海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
いったん手を組んだ相手に出し抜かれる。しかも、その関係を築いたこと自体が利用されていた。裏切りの中でも、この形はとりわけ後味が悪いものです。
その特定の裏切り方を指す「double-cross」を、『メンタリスト』シーズン4第22話から、ジェーンが被害者の家で捜索の意図を語るシーンを通して、一緒に見ていきましょう。
「double-cross」の意味とニュアンス
double-cross
意味:仲間を裏切る / 味方のふりをして出し抜く
裏切りを表す語は英語にいくつもありますが、この言い方には条件があります。相手といったん協力関係にあったこと、そしてその関係を利用して欺いたこと。最初から敵だった相手には使えません。
背景にあるのは cross という語です。この語は「交差する」だけでなく、約束や取り決めに反するという意味も担ってきました。そこに double が付くことで、いったんこちらへ寄った線がもう一度向きを変えて相手側へ渡る、という二度目の交差が加わります。
品詞は動詞と名詞の両方で使えます。動詞では He double-crossed his partner. のように目的語を取り、名詞では the double cross の形でハイフンを外して書かれることが多くなります。裏切った人物を指す double-crosser という言い方もあります。
使われる場面は、共犯者どうしの分け前争い、取引相手による約束の反故、スパイの寝返りなど。日常会話でも、組んで進めていた仕事を横取りされたといった文脈で自然に出てきます。
【ここがポイント!】
- いったん味方になった相手にしか使えない、条件つきの裏切り
- 握手した手が離れて別の方向へ伸びる、二度目の交差という絵が核
- 動詞でも名詞でも使える。名詞形はハイフンを外して書かれることが多い一語
『メンタリスト』S04E22のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
事件の背後には、海底に沈んだ難破船から引き揚げられた財宝がありました。ジェーンは捜査員と地元警察を動員して被害者の家を捜索させ、何を探しているのかと問われて「宝」とだけ答えます。そこで語られたのが、被害者と共犯者のあいだで起きていたことの見立てでした。以下は事件の結末に触れない範囲での引用です。
Jane: You were Jay’s best friend. Jay was tricky, sly, always a couple of moves ahead, no?
(君はジェイの親友だった。ジェイは食えない男で、抜け目がなくて、いつも二手先を読んでいた。違うかい)Jeeter: Yeah. He was an operator, sure.
(ええ。まあ、やり手でしたよ)Jane: He was an operator. Jay’s partner double-crossed Jay, killed him, but what he didn’t know is that Jay double-crossed him first. Jay moved the treasure before he died.
(やり手だった。ジェイの相棒はジェイを裏切って殺した。だが相棒が知らなかったのは、ジェイのほうが先に裏切っていたということだ。ジェイは死ぬ前に宝を動かしていた)Jeeter: Seriously?
(本当に?)The Mentalist Season4 Episode22(So Long, and Thanks for All the Red Snapper)
シーン解説と心理考察
同じ動詞が一つの文の中で二度使われています。相棒がジェイを裏切り、ジェイのほうが先に裏切っていた。主語と目的語を入れ替えただけで、裏切りが往復していたことが示される。double という語がもともと持っている折り返しの感覚が、文の構造そのものに重なっています。
聞き手に選ばれているのが被害者の親友だという点も見逃せません。ジェーンはまず You were Jay’s best friend. と立場を確認し、そのうえで人物評への同意を引き出してから、本題に入っています。相手に頷かせてから話を進めるという運び方が表れています。
そして、この語りが誰に向けられているのかは、この時点ではまだ明かされません。捜索そのものが目的ではなく、部屋の中で誰がどう反応するかを見るための場になっている。事実を述べているようでいて、実際には仕掛けが動いているという二重構造が、この場面全体に漂っています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
握手を思い浮かべてください。二人の手が近づいて、交差して、いったん結ばれます。ここまでが一度目の cross です。そして結んだ手がほどけ、片方の手だけが別の方向へ伸びていく。この二度目の動きが double の部分にあたります。
最初からすれ違っていた相手には、この絵は成立しません。一度きちんと組んだからこそ、離れる動きが裏切りになる。使える相手が限られている理由が、手の動きだけで説明できます。
裏切りが往復していたと語られる場面を思い出せば、double という語がなぜ選ばれているのかまで一緒に残ります。
例文で覚える「double-cross」
物語のあらすじにも、取引の警告にも使えます。3つの例文で、動詞と名詞の両方を見ていきましょう。
He double-crossed his own partner and took all the money.
(彼は相棒を裏切り、金を独り占めした)
映画やドラマの筋を説明する場面です。目的語には、必ず協力関係にあった相手が来ます。
The whole plan fell apart after the double cross.
(あの裏切りのあと、計画はすべて崩れた)
出来事の経緯を一言で示す場面です。名詞にすると、裏切りそのものを一つの事件として扱えます。
A: Can we really trust them on this deal?
B: I’d be careful. They double-crossed their last partner.
(A:この取引、本当に彼らを信用していいのかな)
(B:慎重にいったほうがいい。前の提携先を裏切った連中だ)
提携先の信頼性を話し合う場面です。過去の一度が信用の判断材料として持ち出される、という使われ方をします。
あわせて覚えたい関連表現
betray
(裏切る)
信頼関係全般に使える一語で、友情にも信念にも国家にも届きます。共犯や取引の場に偏る double-cross より、はるかに守備範囲が広い言葉です。
stab someone in the back
(陰で裏切る)
背後から刺すという絵で、相手が気づかない場所で害を加える点が核心にあります。利益を横取りするという構図までは含まないため、double-cross とは重なりきりません。
go back on one’s word
(約束を破る)
交わした言葉を反故にするという言い方です。約束の不履行だけを指し、相手を出し抜こうという意図までは必ずしも含みません。
Note|犯罪ものが手放さない一語
強盗計画が成功した直後、分け前を数える場面で誰かの表情が変わる。犯罪ものを見慣れていると、この瞬間に何が起きるかは先読みできます。そして、その展開を一語で言い当てるのが double-cross です。
この語がジャンルの中でよく現れるのは、決まった三つの位置においてです。一つ目は計画段階で、必ず誰かが「裏切るなよ」と釘を刺す。二つ目は実行の直後で、分け前をめぐって関係が壊れる。三つ目は事後の説明で、探偵役や刑事役が「相棒が裏切ったんだ」と経緯を語り直す。今回のエピソードでジェーンが使っているのは、三つ目の位置にあたります。
なぜこの語が選ばれ続けるのかというと、状況の説明を省けるからです。betray では、誰が誰をどういう関係で裏切ったのかが分かりません。double-cross と言えば、二人は組んでいたこと、その関係が利用されたこと、そして利益をめぐる争いであったことまでが一度に伝わります。筋書きを短く畳める語なので、限られた台詞数で状況を動かす必要があるジャンルと相性がよいわけです。
そのため、この語が聞こえてきたら、画面の中でこれから起きることをある程度予測できます。まだ登場していない共犯者がいるか、すでに退場した人物の行動が語り直されるか。会話の内容だけでなく、物語がどの段階に来ているかを教えてくれる目印として働いています。
聞き取りの手がかりは、意味だけとは限りません。その語がどの場面で選ばれるのかを知っておくと、耳のほうが先に構えてくれます。
まとめ|二度目の交差が起きたとき
double-cross は、いったん手を組んだ相手を、その関係を利用して欺くことを指す表現です。最初から敵だった相手には使えないという条件があるぶん、聞こえた瞬間に人間関係の形まで伝わります。
犯罪ものの筋を語るときはもちろん、提携先の信用を話題にするときや、共同で進めていた仕事を横取りされたと伝えるときにも使えます。動詞と名詞の両方を持っておくと、経緯としても出来事としても言い表せます。
裏切りが往復していたと語られたあの一文は、double という語の形そのものが筋書きになっていた場面でした。


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