海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
納得はしていないけれど、もう争っても仕方がない。そう思い定めて、変えられないものを自分の側に引き受ける。そんな瞬間があります。
そのときの心の動きを表すのが「make one’s peace with」です。折り合いをつける、という意味で使われます。『メンタリスト』シーズン4第13話の前半、被害者のロフトで若い助手たちが亡くなった雇い主の人柄を語るシーンから、一緒に見ていきましょう。
「make one’s peace with」の意味とニュアンス
make one’s peace with
意味:〜と折り合いをつける、受け入れて心の整理をつける
peace は「平和」を表す語ですが、この表現でつくられる平和は、相手との間にではなく話し手の内側に置かれます。one’s が入ることで、平和をつくる場所が自分の側へ移る、と考えると輪郭がつかめます。
相手を許したわけでも、評価を変えたわけでもありません。変えられない事実として引き受け、心の中で続いていた争いだけを終わらせる。この「消していないのに終わっている」感じが、この表現の中心にあります。
対象になるのは、過去の失敗、失ったもの、自分では動かせない決定など、抵抗しても変わらないものが中心です。ただし with の後ろに人が来ると、意味は「その人と和解する」寄りに振れます。同じ形で内面の整理と対人の和解の両方を担うため、後ろに何が来るかで読み分けます。
【ここがポイント!】
- 平和をつくる場所が、相手との間ではなく自分の内側にあるのが核
- 許したのではなく、変えられないものとして引き受けたという含みが乗る一言
- with の後ろが人か事柄かで、和解寄りか内面の整理寄りかを見分けるのがコツ
『メンタリスト』S04E13のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
被害者のロフトで、彼の下で働いていた若い助手たちに話を聞く場面です。被害者はかつて業界に潰され、表舞台から姿を消していた人物でした。復帰作の発表には業界の人間が集まる予定だったと聞き、リズボンはわだかまりがなかったのかと探りを入れます。返ってきた答えの中に、このフレーズが置かれています。
Assistant: Everyone in the fashion world was coming out for it.
(ファッション業界の全員が、その発表に来る予定でした)Lisbon: And Theissens was okay with that? He didn’t have any bad feelings?
(タイセンスはそれでよかったの? わだかまりはなかった?)Assistant: He made his peace with the business aspects, you know? Said it was a necessary evil. Said if you wanna get your vision to the world, you gotta work with the devil.
(ビジネスの部分とは折り合いをつけてました。必要悪だって。自分の作品を世に出したいなら、悪魔とも組むしかないって言ってましたよ)The Mentalist Season4 Episode13(Red Is The New Black)
シーン解説と心理考察
助手の答えは、リズボンの問いに正面から「はい」とも「いいえ」とも答えていません。わだかまりはあった、けれど受け入れた。その二つを一つの言い方に畳んでいるのが made his peace with です。
続く「必要悪」という言葉が、その折り合いの中身を裏づけています。良いものとして認めたのではなく、避けて通れないものとして脇に置いた。評価と行動を切り離す判断がにじむ場面です。
さらに「悪魔とも組むしかない」という言い方まで並ぶことで、被害者が抱えていた葛藤の大きさが浮かび上がります。折り合いをつけたという一言の裏に、つけるまでの時間があったことが伝わってきます。表舞台から消えていた年月が、この短い証言に重なっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
自分の中に小さな交渉のテーブルがある、という絵を置いてみます。向かい側に座っているのは相手ではなく、納得できない事実そのものです。その事実は席を立ちませんし、条件も変えません。動かせるのは自分の座り方だけです。
そこで席を蹴らずに座り直し、争いを終わらせた状態が make one’s peace with にあたります。テーブルの上の問題はそのまま残っているのに、部屋の空気だけが静かになる。この絵を持っておくと、「許した」との違いがはっきりします。
劇中の被害者も、業界を許してはいません。それでも作品を世に出すために、同じテーブルに座り続けることを選びました。
例文で覚える「make one’s peace with」
受け入れるまでに時間がかかったことを含ませられるのが、この表現の持ち味です。3つの場面で見ていきましょう。
It took him years to make his peace with his father’s decision.
(父の決断を受け入れるまでに、彼は何年もかかった)
家族の過去について打ち明け話をする場面です。時間の長さを添えると、この表現らしい重みが出ます。
I’ve made my peace with not getting the promotion.
(昇進しなかったことには、もう折り合いをつけた)
人事の結果について同僚に率直に話す場面です。not doing を後ろに置けば、起こらなかった出来事も対象にできます。
A: Are you still upset about the project being cancelled?
B: Not anymore. I’ve made my peace with it.
(A:プロジェクトが中止になったこと、まだ気にしてる?)
(B:もう平気。あれとは折り合いをつけたから)
気にかけてくれた相手に近況を返す場面です。it 一語で前の話題をまるごと受けられるので、会話ではこの形がよく使われます。
あわせて覚えたい関連表現
come to terms with
(〜を受け入れる)
条件をすり合わせて合意に至る、という発想の言い方です。今回のフレーズとほぼ重なりますが、喪失や病気など重い事実に使われることが多く、書き言葉寄りの響きがあります。
live with
(抱えたまま生きる)
受け入れたかどうかには触れず、その状態が続いていることだけを示します。今回のフレーズが心の整理まで含むのに対し、こちらは整理がついていなくても使えます。
bury the hatchet
(和解する)
斧を埋めて争いを終える、という古い言い回しです。相手のいる対立にしか使えないため、内面の整理を表す今回のフレーズとは守備範囲が異なります。
Note|make peace と make one’s peace の分かれ道
同じ make と peace でできているのに、one’s が入るかどうかで指す内容が変わります。この違いは、英語の中でも見通しのよい例のひとつです。
make peace は、争っていた両者が争いをやめることを指します。国と国の講和、対立していた二人の仲直りのように、平和は当事者の「あいだ」に置かれます。だから相手の同意がなければ成立しません。ところが make one’s peace with になると、平和の持ち主が one’s で名指されます。誰の平和かがはっきりした瞬間に、それは相手との間ではなく、その人の内側の状態を指すようになります。相手が謝らなくても、事実が変わらなくても、自分の側だけで完結してしまうわけです。所有格が一つ増えるだけで、対人の行為が内面の行為へ移る。この動き方は、make up one’s mind(決心する)や have one’s say(言い分を通す)など、one’s が入ることで行為の場所が個人の内側へ寄る一群と重なります。
劇中で使われていたのも、まさに後者でした。業界は何も変わっておらず、謝ってもいません。それでも被害者は自分の側で争いを終わらせ、作品を世に出す道を選びました。one’s があるからこそ成立する言い方だと分かると、訳語の「折り合い」がどこでつけられたのかも見えてきます。
平和は、いつも二人でつくるものとはかぎらないようです。
まとめ|「許した」ではない終わらせ方
make one’s peace with は、相手や出来事を許すことではなく、変えられないものとして引き受けて、自分の中の争いだけを終わらせる表現です。one’s が入ることで、平和の置き場所が内側に移ります。
この言い方を持っておくと、「気にしていない」と強がることも、「まだ許せない」と抱え込むことも避けられます。事実は事実として残したまま、自分の立ち位置だけを静かに示せる一言です。
納得と受容は、必ずしも同じではないのかもしれません。


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