海外ドラマを使って英語表現を学ぶ『ドラマdeエイゴ』へようこそ。
目的のためなら何でもやる人が、職場にひとりはいるものです。頼もしいと感じる日もあれば、少し距離を置きたくなる日もある。評価の振れ幅が大きい相手だと言えます。
そんな人物を一言で言い表す「stop at nothing」を、『メンタリスト』シーズン5第21話の前半、内務担当官ラロッシュがジェーンの捜査手法を評するシーンから、一緒に見ていきましょう。
「stop at nothing」の意味とニュアンス
stop at nothing
意味:目的のためには手段を選ばない
直訳すると「何の前でも立ち止まらない」。障害があっても、ためらう理由があっても、そこで足を止めない、という言い方です。
日本語の「手段を選ばない」とほぼ同じ守備範囲を持ちますが、英語のほうは動きのイメージが強く残っています。進んでいく人の前に何かが置かれても、その人は止まらない。倫理や規則も、その「何か」に含まれます。
後ろには to do の形が続くのが基本です。stop at nothing to win なら、勝つためなら何でもする。for を使って stop at nothing for money のように目的物を置くこともできます。
評価の向きは文脈しだいです。決意の強さを称える褒め言葉にもなりますし、良心の欠如を指す非難にもなります。どちらで言っているかは、話し手の口調と前後の文で決まります。この振れ幅の大きさが、この表現のいちばんの特徴です。
【ここがポイント!】
- 核にあるのは「前に置かれた何ものにも足を止めない」という動きの絵
- 褒め言葉にも非難にもなる、評価の向きが定まっていない一言
- 何のためにそこまでするのかを to do で添えると形が決まる
『メンタリスト』S05E21のシーンで見てみよう
意味を押さえたところで、実際のドラマシーンを見ていきましょう。
CBI 内部に情報を漏らしている人物がいる。そう疑うラロッシュが、ジェーンに協力を求めて事情を説明します。有力な容疑者が次々に逮捕を免れているのに、ジェーンだけは気づいていなかったと言う。その理由を、ラロッシュが独特の言い回しで指摘します。褒めているのか責めているのか、聞いていて判断がつかない一言です。
Jane: Really? Haven’t noticed.
(そうなんですか? 気づきませんでした。)LaRoche: Well, that’s because you stop at nothing to close cases for your team.
(それは君が、チームのために事件を落とすなら手段を選ばないからだ。)Jane: Why, thank you.
(これはどうも。)LaRoche: Other CBI agents, they have, uh, principles.
(ほかのCBI捜査官には、その、原則というものがあるのでね。)The Mentalist Season5 Episode21 (Red and Itchy)
シーン解説と心理考察
二人の距離感が、この短いやりとりに凝縮されています。ラロッシュの言葉は、表向きは事実の説明です。ジェーンが情報漏洩に気づかなかったのは、彼が結果だけを見ているからだ。理屈としては筋が通っています。
ところが、ジェーンはそれを褒め言葉として受け取り、礼を返します。すると、ラロッシュはすかさず「ほかの捜査官には原則がある」と言い添える。この一手で、先ほどの発言が非難だったことが確定します。二人の呼吸の速さが会話の温度を変えている場面です。
面白いのは、どちらも本気で怒っていないところです。ラロッシュはジェーンの手法を必要としており、ジェーンもそれを分かっている。皮肉の応酬が、協力関係を確認する手続きとして機能しています。stop at nothing という評価の定まらない表現が選ばれているのも、この関係の曖昧さと重なっています。互いに一線を越えないまま、言いたいことは全部言う。そういう間柄が表れています。
『メンタリスト』流・覚え方のコツ
廊下を早足で進む人の姿を思い浮かべてください。前に椅子が置かれても、立て札が出ていても、その人は速度を落としません。stop at nothing は、この「何が置かれても止まらない」という一枚の絵そのものです。
劇中では、その速度こそがジェーンの持ち味であり、同時に弱点でもあると指摘されています。結果に向かって最短距離を走るから、途中に落ちているものが目に入らない。だから内部の異変にも気づかなかった、という論法でした。止まらない人には見えないものがある。この対比までセットで覚えておくと、褒め言葉としても非難としても、どちらの向きでも自然に使えます。
例文で覚える「stop at nothing」
人物評として使われることが多く、主語には人も組織も置けます。3つの場面で見ていきましょう。
She’ll stop at nothing to get what she wants.
(彼女は欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばない。)
共通の知人について話す場面です。to 以下に目的を置くのが基本の形で、この一文だけで相手の性格が伝わります。
The company will stop at nothing to protect its reputation.
(その会社は評判を守るためならどんな手でも使う。)
業界の動きを説明する場面です。主語を組織にすると、個人の意志ではなく方針として動いている冷たさが出ます。
A: He apologized again this morning.
B: Careful. He’ll stop at nothing to get back on the team.
(A:彼、今朝また謝ってきたよ。)
(B:気をつけて。チームに戻るためなら何でもする人だから。)
同僚に注意を促す場面です。会話の中では、相手の行動の裏を読む警告としてよく登場します。
あわせて覚えたい関連表現
do whatever it takes
(何としてでもやり遂げる)
必要なことは全部やるという前向きな決意を表し、非難の含みはほとんどありません。stop at nothing が超えてはいけない線まで越える可能性を残すのに対して、こちらは線の内側にとどまります。
at all costs
(どんな犠牲を払っても)
支払う代償の大きさに焦点があります。stop at nothing が止まらない動きを描くのに対して、こちらは何を失ってもかまわないという計算の話になります。
draw the line at
(〜だけはしない)
自分で越えない一線を引く、という正反対の表現です。stop at nothing の対になる言い方として並べて覚えると、両方の輪郭がはっきりします。
Note|「手段を選ばない」を強さの順に並べる
日本語の「手段を選ばない」に対応する英語はいくつもあり、どれを選ぶかで話し手の評価がはっきり変わります。近い4つを並べて整理してみましょう。
いちばん中立に近いのが do whatever it takes です。必要なことをすべてやる、という意味で、スポーツの精神論や仕事の決意表明でも使われます。倫理を踏み越える含みは薄く、むしろ称賛の場面に出てきます。
次が at all costs で、こちらは支払う代償に目が向いています。cost という語がある分、何かを失う前提が入り、Protect the witness at all costs. のように命令の形で使われることが多くなります。
stop at nothing になると、評価が揺れ始めます。止まらないこと自体を描く表現なので、称賛にも非難にも転びます。劇中でラロッシュがこの語を選び、直後に「原則」という言葉を置いたのは、揺れている部分を非難の側へ寄せる操作でした。
最も強いのが by any means necessary です。政治的な文脈で使われた歴史があり、暴力的な手段まで視野に入れた響きを持ちます。日常会話で軽く使うと、意図した以上に重く受け取られる語です。
つまり4つは、決意・代償・評価の揺れ・強度という別々の軸で並んでいます。stop at nothing が置かれているのは、褒めることも責めることもできる、ちょうど真ん中の位置です。
同じ意味の言葉が複数あるとき、選ばれなかったほうにも情報が残っています。
まとめ|褒め言葉の形をした、静かな非難
stop at nothing は、目的のために足を止めない姿勢を表す言い方です。何が置かれても進み続けるという動きの絵が核にあり、その動きを称えるか責めるかは、話し手の側に委ねられています。
覚えておくと、人物評の解像度が上がります。「必死だ」「熱心だ」と言うかわりに、どこまで行く人なのかという射程ごと一語で示せるからです。to do を添えれば、その人が何のために走っているのかまで一文に収まります。
褒め言葉の形を借りて、相手の一線の無さを指摘する。ラロッシュの一言は、評価の定まらない表現だからこそ成立した皮肉と言えます。


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