海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
さんざん迷惑をかけておきながら、当の本人が平然と文句を言ってくる。その厚かましさの前で、思わず言葉が出なくなってしまう場面があります。
そんなときに使われる「have the nerve to」を、『メンタリスト』シーズン5第20話の終盤、事件の関係者が取調室で、被害者と交わした最後のやり取りを振り返る場面から、一緒に見ていきましょう。
「have the nerve to」の意味とニュアンス
have the nerve to
意味:よくも〜できるものだ、厚かましくも〜する
nerve は「神経」ですが、この形では「図太さ、ずうずうしさ」を指します。神経が太いから平気でいられる、という発想は日本語の「神経が太い」とも重なります。
使われるのは、常識ならためらうはずの言動を、相手が平然と取ったときです。He had the nerve to ask for a raise.(よくも昇給を頼めたものだ)のように、後ろに to 不定詞を続けて、その厚かましい行為を名指します。
話し手の側にあるのは、怒りとあきれが混ざった感情です。単に非難するのではなく、「そこまでするとは思わなかった」という驚きが含まれるのが特徴になっています。出来事を振り返って評する形になじむため、過去形で語られることが多い表現です。
同じ nerve でも、have the nerve to speak up(勇気を出して発言する)のように褒める用法があります。どちらに転ぶかは、続く行為が非難の対象かどうかで決まります。
【ここがポイント!】
- 太い神経のおかげで平気でいられる、という絵が根っこにある表現
- 怒りだけでなく「そこまでやるとは」というあきれが混ざるのが持ち味
- 後ろに続く行為しだいで、非難にも称賛にも振れるのが要注意なところ
『メンタリスト』S05E20のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
物語の核心に触れない範囲でお伝えすると、終盤、事件に関わったある人物が取調室で当時の経緯を語ります。被害者のもとを訪ねたのは脅すつもりまではなかったと、本人は言います。ところが、その場で被害者が口にした一言が、状況を大きく変えてしまいました。振り返って語られる、その一言に注目です。
Elizabeth: I just wanted to scare her a little. Tell her to leave him alone. But then she had the nerve to call him a creep, like she was too good for him.
(少し怖がらせるだけのつもりだった。あの人に近づかないでと言うだけ。それなのにあの女、よくも彼のことを気持ち悪いなんて言えたものよ。自分のほうが上だとでも言うように)The Mentalist Season5 Episode20 (Red Velvet Cupcakes)
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シーン解説と心理考察
had the nerve to という言い方が選ばれたところに、話し手の立ち位置がよく表れています。相手の言動を単に非難するのではなく、「その資格がないはずの人物が、よくも言えたものだ」という前提を含んだ表現だからです。
続く like she was too good for him(自分のほうが上だとでも言うように)が、その前提をさらにはっきりさせています。問われているのは発言の内容ではなく、発言した人物の身の程のほうです。序列の感覚が、この短い一文の底に流れています。
引用の場面は、当時のやり取りを本人が振り返って語る形になっています。過去形で語られることによって、出来事そのものより、それをどう受け取ったかのほうが前に出る構造です。have the nerve to が回想と相性のよい表現である理由も、ここに重なっています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
神経が細い人は、相手の反応が気になって言葉を飲み込みます。逆に神経が太ければ、同じ場面でも平然と言い切れてしまう。nerve という語を、この太さの感覚として持っておくと使い分けが楽になります。
太いから通せる。細いから止まる。have the nerve to は、その太さを相手に見た瞬間の言葉です。
この場面で語られているのも、まさにその驚きでした。言い返されるとは思っていなかった相手から、思いがけない強さで返された。太さに触れた瞬間の反応として覚えておくと、怒りとあきれが同時に湧く理由まで一緒に残ります。
例文で覚える「have the nerve to」
後ろには、厚かましいと感じた行為をそのまま続けます。三つの場面で、あきれの度合いを見てみましょう。
He had the nerve to complain about the food he didn’t pay for.
(自分が払ってもいない料理に、よくも文句が言えたものだ)
おごってもらった相手が不満を漏らした場面です。didn’t pay for と並べることで、厚かましさの理由がはっきりします。
She had the nerve to show up an hour late and ask why we started without her.
(一時間も遅れて来たうえに、なぜ先に始めたのかと聞いてきた)
遅刻した相手の言い分にあきれた場面です。and でもう一段重ねると、あきれの度合いが上がります。
A: Did he apologize?
B: Apologize? He had the nerve to ask me for a favor.
(A:謝ってきた?)
(B:謝る? それどころか、頼み事をしてきたのよ)
期待を裏切られたことを友人に話す場面です。相手の言葉を疑問形で繰り返してから続けると、あきれがいっそう強調されます。
あわせて覚えたい関連表現
the nerve of him
(あの厚かましさときたら)
同じ nerve を名詞句だけで言い切る形です。have the nerve to が行為を名指すのに対し、こちらは相手の態度そのものにあきれを向けます。
have the audacity to
(大胆にも〜する、ずうずうしくも〜する)
意味はほぼ重なりますが、audacity のほうが硬く、書き言葉や改まった場で選ばれます。あきれよりも非難の色が濃く出ます。
lose one’s nerve
(怖じ気づく、勇気をなくす)
同じ nerve を逆方向に使った表現です。こちらの nerve は度胸の意味で、太さを失う側を描いています。
Note|nerve が「腱」から「厚かましさ」へ届くまで
nerve が「神経」を指すようになったのは、実はそれほど古い話ではありません。この語がたどってきた道を追うと、have the nerve to が非難にも称賛にも転ぶ理由が見えてきます。
nerve の語源はラテン語の nervus で、もともとは腱や筋、あるいは弓の弦を指す語でした。体を支え、力を伝える丈夫な繊維という意味です。ここから「強靭さ」という比喩が早くから生まれています。
解剖学が進み、この語が神経系を指す用語として使われるようになったのは、近代に入ってからのことです。以降、nerve には二つの層が重なりました。丈夫さを表す古い層と、感覚や動揺を伝える新しい層です。前者からは度胸を表す have the nerve to speak up や lose one’s nerve が育ち、後者からは神経過敏を表す nervous や a bundle of nerves が広がっていきました。
厚かましさの用法は、度胸の側から枝分かれしたものです。ためらわずに踏み込む強さは、状況によって称賛にもなれば非難にもなります。そこで英語は語を分けず、判定を後ろに続く行為へ委ねました。同じ have the nerve to が正反対の評価を運べるのは、この作りのためです。
引用の場面でも、判定を下しているのは nerve ではなく、そのあとに置かれた call him a creep という行為のほうでした。語そのものは、そこに太さがあったという事実を述べているだけです。
弓の弦の強さは、誰がどちらへ引くかで意味を変えます。
まとめ|太さを見た瞬間に出る一言
have the nerve to が伝えているのは、相手の行為の内容だけではありません。そこまで踏み込める図太さを目の当たりにした、という驚きです。怒りとあきれが同じ量で混ざるのは、そのためです。
この一言があると、出来事を語り直すときの温度を選べます。事実を並べるだけでは伝わらない「よくもそんなことを」という部分を、短く乗せられます。
相手の言動にあきれた気持ちを、責めるでもなく飲み込むでもなく、ひとことで置いておける。そんな表現です。


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