海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
認めてしまえば楽になるのに、どうしても口に出せない。あるいは、そういう状態にある誰かを、そばで見守ったことはありませんか。本人にはその自覚がない、というのがこの状況の難しいところです。
そんな心の動きを言い表す「be in denial」を、『メンタリスト』シーズン3第3話の終盤、ジェーンが保護されたばかりの女性と静かに向き合うシーンから、一緒に見ていきましょう。
「be in denial」の意味とニュアンス
be in denial
意味:つらい現実を認めようとしない
denial は deny(否定する)の名詞形ですが、be in denial という形になると、単なる否定とは別のものを指します。事実を知りながら嘘をついている状態ではなく、本人が無自覚のうちに事実を心から締め出している状態です。
前置詞の in が効いています。否認という部屋の中にいる。外から見れば扉のすぐ向こうに事実があるのに、中にいる本人にはそれが見えていません。この「本人には自覚がない」という点が、be in denial のもっとも重要な特徴です。
使われる場面は幅広く、病気や別れを受け入れられない人について語るとき、経営の悪化を認めようとしない組織を評するとき、依存の自覚がない相手を案じるときなどに登場します。ただし、面と向かって指摘すると相手を追い詰めることもあるため、使う場面には配慮が必要です。about を添えて、何についての否認かを示す形もよく使われます。
【ここがポイント!】
- 嘘をついているのではなく、本人が本気で見えていない状態を指す一言
- in が表すのは、事実を締め出した部屋の内側にいるという位置関係
- 面と向かって使うと相手を追い詰めることもあるので、場面を選ぶのがコツ
『メンタリスト』S03E03のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
長く行方の分からなかった女性が、ついに保護されます。しかし彼女は、自分はすでに死んでいて、いま話しているのは霊としての自分だと信じ込んでいました。霊の存在を否定し続けてきたジェーンが、彼女に向かって「あなたは生きている」と説得する側に回ります。立場が逆転したまま、静かな押し問答が続きます。
Kristina: You’re talking to a ghost and still you’re a skeptic.
(幽霊と話しているのに、それでもまだ懐疑派なのね。)Jane: You’re not dead, Kristina. You’re alive.
(君は死んでいないよ、クリスティナ。生きているんだ。)Kristina: You’re in denial.
(あなたのほうが、現実を認められずにいるのよ。)The Mentalist Season3 Episode3 (The Blood on His Hands)
シーン解説と心理考察
否認しているのはどちらなのか。その問いが最後の一言で反転するところに、この場面の仕掛けがあります。彼女にとって受け入れがたいのは、自分が生きているという事実です。ジェーンにとって受け入れがたいのは、彼女がこうなってしまったという事実です。同じ言葉が二人のどちらにも当てはまってしまうため、短いやりとりが不思議な重さを持ちます。
霊の存在を頑なに否定してきた人物が、その否定の姿勢をそのまま逆手に取られる。この構図の皮肉さも見どころです。彼が積み上げてきた懐疑の態度は、ここでは相手を救う道具にならず、むしろ距離を生んでしまいます。
説得の言葉がまったく届かないまま場面が閉じることで、be in denial という表現が持つ厄介さも伝わってきます。本人に自覚がない以上、外からの説明ではどうにもならない。その手詰まりが、静かな会話の中に置かれています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
強い風の吹きつける玄関のドアを、内側から全身で押さえている姿を思い浮かべてください。外にあるのは、認めてしまえば生活が変わってしまう事実です。押さえている本人は必死ですが、外から見れば「なぜ開けないのか」が丸見えになっています。
be in denial の in は、この閉じた部屋の内側にいる状態を表します。劇中では、生きていることを認められない女性と、彼女の変わり果てた姿を認められない男性が向かい合います。どちらの手もドアから離れないまま会話が終わる、と覚えておくと、この表現の切なさごと記憶に残ります。指摘する側もまた別のドアを押さえているかもしれない、という視点も一緒に持てます。
例文で覚える「be in denial」
about を添えて対象を示す形が基本になります。3つの場面で見ていきましょう。
He’s still in denial about the breakup.
(彼はまだ、あの別れを受け入れられずにいる。)
友人の近況を心配して話す場面です。about のあとに否認の対象を置くのが基本形で、日常会話でもっともよく見かける使い方になります。
The company is in denial about how fast the market is changing.
(あの会社は、市場の変化の速さを認めようとしていない。)
業界の動向を分析する場面です。組織を主語にできるため、ビジネス記事や会議の場でも幅広く使えます。
A: You keep saying you’ll deal with it next month.
B: I know. I was in denial for a long time, but I’m ready now.
(A:来月やるって、ずっと言い続けてるよね。)
(B:わかってる。長いこと目をそらしてたけど、もう覚悟はできてる。)
先延ばしを指摘される場面です。一人称で過去形にすると、自分を振り返る落ち着いた響きになり、相手を責める調子が消えます。
あわせて覚えたい関連表現
turn a blind eye
(見て見ぬふりをする)
事実を知りながら、意識的に無視する行為を表します。be in denial が本人に自覚のない状態を指すのに対し、こちらははっきりと選び取った行動である点が決定的に違います。
bury one’s head in the sand
(現実から目をそらす)
砂に頭を突っ込むダチョウのイメージから来た口語表現で、呆れや滑稽さが混じります。be in denial のほうが臨床的で、深刻な場面にも落ち着いて使えます。
face the music
(結果を覚悟して受け止める)
be in denial のちょうど対極にある行動を表す表現です。否認から直面へ、という流れを英語で語るときに、この二つを対にすると話が組み立てやすくなります。
Note|心理学の用語が日常語になるとき
be in denial は、もともと日常会話の言葉ではありませんでした。心理学の専門用語が一般に広がり、いまでは友人同士の雑談にも登場するようになった、という経路をたどった表現です。
denial は、精神分析において「防衛機制」と呼ばれる心の働きのひとつとして位置づけられてきました。受け止めきれない現実から自分を守るために、その事実そのものを認識から外してしまう働きを指します。さらに、悲嘆のプロセスを段階で説明する有名な枠組みでも、最初の段階として否認が挙げられています。こうした概念が書籍やメディアを通じて広く知られるようになるにつれ、denial は臨床の場を離れ、日常語として使われるようになったとされています。同じ経路をたどった語は他にもあり、closure(区切り)、trigger(引き金)、boundaries(境界線)などが、いずれも専門的な文脈から日常会話へ移ってきました。英語圏でカウンセリングが身近な選択肢として定着していることが、この移動を後押ししたとされています。日本語で同じ内容を伝えようとすると「現実を受け入れられずにいる」と説明的になりがちで、一語で言い切れる便利さも定着を支えました。
劇中でクリスティナがこの言葉を使うのは、ジェーンが嘘をついていると考えたからではありません。彼が本当に受け入れられずにいると見たからこそ、この一語が選ばれています。
専門の言葉が日常に降りてくるとき、語られる心の範囲も少しずつ広がっていきます。
まとめ|押さえているドアは、誰にでもある
be in denial は、つらい現実を無自覚のうちに締め出している状態を表す言葉です。嘘をついているのではなく、本人には本当に見えていない。この一点が、単なる否定と決定的に違うところです。
覚えておくと、人の状態を語るときの言葉が一段やわらかくなります。「認めようとしない」と責める調子で言うかわりに、本人にも自覚がない心の働きとして描けるようになるからです。一人称で使えば、自分を振り返る言葉にもなります。
説得がまったく届かないまま閉じるあの静かな場面は、この表現が持つ手詰まりの感覚をよく伝えてくれます。人の心を丁寧に語る一言として、表現の引き出しに加えてみてください。


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