海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
引き受けたはいいけれど、本当に自分にできているのか分からない。周りは褒めてくれるのに、手応えだけがない。そんな時期を過ごしている人がいます。
そんな心もとなさをそのまま言葉にできるのが「pull it off」です。『メンタリスト』シーズン4第20話、聞き込みのために高校を歩き回るジェーンが、講堂で稽古中の生徒と出会う場面から、一緒に見ていきましょう。
「pull it off」の意味とニュアンス
pull it off
意味:(難しいことを)うまくやってのける
pull off は、簡単ではないこと、失敗してもおかしくないことを、それでも成功させたときに使う表現です。日本語の「できた」よりも一歩踏み込んでいて、「よくやり切ったものだ」という評価がセットで乗ってきます。
だから、誰でもできる作業には使いません。準備時間が足りなかった、条件が悪かった、経験がなかった。そうした不利をくぐり抜けた先の成功を語るときに選ばれる言葉です。目的語が短い代名詞なら pull it off、長い名詞なら pull off the presentation のように後ろに置くのが自然な形になります。
もうひとつ覚えておきたいのが、服装や役どころについて使う用法です。Not everyone can pull off that jacket. と言えば、その服を着こなせる人は限られる、という意味になります。着せられているのではなく自分のものにできているか、を問う言い方です。劇中のように否定形で使えば、自信のなさを控えめに口にする一言にもなります。
【ここがポイント!】
- 核は「難しいことを成功させた」。達成と称賛が一語に同居している表現
- 服装や役どころに使うと「着こなす」「様になっている」の意味に広がる
- 否定形にすると、謙遜や自信のなさをやわらかく伝える一言になる
『メンタリスト』S04E20のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
事件の捜査で高校に入ったジェーンは、聞き込みの合間にひとりで校内を歩き回ります。たどり着いた講堂では演劇部が公演の稽古中で、幽霊役を任された生徒ジェレマイアが声をかけてきます。名乗りを終えた生徒に、ジェーンが軽く一言。返ってきた答えに、この年頃の心もとなさがそのまま出ています。
Jane: Cop-adjacent, maybe. Are you in the play?
(警察の隣くらいかな。君は劇に出るの?)Jeremiah: Yeah, I am. I’m Jeremiah. I play the ghost.
(はい、出ます。ジェレマイアです。幽霊の役を。)Jane: Sounds cool when you say it.
(君が言うと格好よく聞こえるね。)Jeremiah: Ah, thank you. I’m not sure I’m pulling it off.
(ありがとうございます。うまくできてる自信はないんですけど。)The Mentalist Season4 Episode20(Something’s Rotten in Redmund)
シーン解説と心理考察
褒められた直後に自信のなさを差し出す、という順番がこの場面の要です。ジェレマイアはお礼を言い終わらないうちに、話を折り返しています。相手を信頼しはじめた合図として響く返しです。
ジェーンの側は、警察かと問われて Cop-adjacent(警察の隣くらい)とはぐらかし、すぐに相手の話題へ舵を切っています。名乗らせ、褒め、警戒を解く。捜査対象へ近づくときにジェーンが繰り返し使う手順が、生徒相手にもそのまま適用されている点が見どころです。
このあとジェレマイアは、オーディションを受けた本当の理由まで自分から明かします。褒められて、少し打ち解けて、口が軽くなる。そのわずかな変化が pull it off という一言をきっかけに始まっているところに、この場面のうまさがにじみます。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
手品師が帽子の中へ手を入れる場面を思い浮かべてみてください。何が入っているかは客席から見えません。正しいタイミングで、正しいものを引き出せて、はじめて芸として成立します。pull off の pull は、この引き出す動作そのものです。
舞台に立つジェレマイアも、役という見えない何かを自分の中から引き出そうとしています。手応えがないというのは、まだ帽子の中を探っている状態にあたります。服装について pull off を使うときも同じで、その服を自分の側へ引き寄せられているかどうかが問われています。引き出す手の感覚ごと覚えておくと、仕事にも服装にも同じ形で応用できます。
例文で覚える「pull it off」
難しい仕事をやり切った場面でも、服装が様になっているかを言う場面でも使えます。3つの例文で幅を確かめていきましょう。
I didn’t think we could finish in a week, but somehow we pulled it off.
(一週間で終わるとは思わなかったけど、なんとかやり遂げた。)
無理だと思っていた予定をやりきったと報告する言い方です。somehow を添えると、綱渡りだった感じが自然に出ます。
She pulled off the presentation even though she had almost no time to prepare.
(準備の時間がほとんどなかったのに、彼女はプレゼンをやってのけた。)
同僚の仕事ぶりを評価して伝える場面。目的語が長いときは pull off ~ の語順になる、という形の確認にもなります。
A: Are you really going to wear that hat to the party?
B: Watch me. I can totally pull it off.
(A:そのハット、本当にパーティーにかぶっていくの?)
(B:見ててよ。ちゃんと着こなせるから。)
服装をめぐる友人同士の軽口です。着こなす用法では、自信の宣言としてこの形がよく使われます。
あわせて覚えたい関連表現
manage to do
(なんとか〜する)
困難があった点は同じですが、こちらは事実を淡々と報告する語です。pull it off には「見事だ」という評価が加わるぶん、温度が高くなります。
carry it off
(うまくやってのける)
ほぼ同義で、特に立ち居振る舞いや服装が様になっている場合に使われます。イギリス英語で見かけやすい形です。
nail it
(完璧にこなす)
出来ばえが申し分ないことに焦点があります。pull it off は「危なかったが成功した」場合も含むため、余裕の有無で選び分けられます。
Note|同じ pull off が「やってのける」と「路肩に寄せる」に分かれる理由
pull off を辞書で引くと、成功のほかに車を道端に寄せる、貼ってあるものをはがす、といった意味が並びます。まったく別の言葉が三つ同居しているように見えますが、実は同じ一つの動きから枝分かれしています。
共通しているのは「本来あった流れや面から引き離す」という動作です。走行車線という流れから車を引き離せば、路肩に寄せるになります。壁という面からシールを引き離せば、はがすになります。そして、うまくいかないのが自然な状況という流れから結果を引き離せば、やってのけるになります。三つとも pull(引く)と off(離れて)の組み合わせのままで、何から引き離すのかだけが違います。
見分け方は目的語で決まります。目的語が車や運転者なら道路の話、目的語が貼付物なら物理的にはがす話、目的語が計画・仕事・役どころなら成功の話です。We pulled off the highway. と We pulled off the deal. は、動詞句の形が同じでも、the highway と the deal という一語で読み手が瞬時に判別しています。日本語なら「寄せる」「はがす」「やってのける」と別々の動詞を用意するところを、英語は目的語に判別を任せているわけです。
劇中のジェレマイアが言う I’m not sure I’m pulling it off. も、it が指しているのは幽霊という役です。役という難所から結果を引き離せている自信がない、と読むと、この一文の骨格がはっきりします。
一つの動きを、どこから引き離すかで語り分ける。そういう作りの言葉です。
まとめ|「なんとかやり切った」を一言で
pull it off は、失敗してもおかしくない状況から結果を引き寄せたときに使う表現です。達成の報告と、それを称える評価が一語に収まっている点が、この言葉の便利さと言えます。
仕事をやり切ったとき、服装が決まったとき、あるいは自信がないと控えめに伝えたいとき。どの場面でも同じ形のまま使えるので、覚えておくと会話の中で出番が多くなります。
手応えのない夜を越えた翌朝に使いたくなる言葉として、表現の引き出しに加えてみてください。


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