海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
理不尽なことを言われても、言い返さずにぐっとこらえて受け流す——できるとかっこいいけれど、なかなか難しい。そんな寛容さを言い表す言葉が英語にあります。
その「仕返しせずに受け流す」を表す「turn the other cheek」を、『ビッグバン★セオリー』シーズン8第23話、シェルドンの母メアリーが、口論したレナードの母への態度を反省するシーンから、一緒に見ていきましょう。
「turn the other cheek」の意味とニュアンス
turn the other cheek
意味:仕返しせずに受け流す、(打たれても)もう一方の頬を差し出す
直訳は「もう一方の頬を向ける」。片方の頬を打たれても、怒って打ち返すのではなく、もう片方の頬を差し出す——つまり、危害や侮辱を受けても報復せず、甘んじて受け流すことを表します。
新約聖書の有名な一節に由来する表現で、無抵抗・寛容・赦しの象徴として広く使われます。挑発に乗らずに受け流す姿勢を指したり、「ここは我慢して受け流しなさい」と助言したり、自分の寛容さを語る(あるいは自嘲する)文脈で登場します。単に「気にしない」よりも一段深く、「報復する権利があってもあえて行使しない」という積極的な寛容のニュアンスを含むのが特徴です。
【ここがポイント!】
- 「打たれてももう片方の頬を向ける」=報復しない、が意味の核
- 新約聖書由来で、無抵抗・赦しの象徴として広く使われる
- 「気にしない」より深い、あえて仕返ししない積極的な寛容がコツ
『ビッグバン★セオリー』S08E23のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
信仰をめぐってビバリーと激しくやり合ったメアリーが、頭を冷やしたあと、自分の言動を振り返ります。敬虔なクリスチャンとしての理想と、テキサス育ちの気の強さのあいだで揺れる、彼女らしいひとことが飛び出すところが見どころです。
Mrs Cooper: When Beverly gets back, I need to apologize for the way I spoke to her.
(ビバリーが戻ったら、さっきの口のきき方を謝らなくちゃ。)Penny: Come on, she kind of started it.
(でも、先に始めたのは向こうじゃないですか。)Mrs Cooper: Doesn’t matter. A good Christian would’ve turned the other cheek. A good Texan would’ve shot her, so I just split the difference.
(関係ないわ。よきクリスチャンなら、もう一方の頬を差し出したはず。よきテキサス人なら撃っていたでしょうね。だから私はちょうど中間を取ったの。)The Big Bang Theory Season8 Episode23(The Maternal Combustion)
シーン解説と心理考察
ペニーが「向こうが先に始めた」とかばっても、メアリーは「よきクリスチャンなら turn the other cheek すべきだった」と自らを省みます。信仰の理想に照らして、報復せず受け流すべきだったと認めるわけです。
ところが、その直後に「よきテキサス人なら撃っていた、だから中間を取った」と落とすところに、メアリーの人間味が凝縮されています。聖書の教えを引いて反省しながらも、自分はそこまで聖人ではないと正直に認める——敬虔さと荒っぽいテキサス気質が同居する彼女の本質が、この一言にユーモラスに表れています。完璧な聖人ではなく、理想と本音のあいだで折り合いをつける等身大の姿が、メアリーを魅力的に見せています。
『ビッグバン★セオリー』流・覚え方のコツ
片方の頬をぴしゃりと打たれた人物が、怒って殴り返すのではなく、静かに、もう片方の頬をすっと相手のほうへ向ける——その穏やかな所作を思い浮かべてみてください。「さあ、こちらも打ちなさい」と言わんばかりのその姿が、報復しない寛容さそのものです。
メアリーが「クリスチャンなら頬を差し出す、でもテキサス人なら撃つ」と両極端を並べた場面と結びつけると、この表現が持つ聖書由来の重みと、彼女の本音とのギャップが、まとめて記憶に焼きつきます。差し出される頬と、構えられる拳銃。その対比が、忘れにくい覚え方になります。
例文で覚える「turn the other cheek」
turn the other cheek は、挑発や侮辱に対する寛容な姿勢を語るときに活躍します。3つの場面で見てみましょう。
Instead of arguing back, she chose to turn the other cheek.
(言い返す代わりに、彼女は受け流すことを選んだ。)
最も基本的な使い方です。「反撃する」と「受け流す」を対比させると、あえて報復しない選択がくっきり伝わります。
Sometimes it’s wiser to turn the other cheek than to fight.
(時には戦うより、受け流すほうが賢明だ。)
格言のように使えるパターンです。対立への向き合い方を、落ち着いた口調で助言できます。
A: That review was so unfair. Aren’t you going to respond?
B: No, I’ll just turn the other cheek this time.
(A:あのレビューはあんまりだよ。反論しないの?)
(B:いや、今回は受け流しておくよ。)
理不尽な批判への対応を語る会話です。turn the other cheek を使うと、「腹は立つが、あえて取り合わない」という大人の余裕がにじみます。
あわせて覚えたい関連表現
let it go
(水に流す、気にしないでおく)
口語で広く使う「もう気にしない」です。turn the other cheek が持つ宗教的・道徳的な重みはなく、もっと軽く日常的に使えます。
rise above it
(低俗な争いに加わらず、一段高い立場でいる)
報復しない点は共通しますが、「相手より高潔に振る舞う」という品位の含みが強い表現です。
take the high road
(潔く立派な道を選ぶ)
対立の場面で、あえて品位ある対応を取ることです。受け身の「受け流す」より、能動的に高潔な選択をするニュアンスがあります。
Note|「もう一方の頬を」―― 聖書から日常へ
turn the other cheek を読み解く鍵は、この表現が生まれた、二千年前の有名な教えにあります。
この言い回しは、新約聖書のなかでもよく知られる「山上の垂訓」と呼ばれるイエスの説教の一節に由来するとされています。「右の頬を打たれたら、左の頬も向けなさい」——危害を受けても報復せず、相手を赦しなさいという、無抵抗の教えです。この鮮烈なイメージが、宗教の枠を超えて人々の心に残り、やがて日常の言い回しとして定着していったと言われています。興味深いのは、今では必ずしも信仰の文脈に限らず使われる点です。職場での理不尽な批判、ネット上の心ない言葉、口論の場面——そうした日常のいざこざに対して、「ここは turn the other cheek でいこう」と、宗教色を意識せずに口にされます。出自の重みを保ちながらも、すっかり生活に溶け込んだ表現と言えます。だからこそ、敬虔なクリスチャンであるメアリーがこの言葉を自省の弁に選んだのは、その出どころにぴたりと符合する、自然な言葉選びでした。
聖書という源流を知ると、何気ない一言の背後に、長い時間の積み重ねが見えてきます。
まとめ|メアリーの自省から学ぶ「受け流す」
turn the other cheek は、「打たれてももう一方の頬を向ける」という聖書由来のイメージから生まれた、「仕返しせずに受け流す」を表す表現です。
新約聖書の山上の垂訓に源を持ち、無抵抗・寛容・赦しの象徴として、今では信仰の文脈を超えて広く使われます。単に「気にしない」よりも一段深く、「報復する権利をあえて使わない」という積極的な寛容を含むのが、この言葉の持ち味です。
理不尽な言葉に取り合わず、大人の余裕で受け流したいとき、この表現を思い出してみてください。
メアリーが「中間を取った」と打ち明けた後ろには、理想を掲げつつも本音と折り合いをつけて生きる、誰もが共感できる等身大の姿がのぞいていました。


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