海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
誕生日を過ぎてから届いたプレゼント、締め切りを何日か過ぎて出した書類。完璧ではないけれど、やらないよりはよかった。そんな気持ちを一言で言い表したい場面があります。
そこで使われるのが「better late than never」です。『メンタリスト』シーズン4第18話の終盤、ジェーンとリズボンが診療所の地下へ踏み込む緊迫した場面から、一緒に見ていきましょう。
「better late than never」の意味とニュアンス
better late than never
意味:遅れてでも、やらないよりはまし
主語も動詞もない、比較級だけでできた短いことわざです。late(遅い)と never(まったくない)を天秤に乗せて、late のほうがまだましだと言い切っています。この骨だけの形が、口をついて出る速さを支えています。
伝えているのは、遅れを帳消しにする理屈ではありません。遅れたこと自体は認めたうえで、それでも実行された価値のほうを拾う言い方です。100点ではないものを、0点と比べて肯定している。この二段構えを押さえておくと、使いどころを外しにくくなります。
同じ一文でも、誰の遅れについて言うかで響きが変わります。自分の遅れに添えれば、非を認めつつ場を和ませる働きをします。他人の遅れに向ければ、済んだ話を蒸し返す一言にもなり得ます。I suppose や I guess を添えると、劇中と同じ渋い含みが出ます。
【ここがポイント!】
- late と never を天秤にかけた、比較級だけの短いことわざ
- 遅れを帳消しにするのではなく、0点と比べて肯定する二段構えの言い方
- 自分の遅れなら和み、他人の遅れなら嫌味になりうる。主語の置き場所に注意
『メンタリスト』S04E18のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
事件の重要な手がかりが持ち去られ、ジェーンとリズボンはそれが処分できる設備のある場所を探して、診療所の地下へ向かいます。ジェーンの読みは、施設の資金力と院長の性格から「上等な焼却炉があるはずだ」という一点だけ。緊迫した踏み込みのはずが、二人のやり取りはどこかずれています。
Patrick: Look at this clinic. Very well funded. Scheck’s ego would require that he has the best. I tell you, this guy is gonna have a top-of-the-line medical incinerator.
(この診療所を見てごらん。資金は潤沢だ。シェック医師の自尊心なら、最高のものを揃えているはずだよ。きっと最新型の医療用焼却炉を持っている。)Teresa: In the basement?
(地下ってこと?)Patrick: Can we use inside voices, please?
(声のトーンを落としてもらえるかな。)Teresa: Police! Drop the… weapon.
(警察よ! 武器を、下ろしなさい。)Patrick: Better late than never, I suppose.
(遅れてでも、やらないよりはまし、ってところかな。)Teresa: Hands in the air! Y-your hands, not his.
(手を上げて! あ、あなたの手じゃなくて、その人の手よ。)The Mentalist Season4 Episode18 (Ruddy Cheeks)
シーン解説と心理考察
リズボンの制止の声は、途中で一度切れます。想定していたものと違う光景を見て、言葉が追いつかなかったことが伝わってきます。ジェーンの better late than never は、その遅れを咎めるのでも慰めるのでもなく、張り詰めた空気に軽さを一滴落とすために置かれています。
このフレーズが持つ「間に合わなかったが、それでも」というほろ苦さが、ここでは笑いのほうへ転がるのが面白いところです。直後にリズボンが「手を上げて」と言い、ジェーンが自分の手を上げてしまう。訂正の一言まで含めて、緊迫と脱力が数秒で入れ替わります。
シリーズを通して、この二人の役割分担は一貫しています。手順を守るリズボンと、手順の外から結論だけを持ってくるジェーン。地下室にたどり着けたのはジェーンの読みのおかげで、正しく制止できるのはリズボンだけです。どちらも半分ずつしか完璧ではない。better late than never という言い方が、その関係にちょうど収まっているのが見どころと言えます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
両手に、それぞれ札を持っている絵を思い浮かべてみてください。右手には「遅刻」、左手には「欠席」。どちらも褒められたものではありません。それでも天秤に乗せれば、遅刻のほうが下がります。
better late than never は、この天秤の結果をそのまま言葉にしたものです。良い悪いの判定ではなく、二つのよくないものを比べて、まだましなほうを選んでいるだけ。
劇中のリズボンの制止も、完璧なタイミングではありませんでした。それでも、間に合わなかったわけではない。100点と比べるのではなく、0点と比べる。この比べ方の癖ごと覚えておけば、謝るときにも励ますときにも取り出せます。
例文で覚える「better late than never」
謝る側、評する側、励ます側。同じ一文が、立ち位置によって温度を変えます。3つの例文で見てみましょう。
She started learning the piano at sixty. Better late than never.
(彼女は60歳でピアノを習い始めた。始めないよりずっといい。)
人の挑戦を前向きに語る場面です。遅れが誰の落ち度でもない場合、この一文は純粋な励ましとして働きます。
He finally sent the report. Better late than never, I suppose.
(彼はようやく報告書を送ってきた。まあ、出さないよりはましか。)
同僚の遅れを話題にする場面です。I suppose を添えると、納得しきってはいないという含みがにじみます。
A: I’m so sorry — your birthday present is three weeks late.
B: Better late than never. Let’s open it now.
(A:本当にごめん、誕生日プレゼントが3週間も遅れちゃって。)
(B:遅れてでも、もらえないよりずっといいよ。今開けよう。)
謝られた側が返す形です。相手の非を認めたうえで受け流せるので、場を軽くしたいときに使いやすい一言です。
あわせて覚えたい関連表現
in the nick of time
(間一髪で、ぎりぎり間に合って)
こちらは遅れていません。間に合ったことを強調する表現なので、遅れを前提とする今回のフレーズとは出発点が逆になります。
at the eleventh hour
(土壇場で)
期限内ではあるものの、ぎりぎりだったことを表します。遅刻ではないため、better late than never とは重なりません。時間の緊迫だけを伝えたいときに選ばれます。
too little, too late
(少なすぎるし、遅すぎる)
同じ「遅い」を扱いながら、価値をまったく認めない側の言い方です。今回のフレーズが肯定するところを、こちらは切り捨てます。二つ並べると、遅れの評価が正反対に分かれます。
Note|言う相手を選ぶ、ということわざ
better late than never は、覚えるのが簡単なわりに、使う相手を間違えると刺さってしまうことわざです。同じ一文が、主語をどちらに置くかで温度を変えるからです。
自分の遅れに添える場合、この一言は謝罪をやわらかくします。遅れた事実は認めているので言い訳になりすぎず、それでいて場の空気を軽くできる。届くのが遅れた贈り物や、期限を過ぎた提出物に添える定型として、英語圏では日常的に使われています。
問題は、他人の遅れに向けて言う場合です。「出さないよりはましだ」と言った瞬間、遅れたという事実がもう一度テーブルの上に戻ってきます。相手が謝っているならまだしも、こちらから先に言えば、済んだ話を蒸し返す形になります。そのため職場のメールでは、相手が遅れたときにこの表現はあまり選ばれません。代わりに使われるのは Thanks for getting this over.(送ってくれてありがとう)や Got it, thanks.(受け取りました)のように、遅れそのものに触れない言い方です。遅れに言及しないことが、そのまま配慮として働いています。
つまりこのことわざは、遅れた本人が言えば謝罪の潤滑油になり、受け取った側が言えば皮肉になりうる、という非対称を抱えています。劇中でこの一言を口にしたのがジェーンだったことにも意味があります。彼は制止に遅れた当事者ではなく、その場を見ていた側です。だからこそ軽口として成立し、同時にリズボンへの小さな茶々にもなっています。
短いことわざほど、誰が言うかで角度が変わります。
まとめ|制止の声が一拍遅れた、あの数秒
better late than never は、遅れを帳消しにする言葉ではありません。遅れたことを認めたまま、それでも実行された分だけを拾い上げる言い方です。100点と比べるのではなく、0点と比べる。この比べ方が、この一文の骨格になっています。
使えるようになると、謝る場面でも励ます場面でも、重くならずに気持ちを渡せるようになります。ただし向ける相手だけは選ぶ表現なので、自分の遅れに添えるところから始めると失敗がありません。
制止の声が一拍遅れた、地下室での数秒。あの間合いごと、表現の引き出しに加えてみてください。


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