海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
親身な助言のつもりで言った一言が、相手には別の意味に受け取られてしまう。そんな行き違いが起こる瞬間が、日常にもドラマにもあります。
その受け取られ方を確かめる一言が「hit on someone」です。犯罪捜査ドラマ『メンタリスト』シーズン1第14話の後半、ホテルのバーで客を装うチョウが、ウェイトレスの相談に乗る場面から、一緒に見ていきましょう。
「hit on someone」の意味とニュアンス
hit on someone
意味:〜に言い寄る、〜を口説く
hit は「打つ」ですが、句動詞になると打撃そのものより、勢いよく働きかける感覚が前に出ます。hit on someone は、恋愛や性的な関心を示して相手に声をかけることを指す、くだけた口語表現です。
大切なのは、これが結果ではなく行為を表す語だという点です。誘いがうまくいったかどうかは問いません。声をかけた、その働きかけがあったという事実だけを述べます。だから、相手にとって歓迎されない働きかけにも同じ語が使えます。
Are you hitting on me? という問いは、その両面を映します。相手に好意を確かめる甘い響きになることもあれば、「それはちょっと」と牽制する冷たい響きになることもある。どちらに転ぶかは、声の調子と二人の関係で決まります。かなりくだけた言い方なので、改まった場では別の表現に置き換えるのが無難です。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは「当たるか分からないまま、特定の相手に向けて振る一打」
- 成否ではなく働きかけそのものを指すので、歓迎されない場面にも使える一言
- Are you hitting on me? は甘くも冷たくもなる。声の調子で読み分けるのがコツ
『メンタリスト』S01E14のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
事件の関係者を揺さぶるため、CBIはホテルのバーで一計を案じます。ジェーンの指示で服を新調したチョウが、ひとりの客としてカウンターに座る。そこへ声をかけてきたのが、この店のウェイトレス、ケイティでした。長く振り回されてきた相手のことを、彼女はぽつぽつと語り出します。話を受け止めたチョウが提案を口にした瞬間、その言葉の意味を彼女が確かめにいきます。
Cho: If I had a woman like you in love with me, you could say whatever you like. I wouldn’t be running around.
(あなたみたいな人に愛されていたら、何を言われたって構わない。よそで遊び回ったりしない)Katie: That’s nice of you to say. Thank you.
(優しいのね。ありがとう)Cho: You know what we need to do? You need to make him jealous. Let him see you out and about, enjoying yourself with another man.
(どうすればいいか分かるか? 彼を妬かせるんだ。ほかの男と楽しそうにしているところを見せつければいい)Katie: Are you hitting on me?
(それって、私を口説いてる?)Cho: Yes, I am.
(ああ、口説いてる)The Mentalist Season1 Episode14 (Crimson Casanova)
シーン解説と心理考察
親身な助言と口説き文句は、外から見れば同じ形をしています。ケイティが確かめにいったのは、まさにその境目でした。Are you hitting on me? という問いには、責める調子も、はしゃぐ調子もありません。ただ、今の一言はどちらだったのかを知りたいという静かさが表れています。
対するチョウの返事が、この場面の見どころです。Yes, I am. の四語だけ。言い訳も、照れ隠しの前置きもありません。普段から余計な言葉を削ぎ落とす人物ですが、この短さは無愛想というより、はぐらかさないという選択に見えます。
捜査上の芝居として始まったやり取りが、どこまで芝居なのか判然としないまま進んでいく。その曖昧さが、短い応酬の温度を変えています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
hit は、当たるかどうか分からないまま繰り出す一打です。バッターボックスに立ってバットを振る動きを思い浮かべると、輪郭がつかみやすくなります。当たれば塁に進み、空振りなら次の打席を待つ。hit on someone は、その一振りを特定の相手に向けて振ることだと考えるとよいでしょう。
実際、同じエピソードには、自分の流儀を野球にたとえて語る人物が出てきます。大リーグでも空振りばかりだ、振り続けることが大事だ、という理屈です。当たり外れの数を前提にした言い方で、hit という語の手当たり次第な感触がよく出ています。
そのすぐあとに置かれているのが、チョウの一振りです。一人は数を打ち、一人は一人に向けて一度だけ振る。同じ語が、振り方次第でまったく違う色になることが、そのまま場面の対比になっています。
例文で覚える「hit on someone」
体験談として語る形と、その場で確かめる形の両方を押さえておくと使いやすい表現です。3つの場面で見てみましょう。
Some guy hit on me at the bookstore and I had no idea what to say.
(書店で知らない人に声をかけられて、何て返せばいいか分からなかった)
その日あった出来事を友人に話す場面です。過去形で語る形がいちばん出番が多く、困惑や戸惑いの気分もそのまま乗せられます。
He kept hitting on her even after she said she wasn’t interested.
(彼女が興味はないと言ったあとも、彼は言い寄り続けた)
第三者の振る舞いが度を越していたと伝える場面です。keep -ing にすると繰り返しが強調され、迷惑だったという評価がはっきり出ます。
A: You look great tonight. Seriously.
B: Wait, are you hitting on me?
(A:今夜、素敵だね。本当に)
(B:待って、それって私を口説いてる?)
褒め言葉の意図をその場で確かめる場面です。劇中と同じ形で、声の調子ひとつで冗談にも牽制にもなります。
あわせて覚えたい関連表現
ask someone out
(〜をデートに誘う)
具体的に予定を申し込む行為を指します。その場での働きかけ全般を指す hit on someone と違い、次の約束を作る一歩なので、否定的な響きを持ちません。
flirt with someone
(〜と思わせぶりなやり取りをする)
関係を進める意図があるとは限らず、駆け引きそのものを楽しむ含みがあります。目的がはっきりしている hit on someone に比べると、一方向に押していく感じは薄くなります。
come on to someone
(〜に露骨に迫る)
hit on someone より押しが強く、相手が引いている場面で使われがちです。否定的な評価を含みやすいため、不快だった体験を語るときに選ばれます。
Note|言い寄り方を測る四つの目盛り
同じ「言い寄る」でも、英語には目盛りの違う語がいくつも並んでいます。並べて眺めると、それぞれが測っているものが見えてきます。
いちばん軽いのが flirt with someone です。目配せをする、冗談を交わす、少しだけ距離を詰める。関係を進めるかどうかは決めていないことも多く、その場のやり取りを楽しむ色があります。次が hit on someone。こちらは目的がはっきりしていて、相手に関心を持っていることを行動で示します。ただし押しの強さまでは決めません。三つめの ask someone out は、いちばん形がはっきりした一手です。金曜の夜、食事、映画。具体的な予定を差し出す申し込みなので、断られる形も明確になります。最後の come on to someone は、押しの強さが前面に出ます。相手が引いていても止まらない場面で選ばれやすく、語り手の評価がすでに入っています。
この四つを、押しの強さと目的の明確さという二本の軸で置いてみると、flirt は両方が弱く、ask out は目的だけが強く、come on to は押しだけが強い。hit on はちょうどその真ん中あたりに座っています。射程が広い代わりに、それだけでは温度が決まらないということでもあります。
劇中の Are you hitting on me? が確かめにいっているのは、まさにその温度でした。行為があったことは分かる。ただ、それがどの目盛りなのかは、言葉だけでは決まらない。
語が広いというのは、聞き手に読み取る余地を残すということなのでしょう。
まとめ|四語で答えるということ
hit on someone は、恋愛的な関心を示して相手に働きかけることを表す表現でした。うまくいったかどうかではなく、働きかけがあったという事実だけを指す。だからこそ、甘い場面にも気まずい場面にも同じ語が使えます。
Are you hitting on me? は、そのまま覚えておくと出番の多い一文です。声の調子を変えるだけで、冗談にも牽制にもなる。体験談として語るなら過去形で、繰り返しの迷惑を伝えるなら keep -ing で。形を三つほど持っておくと、話の温度に合わせて選べるようになります。
はぐらかす余地がいくらでもあった場面で、四語だけを返す。飾らない返事のほうが、ときに真っ直ぐ届くのかもしれませんね。


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