときにも、方針を語るときにも使えます。三つの場面で確認してみましょう。
Our CEO keeps her cards close until the deal is signed.
(うちの社長は、契約が済むまで手の内を明かしません。)
経営陣の動き方を社内で話題にする場面です。until を続けると、いつまで伏せておくのかまで示せます。
In negotiations, it pays to keep your cards close.
(交渉では、手の内を伏せておくほうが得です。)
商談前の助言として使える一般論の形です。it pays to と組み合わせると、戦い方としての評価であることがはっきりします。
A: I can’t tell what he’s thinking in these meetings.
B: He’s not unfriendly. He just keeps his cards close.
(A:あの会議中、彼が何を考えてるのか読めないんです。)
(B:無愛想なわけじゃなくて、ただ手の内を見せない人なんですよ。)
誤解されがちな同僚をかばうやり取りです。否定と組みにすることで、性格ではなく方針の問題だと説明できます。
あわせて覚えたい関連表現
show one’s hand
(手の内を明かす)
反対の動きを表します。意図せず本音が出てしまった場合にも使えるため、伏せる側の keep one’s cards close と対にすると整理しやすくなります。
play one’s cards right
(うまく立ち回る)
同じトランプ由来ですが、こちらは隠すことではなく手札の切り方の巧みさを指します。慎重さではなく判断力が話題になる点が違います。
keep something under wraps
(公にしないでおく)
人の性格ではなく、計画や新製品など特定の情報を伏せることを指します。対象が物事に限られる点で使い分けられます。
Note|chest と vest、二つに分かれた言い方
この表現には、よく似た二つの形があります。keep one’s cards close to one’s chest と、keep one’s cards close to the vest です。
前者はイギリス英語で、後者はアメリカ英語で多く使われるとされています。指している動作は同じで、手札を体に引き寄せて隠す仕草です。それを胸(chest)という体の部位で言い表すか、ベスト(vest)という衣服で言い表すかの違いになります。ベストの内側にカードを差し込む絵を思い浮かべると、アメリカ側の言い方には隠し場所そのものが含まれていることが分かります。西部劇に出てくる賭博師の装いを思い出すと、なぜ衣服の名前が選ばれたのかも想像がつきます。実際の会話では close to the vest の形もよく耳にしますし、今回のシーンのように後半を省いた短い形も使われます。三つとも意味は同じなので、聞いたときに同じ表現だと気づけるようにしておくと安心です。
英語には、同じ発想から出発しながらイギリスとアメリカで別々の形に落ち着いた表現がいくつもあります。この言い回しもそのひとつで、どちらを使っても通じますが、耳にした側の形をそのまま返すと会話がなめらかになります。
覚えるべきは単語ではなく、カードを引き寄せる手の動きのほうです。
まとめ|手の内を伏せるという選択
keep one’s cards close は、情報を出さない姿勢を、たった一枚のカードの角度で言い表す表現です。悪意を含むとは限らず、慎重さとして評価される場合もあります。
この表現を持っておくと、読めない相手を説明するときに、感情的な断定を避けられます。あの人は何を考えているか分からない、と言うより、手の内を明かさない人だ、と言うほうが、評価ではなく観察として伝わります。交渉や人事の話題でも、そのまま使える言い方です。
読めない相手を落ち着いて描写する言葉として、会話のレパートリーに加えてみてください。


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