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打ち合わせの前に少し早く着いて、座る席を選んでおいたことはありませんか。ほんの数分の差が、その場の空気を思いのほか左右することがあります。
そんなときにぴったりの「have the upper hand」を、『メンタリスト』シーズン1第12話の中盤、自称・魔女のタムジンを訪ねたジェーンとリズボンが、先回りして待ち構えられていた場面から、一緒に見ていきましょう。
「have the upper hand」の意味とニュアンス
have the upper hand
意味:優位に立っている、主導権を握っている
直訳すると「上の方の手を持っている」。二人が同じ棒を下から交互に握り合い、最後に上を取ったほうが先を取る——そんな取り合いの光景がそのまま言葉になった表現です。
核にあるのは「相手より、ほんの少し上」という比較の感覚です。圧勝でも支配でもなく、拮抗した状態のなかで形勢がわずかに傾いている、という程度の優位を指します。だからこそ必ず比べる相手が必要で、一人きりの場面では成立しません。
使われるのは交渉、対立、試合、駆け引きなど、相手との力関係が問題になる場面です。gain the upper hand なら「優位を握る」、lose the upper hand なら「優位を失う」と、動詞を替えるだけで局面の移り変わりを描けます。決着がついていない状況を短く言い表せるため、報道の見出しにもよく選ばれる言い方です。
【ここがポイント!】
- 核は「相手より、ほんの少し上を取っている」という比較の感覚
- 圧勝ではなく、決着前の形勢がわずかに傾いている状態を指す一言
- gain / lose と組み合わせて、優位の移り変わりを描けるのがコツ
『メンタリスト』S01E12のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
捜査線上に浮かんだのは、町で唯一の魔女を名乗るタムジン・ダヴ。ジェーンとリズボンが家を訪ねますが、呼び鈴を鳴らしても応答がありません。令状を待ってようやく踏み込むと、彼女はすでに客を迎える体勢で室内に座っていました。なぜ最初から開けてくれなかったのか。リズボンの素朴な問いに、タムジンは自分の段取りをあっさり明かします。
Tamzin: Welcome. You must be the CBI. Please sit down.
(ようこそ。CBIの方ね。おかけになって)Lisbon: Thank you. Why didn’t you just let us in?
(どうも。どうして最初から入れてくださらなかったの?)Tamzin: If I had, I wouldn’t have the upper hand, now would I?
(そうしていたら、こちらが優位に立てなかったでしょう?)Jane: So you were expecting us.
(つまり、僕らが来るのを待っていたわけだ)Tamzin: Of course. I heard what was done to Cody Elkins.
(もちろん。コーディ・エルキンスの件は聞いていたもの)The Mentalist Season1 Episode12(Red Rum)
シーン解説と心理考察
鍵を開けずに待たせ、自分の椅子に座ったまま迎え入れる。タムジンの一連の段取りには、訪ねてくる側と迎える側という関係を先に作ってしまおうという計算が表れています。
興味深いのは、その計算を隠そうとしていない点です。理由を問われるとすぐに「そうしないと優位に立てない」と種明かしをし、続けて「もちろん待っていた」と認めてしまう。手の内を見せることで、こちらは駆け引きのできる人間だと宣言している——そういう空気があります。
普段は相手の心を読んで先回りする側であるジェーンが、ここでは読まれる側に回っています。それに気づいた彼が、感心とも面白がるともつかない調子で「待っていたわけだ」と返す。短いやり取りのなかで、静かな力比べが始まっているのが伝わってきます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
野球のバットを二人で握り合い、下から交互に手を重ねていく場面を思い浮かべてください。最後に一番上を握れたほうが先攻を取る。握った位置がほんの数センチ上というだけで、その差が順番を決めます。
have the upper hand が表すのは、まさにこの数センチです。相手を組み伏せたわけでも、ねじ伏せたわけでもない。ただ、手の位置が少しだけ上にある。
劇中のタムジンは、玄関の外と室内という位置の差だけで、この数センチを作り出しました。招く側と招かれる側、どちらが場を決めているか。物理的な高さではなく、その場の段取りを握っているかどうかで上下が決まる——そう捉えると、交渉や面談の場面でも自然に引き出せます。
例文で覚える「have the upper hand」
この表現は、力関係を客観的に述べたいときに便利です。三つの例文で、その使われ方を見ていきましょう。
In these negotiations, the buyer clearly has the upper hand.
(この交渉では、明らかに買い手側が優位に立っている)
取引の状況を社内で共有する場面です。感情を交えずに形勢だけを伝えられるため、報告や分析の文脈になじみます。
We finally gained the upper hand in the second half.
(後半でようやく主導権を握った)
試合の流れを振り返る場面です。gain と組み合わせると、劣勢から優位へ転じた瞬間を切り取れます。
A: Why did you arrive so early?
B: So I could pick my seat and have the upper hand.
(A:なんでそんなに早く着いたの?)
(B:席を選んで、有利な状態にしておきたくてね。)
会議前の何気ないやり取りです。劇中のタムジンと同じ「先回りして場を整える」という発想が、そのまま会話に出ています。
あわせて覚えたい関連表現
have the advantage
(有利である)
advantage は条件や資源など、有利さの中身を指せる中立的な語です。upper hand が相手との力比べの結果を表すのに対し、こちらは何が有利なのかを説明しやすい言い方になります。
call the shots
(決定権を握る、仕切る)
実際に決める権限を持っている状態を指します。upper hand は権限ではなくその場の形勢を表すため、権限がなくても優位に立てる点が違います。
be in the driver’s seat
(主導権を握っている)
自分で進む方向を決めている状態です。相手の存在が前提にならない分、upper hand より単独の場面でも使えます。
Note|上の手を取ったほうが勝ち、という取り合い
タムジンが「優位に立てなかった」と言うときに選んだ upper hand という言い方には、勝敗を決める古い作法が残っているとされます。
よく挙げられるのが、野球のバットを使った順番決めです。二人が地面に近いところから交互にバットを握り、手を重ねて上へ上へと進んでいく。グリップの端まで到達して、最後に握れた側が先攻を取る。アメリカの子どもたちのあいだで長く続いてきた方法で、いまでも草野球の現場で見られます。ここで勝敗を分けるのは腕力ではなく、握った位置がわずかに上かどうかという一点だけです。
もうひとつよく語られるのが、格闘や剣術に由来するという説です。組み合ったときに相手の腕の上を取る、あるいは剣を構えたときに相手より上から押さえる。どちらも「上を取った側が有利」という同じ発想に立っています。ただし語源には諸説あり、どれが本筋なのかは定まっていません。
いずれの説にも共通しているのは、絶対的な強さではなく、相手との位置関係だけで優劣が決まるという考え方です。バットの取り合いなら数センチ、組み手なら腕一本分。その差さえあれば「上」になります。
だからこの表現は、圧倒的な勝利には向きません。決着前の、まだひっくり返る余地のある状態にこそ似合います。タムジンが作り出したのも、玄関の内と外という、たったそれだけの差でした。
数センチの高さが順番を決める。その感覚が、いまも言葉のなかに残っています。
まとめ|先に場を決めた側が持つもの
have the upper hand は、相手との力比べのなかで、形勢がわずかに自分の側へ傾いている状態を表す言葉でした。核にあるのは圧勝ではなく、「ほんの少し上」という位置関係です。
交渉のテーブル、試合の流れ、話し合いの空気。決着がついていない状況を短く言い表せるので、報告にも雑談にも使えます。gain や lose と組み合わせれば、優位が移り変わる瞬間まで描けます。
鍵を開けずに待たせるという、たったそれだけの段取りで場を作ったタムジン。誰が先に場を決めたのかを言い当てる表現と読み取れます。


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