海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
もっともらしい説明を聞かされたのに、どうしても腑に落ちない。そんなとき、心の中で「いや、その話は無理があるでしょう」とつぶやいた経験はありませんか。
そんな場面で使われる「not buy it」を、『メンタリスト』シーズン3第4話から、元検事のテレビ司会者が出演者の主張を真っ向から退けるシーンを通して、一緒に見ていきましょう。
「not buy it」の意味とニュアンス
not buy it
意味:その話は信じない / 納得できない
buy の中心にあるのは「対価を払って手に入れる」という意味ですが、英語ではこの動詞が「相手の話や説明を受け入れる」という用法でも広く使われます。否定形にすると、差し出された説明を受け取らない、つまり「信じない」となります。
believe との違いは、疑いの方向がはっきりしている点にあります。I don’t believe it は驚きの表明にもなり、文脈によっては「信じられない!」という感嘆に転びます。一方 I don’t buy it は用途が疑いに絞られているため、誤解が生じにくい表現です。
もう一つの特徴は、一度受け取ってから返している点です。店先で商品を手に取り、裏返して値札を見たうえで棚に戻す。そんな検分の過程が含まれるため、頭ごなしの否定とは少し違った響きになります。だからこそ、相手の説明をひととおり聞いたあとの一言として収まりがよいのです。
【ここがポイント!】
- 説明を「商品」と見なして受け取りを拒む、それが not buy it の骨格
- believe と違って疑いに用途が絞られ、意図が誤解されにくい一言
- ひととおり聞いたあとに言うと、検分したうえでの判断として届く
『メンタリスト』S03E04のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
舞台はテレビ番組の収録現場。司会のカレン・クロスはかつて州の検察官で、いま話題になっている事件の有罪判決を勝ち取った当人でもあります。妻を殺された遺族マックス・ウィンターが「犯人を赦した」と語るのに対し、彼女は視聴者の前で正面から疑いをぶつけます。
Karen: But am I to understand you actually forgave Dahl before this so-called new D.N.A. evidence came to light?
(つまり、その新しいDNA証拠とやらが出てくる前から、あなたはダールを赦していたということですか)Max: It’s called reconciliation, Karen.
(それを和解と呼ぶんだ、カレン)Karen: Meh. Reconciliation?
(ふうん。和解、ねえ)Max: Yeah, reconciliation. In my case–
(そう、和解だ。私の場合は——)Karen: Oh, I’m familiar with what reconciliation means. Reconciliation is basically when family members of victims–they waltz over to the prison, they decide they’re gonna forgive this person who murdered their wife or children. I just don’t buy it, Max.
(和解の意味なら存じています。要するに被害者の家族がのこのこ刑務所へ出向いて、妻や子を殺した相手を赦すと決めることでしょう。私は信じませんね、マックス)The Mentalist Season3 Episode4 (Red Carpet Treatment)
シーン解説と心理考察
カレンにとって、この「和解」は他人事ではありません。自分が起訴し、有罪に持ち込んだ相手が、再鑑定によって釈放された。遺族が加害者を赦したと認めることは、自分の判断が誤りだったと認めることに限りなく近づきます。だからこそ彼女は退く選択をしません。
注目したいのは、否定にたどり着くまでの手順です。相手の言葉を復唱し、意味を確認し、自分なりの説明を組み立て、そのうえで最後に一言で切り捨てる。ひととおり検分してから棚に戻す、という not buy it の性質そのものをなぞった話し方になっています。
説明の途中で使われる waltz over(のこのこ出向く)という語選びも見どころです。刑務所へ足を運ぶという重い行為を、社交ダンスのステップのように軽い動作として描いてみせる。赦しという行為の重みを削ぎ落としてから否定する、元検事らしい組み立てが表れています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
相手が差し出した説明を、店先に並んだ商品だと思ってみてください。手に取り、ひっくり返し、値札を確かめる。そして棚に戻す。この最後の動作が not buy it です。
カレンがマックスの「和解」という言葉を一度丁寧に持ち上げてから手放す場面は、この動作をそのまま映像にしたようなものです。買わなかったのであって、見もしなかったわけではない。そこがこの表現の肝になります。
だから否定の前には、必ず検分の時間があります。相手の話を最後まで聞いてから使うと、この表現が本来持っている手触りが伝わります。商品を戻す手つきを思い浮かべておくと、口にするタイミングまで一緒に覚えられるはずです。
例文で覚える「not buy it」
言い訳、宣伝文句、うますぎる話。差し出されたものを受け取らないと決めた場面で活躍します。3つの例文で幅を見ていきましょう。
He says he was stuck in traffic, but I don’t buy it.
(渋滞にはまってたって言ってるけど、信じられないな)
遅刻の言い訳を聞いたあとの一言です。but でつなぐ形が定番で、前半に相手の主張、後半に自分の判断を置くと流れがはっきりします。
If you want me to buy it, show me the numbers.
(納得してほしいなら、数字を見せてください)
提案の根拠を求める場面です。肯定形で「納得する」の意味に使った例で、否定形とセットにすると buy の働きが立体的に見えてきます。
A: They claim the delay was unavoidable.
B: I don’t buy it. They knew about this last month.
(A:遅延は避けられなかったと主張しています)
(B:納得できないな。先月から分かっていたはずだ)
取引先の説明に疑問を持った場面です。理由を続けて添えると、単なる感情的な反発ではなく判断として伝わります。
あわせて覚えたい関連表現
I’m not falling for that
(その手には乗らない)
not buy it が説明の中身を疑うのに対して、こちらは相手の仕掛けに引っかからないという含みがあります。だます意図を前提にしている点が違いです。
That doesn’t add up
(辻褄が合わない)
話し手の判断を述べる not buy it に対して、こちらは事実関係の矛盾を指摘します。感情を挟まない分、より客観的な言い方になります。
Take it with a grain of salt
(話半分に聞いておく)
全否定ではなく、割り引いて受け取るという中間の態度です。相手を正面から否定しないため、not buy it より角が立ちにくい表現です。
Note|buy が「信じる」を意味するようになるまで
not buy it を初めて見たとき、なぜ「買う」が「信じる」になるのだろうと引っかかった方は多いはずです。この飛躍には、英語ならではの発想が隠れています。
buy の中心義は、対価を払って何かを手に入れることです。そこから「主張や説明を受け入れる」という用法へ広がったのは20世紀のアメリカ口語だとされています。背景にあるのは、話し手が説明を差し出し、聞き手がそれを受け取るかどうかを判断する、という取引の構図です。説明は商品であり、聞き手は買い手である。この見立てが定着した結果、buy が「受け入れる」を担うようになったと説明されます。
この発想は buy 側だけにとどまりません。sell にも「売り込む、説得する」の用法があり、He sold me on the idea(彼にその案を説得された)、That’s a hard sell(あれは説得が難しい)といった言い方が並んでいます。買う側と売る側の両方に対応する用法があることが、この比喩が単発の思いつきではなく体系として根を張っていることを示しています。
英語には他にも、商取引の語彙が対人関係に転用された例が数多くあります。deal(取引・対応する)、bargain(交渉・掘り出し物)、the price you pay(その代償)など、日常会話に取引の言葉が溶け込んでいます。議論や説得を一種の交渉として捉える感覚が、言語の側に組み込まれていると言えます。
こう見てくると、I don’t buy it が単なる「信じない」よりも具体的な手触りを持っていることが分かります。差し出されたものを検分し、値段に見合わないと判断して返す。カレンがマックスの説明に対して取った態度は、まさにこの買い手の振る舞いでした。
説明にも値札がついている。そう考えると、この表現の見え方が少し変わってきます。
まとめ|受け取らないという判断
not buy it は、相手の説明を商品と見なし、その受け取りを断る表現です。信じないという結論だけでなく、一度手に取って確かめたという過程が含まれている点が、この言い回しの持ち味になっています。
腑に落ちない説明を前にしたとき、頭ごなしに否定するのではなく、聞いたうえで判断したと伝えられる。会話の中でこの違いは決して小さくありません。
差し出された話を受け取るか、棚に戻すか。その判断を一言で表せる表現として、英語の引き出しに加えてみてください。


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